第97話 プルプル震える
「よし、次の試合で終わりだ」
ガルフたちはどの試合にも全力で挑んではいたが、次の試合で終わりと聞くと……やはりやる気が漲るもの。
「はぁ~~~、俺はさっきの最後でラッキーだったぜ」
「……情けないですが、私もそう思ってしまいます」
「お二人ともお疲れさん」
フィリップ、イブキの二人は一つ前の試合で勝利を収めており、イシュドが意図的に外した。
「どうだ、普段扱わない武器を扱うのは」
「…………ドMプレイ? って言うのは、こういう事なんだなってのが良く解った」
「なっはっは!!!!! ドMって……いやいや、でもよぉフィリップ。お互いになれない武器を使ってるんだから、ちょっと違うんじゃねぇか?」
「あぁ……うん、そうかもな」
普段ならもっとバカな話で盛り上がるのだが、フィリップは疲労がマックスに近い状態まできていることもあり、考える余裕が全くなかった。
「それに、なんだかんだ言って八人の中で勝率は高い方だろ」
「それとこれとは、話が別に決まってるだろ。いつもやってる模擬戦より、緊張感が半端じゃねぇ」
「私も同じ意見です」
イシュドの言う通り、二人の勝率は他のメンバーと比べて高い。
それでも、どの試合も楽なものは一つもなかった。
「まぁ、面倒だと思った試合はイブキと……ガルフの試合だな」
「同じですね。私もフィリップとガルフとの試合が戦り辛かったです。特に……ガルフはこれまでと比べて、一瞬だけ闘気を発動するのが上達しています」
「だよな~~~。一試合だけじゃなくて訓練時間の間に行われた全ての試合で使えるように上手く配分してるんじゃねぇか?」
(さすがフィリップ、良く見てるな。けど、正確には使ってない試合もある)
ガルフは自身の武器である闘気が、どれだけ強い武器なのか把握しており、使うべき場面で使おうという気持ちが日に日に高まっていた。
どの試合も、一応訓練であるため……気を抜いてはダメだが、絶対に勝つ必要はない。
(力の扱い方……その点に関しては、一番伸びるのはガルフだろうな)
勝率はフィリップとイブキよりも劣るものの、先程試合を行っていなかったダスティンとの試合では……非常に良い試合をしていた。
(総合的な身体能力はダスティンパイセンの方が上だろうけど、闘気を使えばそこもカバー出来る。不慣れな得物を使ってることも考えれば、多分勝つだろうな)
イシュドの予想通り、試合の規定時間である五分ギリギリでガルフが勝利を収めた。
「全員、お疲れ様。そんじゃあ早速飯に……のまえにあれか。昼間と同じく、軽くシャワーだけ浴びとくか」
休憩を挟みながらとはいえ、全員汗だく状態。
クリスティールやフィリップは省エネを意識しながら戦える器用さがあるものの、数時間も戦って戦って休んだ戦って戦って休んでといったサイクル繰り返していれば、訓練服に汗が染み込むほど汗をかいてしまう。
ちなみに……この中で一番汗をかいているのは、ガルフたちが休憩中もずっと何かしらの筋トレをしているイシュドだった。
女子が見れば、絶対に心の中で「汗クサっ!!!!!!」と叫ぶこと間違いなし。
しかし、この場にいる女性陣達も汗まみれ。
もし口に出して汗クサ発言をしてしまえば、間違いなく自分に返ってくる。
そしてイシュドやフィリップほどデリカシーがない野郎であれば、絶対にからかってくる。
「……なぁ、イシュドこのまま寝ちゃ駄目か?」
「湯船に入ってか? 体がふやふやになるから止めとけ。それに頑張って食堂に行けば、美味い飯が食えるぞ」
上手く、器用に戦って勝率を伸ばしていたフィリップだが、実際のところ……限界ギリギリまで疲れていた。
今回イシュドの誘いに乗った人物たちの中で、今よりも強くなりたいという考えを持っていない人物はいない。
そのため、不慣れな武器を使った試合という、普段ならやろうと思わない訓練であっても……どの戦いも絶対に勝つという強い意思を持って挑んでくる。
そのため、結果として今フィリップは…………生まれたての小鹿の様に足をプルプルと震わせていた。
「疲れた体には、しっかり栄養を届けないとだぜ」
「イシュドが言うことは解るけど、僕も……フィリップと同じ、かな」
「うむ、俺もだ。湯船で寝てしまうのはダメだと解っているが、今はあれが至高のベッドだと思えてしまう」
勿論、どの試合も勝つつもりで戦い続けたガルフとダスティンの両足もプルプルとスライムの様に震えていた。
「はっはっは!! 安心しろ。俺もその感覚に覚えはある。けど、あれだけ動いた後の飯も格別だ。だから頑張れ頑張れ」
と言いながら、平然とした表情で体を洗うイシュド。
(解っちゃいたけど、マジで頭おかしいだろってツッコみたくなる体力してんな)
同年代でありながら、まさに大人と子供の差があると解っていた。
全ての能力において自分たちより上の領域に居る……しかし、あれだけ筋トレを続けおいて、全く疲れが顔に出てないのはいかがなものかとツッコミたい三人。
「っしゃ! 美味い飯が俺らを待ってるぞ!!!」
部屋着に着替えたイシュドは高らかに声を上げながら食堂へ向かう。
因みにこの時のシャワー時、ミシェラたちも両足が生まれたての小鹿の様に震えており、一緒にデカパイまで震えさせていた。
「はぁーーーー、食った食った。マジでどれだけ食っても飽きねぇな」
「本当に、フィリップの言う通りだね……訓練は大変だったけど、今超幸せだよ~」
「学園のシェフが作る料理も美味いが、レグラ家のシェフたちが作る料理の方が…………これでは、学園に戻った時に日々の食事に満足出来るか不安になるな」
夕食後、イシュドの部屋に追加で持ってきたベッドに寝転がり、満腹感に浸る三人。
そんな中……イシュドは部屋着から着替え始めた。
「ん? イシュド、何してんだ?」
「いや、これからちょっと森に行こうと思ってな」
「………………一応聞くが、何しに行くつもりなんだ?」
「ちょっくら三時間ぐらい、狩りに行こうと思ってな」
「「「…………」」」
三人とも開いた口が塞がらなくなった。
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