第100話 存在感
「んじゃ、今日も昨日と同じ感じで。後、反省点を忘れない様に、頑張ってくれ」
本日の訓練内容を伝え終わると……イシュドは先日と同じく、特殊筋トレグッズで筋トレを始めた。
(……快眠の効果が付与されたベッドで寝てるから、ぐっすり寝れたは寝れたんだろうけど……まだ疲れは完全に抜けきってないのかもな)
ガチの試合を観ながら、ガルフたちの体にまだ疲れが残っていることを察するも……訓練量が多過ぎることを、改善しようとは思わない。
というよりも、イシュドは元々六時前にはその日の訓練を完全に切り上げていた。
イシュドが夜の森に入って帰ってくるまでの間……自主練といって決して温くない訓練を行い始めたのは、紛れもなくガルフたちの意思。
「イシュド兄さん、ちょっと筋肉が痛いです」
「はっはっは!!! だろうな。それなら、より頑張って上手く無駄なく動いて、魔法を撃たないとな」
「……なるほど。この状態だからこそ、そこまで深く考える良い機会になりますね」
「そういうこった」
四女のリュネもスアラと比べて負けず劣らず賢い。
直ぐにやや体が思い現状だからこそ磨ける部分を察した。
(体が重いからこそ、ですか…………そうですね。確かに、非常に大事な状況です)
幼い頃から木刀を、刀を振り続けてきたイブキは何度も言われてきた。
疲弊した時こそ、最高の一振りを放てるようになれと。
「若干だが、ガルフの勝率が伸びてきたな~」
「そ、そうかな?」
「はっはっは! 全力で戦ってれば、そんな事考えてられねぇだろうな」
昼休憩中、イシュドは覚えている限りの勝率の変化をガルフたちに伝えていく。
「……私はどうなっていますの」
「お前は確か、あんまり変わってなかったと思うぞ」
「ぐっ、そうですのね」
「別に凹むことはないんじゃねぇの? ガルフみたいに勝率が上がれば、下がる人も出てくるんだ。その中で勝率が変わってないのは、成長って言えるんじゃねぇの?」
午前の訓練は自身が普段は使わない得物を使っての試合。
メインの得物を使っての試合の勝率とは異なるが、それでも強くなることを意識して動いているミシェラたちにとっては、そういった試合の勝率でも気になってしまう。
「……イシュド、俺の勝率は下がってるか」
「そうだな~~……ダスティンパイセンの勝率は前よりちょい下がってるかも。つっても、軽いタイプの得物を使ってもダスティンパイセンらしく戦えばまた変わるだろうし……けど、それあと色々と学ぶ為の経験にならないから、あんま気にしなくても良いんじゃないっすか?」
「ふむ、そうか。捉われ過ぎるのも良くないということだな」
全員が勝率云々に思うところ感じながらも、しっかりと前を向いて訓練に向き合っている。
そんな中……午後の訓練、最後の試合が終わった直後、一人の男が訓練場に入って来た。
「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」
次の瞬間、ガルフたち六人……全員が一斉にその方向に顔を向けた。
「帰ってきていたのか、イシュド」
「ロベルト爺ちゃん!!! なんだよ、もしかして父さんから聞いてなかったの?」
「いや、近々帰ってくるという話だけは聞いていた」
頭はスキンヘッドで、顔も厳つめではあるが、イシュドと話す様子は……いたって普通の様子。
肉体はアルフレッド以上に大きく、本当に人族なのかと疑いたくなる筋肉、存在感を持つものの……訓練場に入る時、入ってから特に闘志などを零してはいない。
それでも……ロベルトという存在に、ガルフたちは無意識に後退っていた。
(ろ、ロベルトさんって、前にイシュドが話してた、あの……)
(は、はは……はっはっは…………笑うしかねぇってのは、こういうのを言うんだな)
(この、方が。あのイシュドが殺そうとしても、殺せない、方……)
(この圧はっ…………大和でも、感じたことが、ありません)
(なるほど……亜神、ですか)
(……まさに、生きる伝説と呼べる方、か)
ギリギリ、心の中で感想を零すことは出来た。
だが、全員声を出せずに固まった状態が続く。
「ん? あぁ~~~~…………まっ、しゃあないよな。お前ら、別にロベルト爺ちゃんは普通に優しいし、怖くないからそんなビビんなくて良いぞ」
ガルフたちが声も出せないほど驚き固まってしまう状況に関して、なんでそうなるんだとツッコミはしなかった。
一応取って食おうとする人じゃないと伝えるも、未だに上手く下ろした腰を上げられないガルフたち。
「ふむ、君たちがイシュドの学友か」
「っ!!!!!!!!!!! へ、平民のガルフです!!! よろしくお願いします!!!!!」
本格的に自分たちに視線が向けられた……その瞬間、ガルフの中で立たなければ……立って自己紹介をしなければという衝動に駆られた。
(く、く、崩れ落ち、そう!!)
イシュドの学友であると胸を張って宣言するのであれば、ロベルトの前でいつまでも座っていられない。
認められるためにも、早く立ち上がらなければ!!!!! と、ロベルトはガルフたちが腰を上げられない状態であっても、特に文句を言うつもりもイシュドの友人だとは認めない!! と宣言する気もなかった。
ただ……勇気を振り絞り、奮い立たせながら立ち上がり、自己紹介を行ったガルフに対し、ロベルトの中で確実に評価が上がった。
「一応貴族出身の、フィリップです」
「同じく、ミシェラですわ」
「大和出身のイブキです」
「クリスティールと申します」
「ダスティンと、申します」
ガルフの姿勢に刺激されたのか、フィリップたちもなんとか腰を上げ……立って自身の名前を伝えた。
この時、彼らは余裕が無くて自身の家名を喋らなかった……わけではない。
目の前のイシュドが言っていた亜神、という異名に相応しい人物の前では、権力など本当に無意味だと……本能的に思い知らされ、誰も家名を言わなかった。
「イシュド……ちゃんと学友が出来たのだな」
「一応父さんも俺が一番社交性があると思って学園に送った訳だしね」
「ふっふっふ、そうだな。アレックスたちも一応常識という知識はある筈だが……まぁ、今気にする話ではないか。ところでイシュド、せっかく帰って来たのだ。どうだ、私と一戦……戦るか?」
曾孫に久しぶりに試合をしてみるかと宣言しただけ……ではあるが、イシュドにとっては一大イベント。
「ッ!!!!!!!!!!!!!」
反射的に戦意を、闘志を全開放してしまったため、なんとか立ち上がったガルフたちは再び腰を落してしまった。
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