第69話 ちょっと何言ってるか解らない
「簡単に言っちまえば、今お前は婿候補として狙われてるんだよ」
「……僕、平民なんだけど」
「俺たちに声を掛けて来た令嬢は、多分準男爵とか男爵……子爵らへんの令嬢だろ。長女でなければ、平民と結婚するケースは……ゼロじゃないんじゃねえの?」
イシュドの言葉に、フィリップが同意するように頷く。
「イシュドから話を聞いたけど、大活躍したんだろ。それも一回戦でじゃなくて、三回戦で。もう今一番の注目株って言っても過言じゃねぇんじゃないか」
「フィリップの言うとりだぜ、ガルフ。お前が昨日、最後に戦った生徒……あのクソ生意気面の奴、強かったろ」
「うん、本当に強かった。ダブルノックアウトまで持っていけたのは、正直運が良かったからだと思ってる」
令嬢に自分が狙われている。
それに関してはまだいまいち理解していないガルフだが、第三試合で戦った対戦相手、ディムナ・カイスが強かったことに関しては即答出来た。
「運が絡んだとはいえ、そんな強ぇ奴に勝ったんだ。注目されるのは当然……それは解るだろ」
鈍いところがあるガルフだが、それは解らなくもなかった。
「んで、どうするんだ?」
「え、えっと……お、お茶会の事?」
「おぅ。俺はぶっちゃけ興味ない」
「同じく~~」
イシュドとフィリップ、共に令嬢とのお茶会など興味はない。
令嬢と茶を飲むぐらいなら、夜の街でお姉さん達と酒を呑む方がよっぽど楽しい。
「だから、お前がどうしたいか次第だ」
「ど、どうしたいかって言われても……わ、解んないよ」
(……そういえば、ガルフって村出身の平民だったか?)
何を思ったのかイシュドは学園内で、人気のない場所に移動してから話を再開。
「なぁ、ガルフ。お前って童貞か?」
「っ!!!!!????? い、いや……っ……そ、そりゃあ……今まで、彼女とか、いなかったし」
「そっか。まっ、しゃあないよな~~~。街じゃねぇと、歓楽街とかねぇしな」
「ふ、二人は童貞じゃないん、だよな」
「俺は良い歳になったら、父さんからどの人で卒業したいんだって聞かれ、より取り見取りなメイドたちの中から自分で選んだ」
「あっ、俺も似たような感じ」
「…………」
ガルフは二人が何を言ってるのか、ちょっと良く解らなかった。
「つっても、今考えると男としての童貞を捨てる前に戦闘者としての童貞を捨ててたってのは笑ったな~~」
「俺も似た様な感じだったな」
「…………」
話の次元が違うと感じた。
というより、何故いきなり童貞が否かの話になったのかが疑問である。
「っと、まぁあれだよガルフ。俺が何を言いたいかっていうとだな。恋愛云々でもじもじしたり、自信がないなら、先に童貞を捨てちまったらどうだって話だ」
「……そ、それは、さ。その……ど、どうなの?」
ガルフの常識としては、恋愛を経験してからそういう行為が行われる。
なので、今友人が提案してくれた内容は、非常識な内容であるのだ。
「どうって、別にそんな気にすることとかねぇと思うぞ。仮にガルフがしっかり恋愛してさぁ本番ですってなった時、不手際が原因で振られたとか嫌だろ」
「それは嫌だけど……えっ、そんなフラれ方も、あるの?」
「あるらしいぞ。うちの平民出身の騎士から聞いた話だし、嘘じゃねぇと思うぞ」
このイシュドが平民出身の騎士から聞いた話は、決して盛られた話ではなかった。
(つっても、前世ではお店とかで卒業した場合……素人童貞、って言うんだったか?)
素人童貞だと何か不都合があるのかと考えるが…………そこまで人生経験が豊富でもないイシュドは特に思い浮かばなかった。
「どうせなら、ささっと卒業しちまうか?」
「そ、卒業って……」
「ガルフ~~~~、そんなに難しく考えなくて大丈夫だってぇ~~~。本当に好きな人とやる為の予行練習みたいなもんって思え」
顔が非常に親父臭くなるフィリップ。
ガルフの中では相変わらず好きな人とそういう事をするもの、といった考えだが……そもそも歳頃の男子学生。
そういう行為自体に興味はあった。
「フィリップの言う通りだと思うぜ。ガルフはそもそも、これまで女と接する機会が少なかったろ」
「そう、だね」
ガルフの周囲に女性がいなかったわけではないが、そもそも騎士になることに憧れていたガルフは……その時点で積極的に関わろうという気持ちがなく、喋る機会も多くなかった。
「そういう意味でも、そういった店で女と……まっ、店だと女性か。喋ればそれだけで耐性が付くってもんだ。これから、お前を狙ってハニートラップを仕掛けてくるやつも現れるかもしれねぇ」
「それはさすがに、ないんじゃないかな?」
「…………自分じゃあ、解らねぇもんか」
本人が謙虚過ぎるのではない。
ただ、自覚していない。
(闘気を会得している騎士は、珍しくはない。個人の才能、センス……それらを前提として、たゆまぬ鍛錬が必要。ただ……そっから先ってなると、何かしらの切っ掛けがねぇと会得出来ないって聞くからなぁ…………VIPルームで観戦してた連中なら、気付いてる奴は既に気付てんだろうな)
やはり、ある程度のところまでは自分が守らなければならないと思ったイシュド。
「んで、どうするんだ? 良い店に行けば、ちゃんとした人が相手してくれると思うぞ」
「っ……で、でも僕お金ないし」
これまでモンスターを討伐して手に入れた金額を考えれば、夜の街で多少散財しても問題はない。
ただ、平民出身のガルフからすれば、もしもの為にしっかり貯金しておきたい。
「ば~~~か。んな金、俺が出してやるに決まってんだろ」
「えっ!!?? い、いや。さすがにそれは悪いよ」
「気にすんな気にすんな。金なんて、溜めてるだけだと意味がねぇ。使う時に使うべきもんなんだよ」
「で、でもぉ……」
「んじゃ、稼げるようになった俺に美味い飯でも奢ってくれ。そんでちゃらだ」
「決定か。んじゃ、晩飯食い終わったら出発だな」
決定してしまった。
夕食を食べ終えた後、三人は変装用のマジックアイテムを使い、普段着で外出。
青年……とはいえ、学生三人で夜の街に外出するのは危険ではあるが、一人は亜神の玄孫。
小さな怪獣であるため、酔っ払いに喧嘩を売られようとも、身ぐるみ剥がされる心配は一切なかった。
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