第120話 仕方ないと思ってしまう
「ふぅ~~~。まっ良い感じに戦れたかな」
死体を回収したイシュドは意気揚々とガルフたちの元へ戻る。
「おぅ、観てたか?」
「う、うん。ちゃんと観てたよ」
「はっはっは! そりゃ良かった」
「なぁ、イシュド。もしかしなくても、わざと俺たちが使う得物を使って戦ったのか?」
フィリップの質問に、当然といった表情で頷く。
「おうよ。だって、お前らからケルベロスと戦える機会を奪ったからな。代わりに、次ケルベロスと戦う時はこんな感じでたたかったらどうだって感じでな。イメージがあるのとないのとじゃ、色々と変わってくるだろ」
もっともらしい理由であり、普通はそんな事意識して戦うか? と首を捻りたくなるが、実際のところイシュドにはそれが出来てしまうだけだの実力があることをフィリップも解っている。
ただ……イシュドとしては、ケルベロスが相手なら、本気と遊びを混ぜ合わせた精神状態で挑み……尚且つ得意ではない得物で挑むぐらいが丁度良く、実際あと一歩で喉元に牙や爪が届く機会が何度かあった。
「俺としては別にあれだったんだが……よくやるな~、お前は」
「へっへっへ、伊達に戦いに明け暮れてねぇって話だ」
百戦錬磨の経験と地力の強さがあってこそ見せた背中。
兎にも角にも、今回の戦いはガルフたちに小さくない衝撃を与え……更に彼らの心の火に薪をくべた。
(…………今は、やはり集中しないといけませんね)
ふと、頭に考えが過った。
しかしそこは最年長であり、生徒会長。
クリスティールは一旦その考えを片隅に押し込み、これから出会うモンスターとの戦いに集中し……大怪我を負うことなく、その日を追えた。
「クリスティール、何か考え事でもあるのか」
「ふふ、気付かれてしまいましたか」
狩りを終え、夕食を食べ終え……変らず疲れ、眠気が襲い掛かる体に鞭を打ち、訓練場に足を向ける。
そんな中、狩りの途中から考え事をしていたクリスティールに声を掛けたダスティン。
「……元々、ミシェラは己の才に溺れることなく研鑽を重ね、フィリップもイシュド君と出会ってから真面目に訓練に取り組むようになりました」
「ガルフは……元はどうだったか知らないが、彼もイシュドと出会って変わったタイプなのだろう」
「そうだと聞いています。加えて、彼は激闘祭で強敵との試合の中で、一皮むけました……もう、彼を運良く試験を突破出来ただけの平民とバカにすることはないでしょう」
一般的に考えればクリスティールの言う通りなのだが、世の中……どうしてもバカが自分の事をバカだと気付かず、バカな行動を取ってしまうのは決して珍しくない。
そんな事は二人とも解っており、そこら辺を自分たちがどうこうしようとしても無駄だということも解っている。
「イブキの実力も一級品です。今年の激闘祭に参加していれば……結果は色々と変わっていたかもしれません」
「すぅーーーーーーーー…………クリスティールよ、少しそちらの一年には有望株が集まり過ぎていないか?」
まだ本題には入っていないが、ダスティンはその前に疑問を持たざるを得なかった。
「ふふ、そうかもしれませんね」
フラベルト学園には決勝戦でフィリップと激闘を繰り広げた王族の一人、アドレアスもいるため、他校のダスティンがツッコんでしまうのも無理はない。
「それで、私が悩んでいたことなのですが…………私は、私は良いのです。もう、来年には卒業して騎士団に入団するので」
「……ふむ、そうだな」
留年、という制度が元々なく、そもそもクリスティールは戦闘面だけではなく学業面も非常に優秀であるため、うっかり卒業出来ないといった奇跡? が起こる可能性は万に一つ……億が一つ、あり得ない。
「そうなると、増々同学年の者たちとの差が開き過ぎると思って」
「なる、ほど…………ぬぅ。その一件に関しては、この場に来てしまった俺も考えなければならない悩みだ」
ダスティンは三年生ではないが、ガルフたちと同じ一年生ではなく二年生。
そして来年には三年生……最上級生になる。
生徒会長になるかはさておき、二年生での激闘祭トーナメントで優勝したダスティンは、間違いなくサンバル学園の生徒たちを引っ張る存在となる。
そんな学園の中心人物が更に強くなることは……サンバル学園の教師たち、上層部の人間たちにとっては非常に好都合。
しかし……同学年の者たちにとっては、この上なく不満が溜まる。
「イシュド君から言われたことを忘れてはいません。卒業すれば関係無い……というのは少し乱暴で無責任かもしれませんが、それでもあまり気にする必要はありません」
生徒会長ではあるが、全在校生たちの未来まで細かく考える必要はない。
よくよく考えてみれば、どう考えても頭がパンク、オーバーヒートする未来しか見えない。
それが解り、ほんの少し心が軽くなり、余裕が生まれた。
ただ……此処で、レグラ家で過ごす日々は、ほんの少し……いきなり大幅にではないが、それでも確実に自分が前に進めているという実感を感じられる。
「ただ、そのですね…………あまりにも、良い環境で強くなることが出来ていると言いますか」
「うむ……うむ。言いたい事は非常に良く解る。一か月弱という期間ではあるが……ここでの経験は、俺の人生にとって宝になる。それは、間違いない」
「私も、同じですよ」
思わず笑みを零すも、直ぐに引っ込めて問題の内容に意識を向ける。
「ですが、当然……これを贔屓だと、不公平だと口にする者たちが現れるでしょう」
「間違いない。正直なところ、俺は同学年の者たちにそう思われても仕方ないとすら思う」
贔屓だ……確かに、イシュドが実家に来て共に夏休みを過ごしても構わないと思った者たちは、大なり小なり好意があるから。
不公平だ……レグラ家には、強くなる為の環境が非常に整っている。
誘ってくれた人物、イシュドも野蛮で力任せに見え、クソデリカシーがないのは事実だが、それでもラインの見極めよというのは出来る。
ここに来てからの生活を思い出し、再度やはり自分たちは幸運だと……共に夏を過ごすことを受け入れてくれたイシュドに感謝する。
ただ、それと同時に二人は同じタイミングで、ある考えに至った。
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