第142話 褒め殺し
リザードマンキングが放ったブレスは……非常に効率的なものだった。
広範囲に全てを焼き尽くすタイプではなく、範囲を狭めてヒットする範囲を狭めた代わりに貫通力が増した。
その証拠に、放たれたブレスは地面を十メートル近く貫通。
優れたパーティーの盾の役割を担うタンクであっても、受け方を間違えれば即死の一撃である。
「ヌゥァッシャ!!!!!!!!!」
「っ!!!!!!!!」
だが、現実として……頭を消し飛ばしたはずのイシュドは生きており、逆に蹴りを腹に叩きこんだ。
(やはり、この男は底が知れないなっ!!!!!)
あの一瞬、イシュドはまだ痺れていた手で、下から空を思いっきり叩いた。
その結果、再び手が使えない瞬間が伸びたとしても、構わない。
自ら着地など無視して無理矢理急降下し、背中から地面に激突するも、なんとか貫通力激上がりのブレスを回避することに成功。
「オラオラオラオラオラオラーーーーッ!!!! 上げてけぇよッ!! こっからが本当のクライマックスだッ!!!!!!!!!」
「望む、ところだッ!!!!!!!!」
過去に両腕が数秒間使えないという経験をしたことがあり、その時は脚や魔力だけで対応せざるを得なかった。
その経験から、訓練時に脚と魔力だけで戦うといったアホ過ぎる訓練を行っていたイシュドは腕の痺れが治るまでの間、リザードマンキングを相手に本当に脚と魔力だけで対応しきった。
そして腕の痺れが治れば一転して攻めだけに集中する……ことはなかった。
「シッ!!! ヌァリャ!!! ハッ!! ゥオラッ!!!!」
(この人間……ふ、ふっふっふ。俺たちよりも小さい、者が望んでいるのだ。王が……リザードマンの王たる俺が逃げてどうするッ!!!!!!)
普通に戦略的に、仕留める為に攻めれば……三十秒と経たず、イシュドは勝利を収めることが出来ていた。
にもかかわらず、イシュドは仕留める為に攻めるのではなく、ただただ……目の前の強者と己の力をぶつけ合う為に、リザードマンキングが繰り出す攻撃に合わせ、迎撃していた。
当然ながら、後方で最高の戦いを観ていたガルフたちは、勿論眼は逸らしていない。
逸らしていないが……ほんの数秒だけ、眼が点になってしまった。
「イシュド様らしいな」
「なっはっは!!!!! 確かに、あの人らしいね~~。まっ、あんなやり方でも勝つのが、イシュド様なんだけどな」
既にオークキングとコボルトキングとの戦闘を終えたリストとレオル。
レグラ家に仕える騎士としては、そういった無茶でバカな戦い方は止めてほしい……なんて思いはリストの中に欠片もなく、呆れの気持ちなど一切なく、心の底からイシュドらしいと思っていた。
「征服、叶わず、か……ふ、ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!!」
「へっ……おい。俺との殺し合いは、楽しかったか?」
イシュドと攻撃をぶつけ合ったリザードマンキングの両拳は砕け、片脚の骨も砕けており、立っているのがやっとの状態。
しかし、それはイシュドも似た様な状態であった。
「勿論だ、強き人間よ。お前の様な強者と戦えただけで……俺がこの世に生まれた意味があったとすら思える」
「おいおいおい、そりゃ俺にとっちゃ最高の褒め殺しだけどよ、種族の王たるお前がそんなこと言っちまって良いのかよ」
「構わんだろう。だから、俺は同族を捨てた。結局のところ、俺は……俺たちは王の器ではなかったのだ」
「根は戦士のままだったてか? へっへっへ、クソエゴイストな野郎どもだ。まっ、俺はそういう連中はクソ大好きだけどな」
「ふっふっふ……楽しかったぞ、人間よ」
「あぁ、俺もだよ」
右手に纏う旋風の刃を伸ばし、リザードマンキングの首を斬り落とした。
(楽しかったのは嘘じゃねぇんだが、俺との戦いを楽しめたから、実質俺の人生の勝ちだ、って言われた感じだな)
何はともあれ、過去一ヤバいと感じた状況を無事打破することに成功。
(そういえば、あいつらちゃんと余波食らったりせずに無事なんだろうな)
ガルフたちは本当に無事なのかと思いながら後ろを振り向くと……レグラ家に仕える騎士や魔術師たちはリストと同じ感覚を持っているが、彼らの表情はかなりバラバラだった。
呆れ顔を浮かべている者もいれば、素直に感動、興奮している者もいた。
「おぅ、待たせたな」
「お疲れ様です、イシュド様」
「そっちもお疲れ。どうよ、オークキングは強かったか?」
「えぇ、想像以上の強さでした。オークという種族の性質上、どこか下に見ていましたが……彼は戦士でした。まぁ、正確には良い意味で己の欲に忠実な戦士ですが」
オークと言う種族を褒めるなど、世の全ての女性から責められるかもしれない。
レグラ家所属の騎士の中でも割と冷静なタイプであり、それが解らない男ではなかった。
それでも、彼は先程まで死闘を演じていたオークの王を戦士だと認めた。
「レオルもわざわざ駆けつけてくれてありがとな」
「マジで偶々っすよ、偶々」
「そんで、俺らが助かったことに変わりねぇよ。ありがとな」
「……へっへっへ。そんなら、ありがたく受け取っときますよ」
「そうしてくれ」
激闘を終えて笑い合う三人に、クリスティールが代表して近づき、礼を告げた。
「本当に、ありがとうございます」
口にしたのは助かりました、ではなくありがとうございましたという感謝の言葉だった。
「おいおい、会長パイセン、わざわざ頭なんか下げんなって。ぶっちゃけさ、俺は是非とも戦りたかったから戦っただけだからよ」
「それでも、です。あれほど貴重な……最高の戦いを観ることが出来たのは、間違いなくイシュド君たち三人がいたからです」
イシュドとしては、何名かは勝手に来たものの、自分が提案して実戦に参加させていた友人たちを死なせる訳にはいかないという思いもあった。
「律儀だね~、会長パイセンは。それはそれで良いところなんだけど」
その後、イシュドたちはそのままリスト達と街に……戻らず、まだ時間的に余裕があるため、実戦を続けた。
確かにイシュドはリザードマンキングとの戦闘で切傷だけではなく打撲や骨にヒビも入っていたが、怪我や消費した魔力はポーションを飲めば問題解決。
体力に関しても……あれだけ最高の死合いができたことで、逆にまだまだこれからいくらでも戦える、と思ってしまうほどある意味万全な状態だった。
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