第107話 興味を持たれる嬉しさ

(っ……本当に、底の見えない方ですね)


長い長いタッグ戦の試合を終えたイブキたちは、今日は夕食前にシャワーを浴びることができ、体に鞭を打って夕食後の訓練も行う。


そんな中、イシュドはガルフたちの相手をする……もしくは夜の森に入って狂暴性が増しているモンスターと戦うわけではなく、一人別の訓練場で瞑想を行っていた。


「ん? イブキか。何か用か」


「いえ、その…………イシュドも、瞑想などをするのですね」


「はっはっは! 驚いたか?」


「正直に言うと、驚きました。あなたと、あなたの曾お爺様が戦うところを見ましたので」


鬼神、という言葉を彷彿とされるオーラ、覇気を全力で開放しながら戦う姿は、今も脳裏に焼き付いている。


「だからこそ、あなたが瞑想を行う光景は、とても珍しいものに感じました」


「だろうな。個人的な感想だが、戦いの最中……何も考えず、最適な攻撃を繰り出せるのが一番良いと考えてる。だからこそ、無心になるのも強くなる為の一つに繋がる……って、俺は思ってるけど、こういう考えを持ってんのはレグラ家の中でも珍しいっぽいんだよな~」


「……私は、イシュドの考えに賛同します。よければ、私も一緒に瞑想しても良いでしょうか」


「おっ、マジ? 良いぜ良いぜ、一緒に瞑想しようぜ」


こうしてイシュドと一緒に瞑想を行うことしたイブキだが……瞑想を始めてから数分後、先程よりもイシュドの存在感が増している事に気付いた。


(っ、闘志や戦気、覇気が零れている、わけではない。ただただ……先程よりも、存在感が増してる)


考え事をしてはならない。

ただ精神を統一させるのが目的の瞑想。


にもかかわらず……イブキは徐々に増すイシュドの存在感に気を取られてしまう。


(いけない!! 瞑想一つとて、強くなる為の修行。中途半端になっては、ならない)


心を落ち着かせ、己の中心部に……腹部に、丹田と呼ばれる部分に意識を集中させる。


ここで、普段であればイブキの変化に関心を寄せるイシュドだが……既に瞑想、その一つに完全集中していたため、その変化に気付くことなく……瞑想が終わる時間まで、精神を統一し続けた。


「ふぅ~~~~~。座禅ってのは、脚が痛くなるな」


「慣れれば、そこまで苦に感じなくなりますよ。それにしても……座禅まで知ってるのですね」


イブキの記憶が正しければ、この大陸にはない言葉である。


「へへ、まぁ色々と大和のことが気に入ってるんだよ。まだ料理には出してねぇけど、米や漬物だってあるんだぜ」


「っ!!! そ、それは真か!!!!!」


「お、おぅ。勿論真だぜ」


いきなり顔が近くなり、思わず「やっぱ大和撫子な美人は良いな~」と思いながら目を逸らす。


「そうでしたか……で、ではまた別の機会に、食べても」


「おぅ。つか、どうせなら夜食に食べるか?」


「や、夜食に……」


先日、イシュドが夜の森で狩ってきたモンスターの肉料理を、夕食を食べお終えた後の訓練後に食べた味が口の中に広がり……涎を零しそうになった。


「はっはっは、良い顔なんじゃねぇの?」


「っ、失礼しました」


「良いって良いって、普通に考えればこっちにいる間は、大和で食ってた飯が食えないと思ってたろ」


「え、えぇ」


大和以外の大陸に行けば、今まで食べたことがない料理を食べられる。

それはそれでイブキの楽しみではあるが、それでもいざ今まで食べてきた当たり前の料理が食べられないとなると……それはそれで寂しいものがある。


「んじゃ、食いに行くか」


イシュドは他の訓練場で訓練を行っている者たちに声を掛けるのを忘れ、厨房へと向かう。

イブキも久しぶりに大和の料理……和食が食べられることに夢中になっており、ミシェラたちを誘うことをすっかり忘れていた。


「よし、まずは米を炊かねぇとな」


慣れた手つきで米を洗い、釜に入れ……火を付けてスタート。


「今、もっと楽に米を炊くマジックアイテムを弟と考えてるんだよ」


「もっと楽に、ですか」


「そうそう。こうやって釜で炊くのも良いんだけど、その時々によってちょいちょいムラがあるだろ。そのムラをなくそうと思ってな」


「なるほど……それは確かに、画期的なマジックアイテム、ですね」


「だろ~~。つっても、ちゃんとした奴が造れるのはまだまだ先になるだろうけどな~~~」


前世の知識こそあるイシュドだが、前世の細かい知識まではない。

加えて、レグラ家の人間にそれらの知識を伝えたところで、理解、把握、なんとなく解る者は殆どいない。


「……イシュドは学園を卒業した後、どうするつもりなのですか」


「学園を卒業したら、か? ……まっ、こっちに戻ってくるだろうな。理由は全然解ってねぇけど、相変わらずモンスターの出現数はバカ多いし強ぇ。あんな圧倒的な強さを持つロベルト爺ちゃんがいても、まだその原因を突き止めるまでには至ってないからな」


「そうですか」


「つってもなぁ~~~、ぶっちゃけ大和には行ってみてぇ気持ちはあるんだよな」


「大和に、ですか」


「おぅ。他だと超階層数が多いダンジョンとか、まだ全貌が明らかになってない遺跡とかな。そういうのと同じぐらい、大和に行ってみたいって気持ちはある」


超階層数が多いダンジョン、そしてまだ全貌が明らかになってない遺跡。

そのどちらも、強力なモンスターや地下深くに眠っている宝物が気になっている。

まだ関わり始めて半年も経ってないイブキでも解る。


だが……大和に行ってみたいという言葉には、純粋に大和に対する強い興味が宿っている、とイブキは感じた。


(な、何と言うか……う、嬉しいものだな)


故郷愛てきなところは、多少ある。

しかし、ここまで侍という存在に強い興味と敬意を持っており、加えて大和という国自体に強い興味を持ってくれている人物が目の前にいれば……自然と嬉しさが増してしまうというもの。



「っと、そろそろ出来上がりそうだな……そうだ。米と漬物だけだと、ちょっと味気ねぇよな」


椅子から立ち上がったイシュドはコンロのマジックアイテム前に移動し、保管している卵をと塩、砂糖を使って玉子焼きを作り始めた。


「っと、こんなところか」


職人に造ってもらった、玉子焼きを作る様のフライパンを使用し、綺麗な玉子焼きが完成。


「んじゃ、食べようぜ」


サラッと一品作ってしまうイシュドの姿に、イブキはポカーンとした表情をしながら驚き固まってしまっていた。

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