第102話 健在な狂気

「ヌゥオオオラアアアア゛ッ!!!!!!」


「……」


「シッッッッ!!!!!!」


「……」


「ハッ!!!!!!!!!!!!!」


「……」


((((((……………………))))))


ガルフたちは目の前で行われている光景に、理解が追い付かなかった。


まず……第一に、本気になったイシュドの攻撃力に驚きを禁じ得ない。

仮に自分に対してあの攻撃を向けられたら……と想像するだけで、ダスティンやクリスティールなど二、三年生関係無しに受け止められる、対処出来るイメージが一切湧かない。


自分たちがこれまで放つことが出来た渾身の一撃を軽々と超える攻撃を何度も何度も繰り出し続けている……その現実に対して、衝撃は受けるも……強烈な嫉妬心などは浮かばなかった。


何故なら……その連続で繰り出される攻撃を、ロベルトという亜神は両手両足に魔力を纏うだけで、簡単に捌いてしまっている。

この目の前で行われている衝撃に事実に、脳の処理速度が追い付いていなかった。


「やっぱりあれだよな~~~。イシュド兄さんも超超超強いんだけど、ロベルト爺ちゃんも結構おかしいよな」


「失礼よ、ヴァルツ。でも……バーサーカーソウルまで使ってる本気のイシュド兄さんの攻撃をあんな簡単に捌けるのは、ロベルトお爺様以外だと……アルフレッドお爺様だけになるかしら」


「だろだろ、そうなるだろ。アレックス兄さんや父さんと良い勝負する兄さんが、マジの子ども扱いなんだぜ?」


二人の会話は、全くイシュドの耳に入っていない。


イシュドの頭には、ロベルトという血の繋がった人の領域を越えようとしている怪物を、どう真正面から倒すかしか考えていない。


「ヴァルツ…………でも、実際問題そうね」


「どこまで行けると思う?」


「……イシュド兄さんが、ロベルトお爺様の体を少しでも斬り裂くことが出来れば、イシュド兄さんの勝ちと言えるんじゃないかしら」


当の本人はぶっ殺すつもりで二振りの戦斧を振るい続けているが、ロベルトは正面から繰り出される斬撃に対し……魔力を纏った四肢だけで対応し続けている。


この現象は…………二人の試合が始まってから数分間、一切変わっていない。


「…………本当に、あの、イシュドが」


そしてようやく、六人の中でガルフが言葉を零した。


「馬鹿正直に真正面から攻めなければ、って次元じゃねぇんだろうな……なぁ、クリスティールパイセン。もし、実家の騎士団や魔法師団がイシュドとぶつかったら、どうなると思うっすか」


「……バーサーカーソウルを発動した状態の戦闘者は、身体能力の向上……耐久面の上昇も並ではなく、生半可な攻撃では絶対に止まりません」


「実際に戦った俺たちだからこそ解るだろう。イシュドは、一対多数の戦いが全く不得手ではない」


「ダスティンの言う通りです、それを考えると…………最悪の可能性が、万が一というとてつもなく低い確率として捉えられませんね」


クリスティールだけではなく、フィリップやダスティンの実家にも、三次職に就いている騎士はそれなりに居る。


三次職……という条件だけで見れば、イシュドと同じであり、一対多数の戦いになれば、普通に考えれば袋叩きにされて終わり。

その常識は三人の中にもあるのだが……イシュドは平然と、戦斧に各属性魔力を纏いながら、ばんばん斬撃刃を放っている。


「あの……まず、なんでイシュドが各属性の魔力を纏いながら、斬撃刃を放っているのか……そこから話し合いませんか」


ミシェラの非常に普段とは違い、固まった喋り方に対し……誰もツッコむ余裕はなかった。


「そういえば、イシュドが三次職に就いてるのは知ってたけど…………あいつの実力を考えれば、二次職で狂戦士に就いてても全くおかしくないよな」


「ですわね。では、三次職は……魔法騎士か、魔剣士………………ダメですわ。全く思い付きませんわ」


「一次職、もしくは二次職に魔法系統の職業に就いていれば、その後別の系統の戦闘職に就いて複数の属性魔力を操れるようになる……だったよな、クリスティール先輩」


「えぇ、その通りですよ、ダスティン。そうなると、イシュドは二次職に魔剣士か魔法騎士……もしくは魔戦士に就いていたのかもしれません」


「しかしクリスティールお姉様、それではイシュドは三次職に狂戦士に就いたのですか?」


ミシェラの言葉に、クリスティールたちは黙り込み、その言葉に対する答えを中々出せなかった。


三次職とは……人によっては、そこをゴールと考える者が決して少なくない。


そして三次職まで辿り着ければ……職業の強さ的に、狂戦士よりも質が高い職業に就けることが殆ど。


「……ねぇ、リュネ」


「そうよ、ヴァルツ」


イシュドの職業歴がいったいどういう内容なのか考えるガルフたちに、それを知っているヴァルツとリュネは一切口にしなかった。


基本的に、就いている職業というのは、その人の財産。


軽々しく他人に教えるものではなく、イシュドの場合であれば尚更な話。


「…………ひとまず、どこかのタイミングでイシュド君が狂戦士に就いているのは間違いない。ただ、普通の狂戦士とは進んでいる道が違う…………っ」


一般的な狂戦士と違う道を進みながらも、抜きんでた実力を有していることに変わりはない筈のイシュドの攻撃が……どれも綺麗に防がれ、捌かれている。


その光景に、現実に……クリスティールたちは言葉に表し辛い感情を感じ、拳を強く握りしめる。



(私としては、あまり学園に通わせたくなかったが……どうやら、鈍ってはいない様だな)


ロベルトはイシュドを学園に通わせるのに、一応反対派であった。


しかし、レグラ家に生まれる人間の性格上……中々世間一般的に言う、まともな人間性を持つ者が生まれにくい。


ロベルト個人としては、曾孫たちの中で最もイシュドが狂っている部類の者だと思っているが……それでも、曾孫たちの中で一番社交性があるのは間違いなかった。


(真正面から私を倒そうとしつつも、嫌なところを狙う眼と技術も衰えていない。それに…………ふっふっふ、身内とはいえここまで本気の殺気を向けられるのは、やはりイシュドだけだろう)


零れそうになる笑みを抑えながらも、曾孫の狂いっぷりに賞賛を心の中から送る。


だが……今のイシュドは、それを貰ったところでという心境であり、ただただ……魔力、闘志、気力体力……それらが尽きるまで、その刃を振るうことしか考えていなかった。

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