第132話 初の相手は

「よぅ」


帰宅後、シャワーを浴びる前にイシュドは先日、元オーガと遭遇した騎士たちの元へ向かい、一つの首を地面に置いた。


「今日、運良く遭遇できたから、ぶっ殺しといたぞ」


「え、えっと…………い、イシュド様、このオーガ……角が一本しかないのですが」


「だな。実はな、俺と戦ってる時に進化したんだよ」


「「「「「っ!!!???」」」」」


騎士たちが驚くのを無視し、今日何が起こったのかを軽く説明した。


「そ、そんな事が、あったのですね」


「おぅよ。もし、あのオーガがもう一年か半年、野性で鍛えて強くなってたらと思うと……へっへ、久しぶりに震えるぜ」


イシュドが震えるほどの強さを持つモンスターが、生まれていたかもしれない。


最悪の光景を想定して……悪い意味で震える者は、この場にいなかった。


「……イシュド様。次、こいつと似た様なモンスターが現れたら、その時は絶対に俺達だけでぶっ殺します」


「へっ、はっはっは!!!!! そうこなくっちゃな。まっ、俺が伝えたかったのはあの元オーガをぶっ殺せたってことだけだ。んじゃ、邪魔したな」


彼等が自分たちを撤退に追い込んだモンスターを、自分に倒して欲しいと願っていた、とは思っていなかった。


寧ろ、余計なお世話だったかもしれない。

それでも……イシュドは彼等に、あのオーガはぶっ殺したぞと、伝えておきたかった。



「あぁ~~~~、相変わらず体バキバキだぜ~~」


夕食を食べ終え、食後の訓練も終えたフィリップは爺臭い声を出しながら入浴の快楽を味わっていた。


「にしても、イシュドよぉ。あの剣鬼って元オーガ、Aランクだったんじゃねぇの?」


「そういえばそうだったかもな」


「お前なぁ……ちょっと反応が軽すぎないか?」


ダスティンやアドレアスも同じ事を思った。

いくらなんでも、反応が薄すぎると。

しかし、直ぐに何故ここまで反応が薄いのか、答えが解った。


「イシュド君、もしかしなくても、過去にAランクのモンスターと戦ったことがあるよね」


「おぅ、あるぞ。あれは……ギリギリ、三次転職する前だったか?」


サラッと口にする内容に頭が混乱しそうになるが、フィリップたちは、イシュドという存在に常識は通じないことを思い出し、無理矢理イシュドだからと納得して話を進める。


「学園に入学する前のことだよね。なんと言うか……良く勝てたね」


「レベル三十…………後半ぐらいだったか? それぐらいの相手だったからな。まっ、ギリギリなんとか勝てたって感じだったなぁ~~」


「因みに、どんなモンスターが相手だったのだ」


「……信じるか信じないかはお前らの勝手だから言うけど、オークパラディンってモンスターだ」


「「「「「…………」」」」」


ヴァルツ以外の五人は、どういったAランクモンスターなのか理解するのに十秒ほど時間が掛かった。


「イ、シュド。今……パラディンと、言ったのかな」


「そうだよ。オークパラディンだ。言っとくが、昔うちの実家に仕えてた聖騎士の職業に就いてた奴のアンデッドとか、そういうのじゃねぇから」


オークパラディン。

それがイシュドが初めて戦ったAランクのモンスターだった。


「オークって、あのオークなのか?」


「そうだよ、あのオーク。つっても、他のオークと比べて腹はたるんでなくて、寧ろムキムキなマッチョ……今日戦った元オーガみたいな感じだったな」


オークがムキムキのゴリマッチョボディを持っている。

それだけでも色々と笑えてしまうのだが、オークがパラディン……聖騎士の名を得ているなど、思考力が柔らかいフィリップでも直ぐに受け入れられなかった。


「待って……イシュド、ちょっと待ってくれ」


「あぃよ。いくらでも待ってやるよ。でも、のぼせるのは勘弁だから、なるべく早くしてくれよ」


「お、おぅ……………………ん~~~~~、無理だ。訳解らねぇ」


「フィリップ、考える事を投げ捨てるには、さすがに早過ぎないかい。今日、私たちは目を疑いたくなる光景を見ただろう」


「オーガが剣鬼に、二振りの大剣が野太刀になったやつか? 確かに非常識な光景だったのは間違いねぇけど…………なぁ、アドレアス。あの時イシュドが説明してくれた内容に照らし合わせるなら、オークに信仰心があるってのを認めることになるぞ」


「っ、それは…………」


非常に面白い顔をしながら悩むアドレアス。

それは彼一人だけではなく、ダスティンやディムナも同じだった。


「ってことになるよな、イシュド」


「ん~~……いかにも武骨、性行為どころか致した経験する一度もない、って感じの顔してたな」


「ぶふぉ!!!!!」


いきなりぶっこまれた新情報に、笑わずにはいられないフィリップ。

因みにヴァルツも既に知識自体はあるため、一人だけ置いてけぼりになることはなかった。


「つっても、何かが要因で神という存在を認識したのか、それとも……オークという種を守りたい気持ちが現れたのか」


「守りたい気持ち、か。私としては、そちらの方がまだ納得出来ますね」


「俺も同じだ……いくら俺たちと常識が違う存在とはいえ、モンスターが信仰心を持つというのは………………中々、納得は出来ないな」


「俺も疑問なクソほど湧いてきたよ。ただ、俺が初めて戦ったAランクモンスターの名前はオークパラディンって名前だった。それは間違いねぇ。付け加えるなら、そいつはロングソードとタワーシールド……よりは少し小さめの盾を持ってた。んで、がっつり聖光を纏ってたぞ」


「「「「「…………」」」」」


ガルフも含めて、中々イシュドが戦ったであろうオークの聖騎士がイメージ出来ない。


「と、とりあえず世の中、まだまだ解らねぇことだらけってのは解った。んで、そのオークパラディンとの戦いはどんな感じだった」


「バチバチの殺し合いだったよ。マジで生きるか死ぬかの戦いだった。バーサーカーソウルを使って、強化効果が付与されてるマジックアイテムを装備しても、中々押し切ることができなかった」


「っ、それもそれで、上手く想像出来ないね」


「さっきも言ったが、そん時俺は三次職に転職してなかったからな。最後は……そうだった、腕一本を犠牲にしてなんとか盾ごと戦斧でぶった斬ったんだったな」


イシュドにとって、オークが聖騎士になっていようが、それはどうでも良い事だった。

ただ、これまでの戦いの中で、ベスト五に入る死闘だったのは間違いなく、思い出す度……笑みが零れていた。

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