第62話 引き出したら、確殺(される)

「ふぅ~~~~、完敗でしたね」


「そうっすね。やっぱ、流石イシュドって感じだったっすよ」


「…………」


医務室のベッドで一応体を休めている三人。

回復魔法も受け、魔力回復と体力回復のポーションを飲んだため、魔力……体力切れによる眩暈は既になくなっている。


ただ三人の中で一人……ダスティンだけは、表情が沈んだままであった。


「ど~したんすか、ダスティンぱい先。この後はあれじゃないっすか、お疲れ様パーティー? があるんっすよね。そんな暗い表情のままじゃあれっすよ」


「解っている。解っているが…………悔しさが抜けないのだ」


圧倒的な敗北。

最後までリングに立つことが出来なかった。


それらの経験は容易に受け止められるものではなかった。


「……気持ちは解りますよ。彼は本当に……本当に、手加減してくれましたから」


「そっすよね~~。ところどころ魔力を纏うことはしてたっすけど、あくまで一部にだけ。全身に纏うことはなかった。あと、多分っすけど強化系のスキル……後、体技のスキルも使ってなかったっすよね」


「素手で戦っていれば、体技の恩恵を受けるとは思いますけど、フィリップの言う通り技は一切使用していませんでしたね」


クリスティールは決して才能とセンスだけでここまで上り詰めてきた訳ではない。


膨大な努力と実戦でセンスを磨き、十数年かけて才能という原石を形にしてきた。


そして同世代のトップに立ったと思ったら、いきなり二つ下の世代に理解不能な怪物が現れ、「実質のトップは俺だ!!!!」と示されてしまった。


「結局……彼の、狂戦士の最大の武器であるバーサーカーソウルも使わせられませんでしたしね」


「っ!!!!!!!」


ダスティンも戦士の派生職に就いているため、他の派生職に関して多少なりとも知識は持っている。


狂戦士……狂った戦士。その言葉を象徴する技、それがバーサーカーソウル。

これを発動させてこそ、狂戦士の本領が発揮された状態と言える。



そう…………彼等は三人がかりでイシュドと戦ったにもかかわらず、本当に彼の力を一部も発揮させられずに負けてしまったのである。


「えぇ~~~~~~。別に良いじゃないっすか、それぐらい。つーか、イシュドがバーサーカーソウルなんて使ったら、俺たち瞬殺されて一瞬で試合終わっちゃうっすよ」


「……お前はその心構えで良いのか」


「良いも何も、イシュドにはイシュドの考えがあって特別試合を開いて……んで、その上で俺たちとの戦いを楽しもうとして、自ら枷を背負って戦ったんすよ。そりゃ今の俺たちが狂戦士の切り札を引き出せたら快挙かもしれないっすけど、そしたら一瞬で試合が終わって観客も、何がどうなって終わったのか解らない状態になるんじゃないっすか?」


「むむ。そう、だな……そこまでは考えていなかった」


フィリップの説明はもっともらしい内容ではあるが、それでも負けは負け。

三人がかりで挑み、ボロ負けした事実に変わりはない。


「さ~せ~~~ん。治療お願いしま~~す」


「おっと、真のチャンピオンじゃないか。はいはい、直ぐ治すからそこに座って」


「う~~っす。おっ、フィリップに会長さんに……良い筋肉のマッチョ先輩」


「ま、マッチョ先輩?」


イシュドからの呼び名に首を傾げるダスティン。


真の狂戦士チャンピオンであるイシュドは興味がある人物以外の顔などはあまり覚えないが、先程まで戦っていた相手……加えて、鍛え上げられた実戦的な筋肉……そう、良い筋肉を身に付けている人物は比較的記憶に残りやすい。


「楽しかったぜ、三人共」


「よく言うぜ。結局強化スキルを使わなかったくせに」


「へ~~~。フィリップ、お前の口からそんな言葉が出るなんてな」


イシュドがフィリップの言葉に対してニヤニヤと笑いながら回復魔法を受けていると、ミシェラがするっとクリスティールの方へと向けて抱き着いた。


「クリスティールお姉様! ご無事でしたか!!!」


「えぇ、大丈夫ですよ、ミシェラ。だからそんな顔しないでください」


本当の妹かのようにクリスティールの身を心配するミシェラ。


そしてその顔は直ぐにキリっとしたものに変わり、イシュドに鋭い視線を向けた。


「イシュド!!!! 来年まで、首を洗って待ってなさい!!!!!」


「風呂にはしっかり入って体洗ってるっつ~の」


「……ふふ。似た様なやり取りを、待機室でも観ましたね」


「ミシェラ、お前フィリップ相手にも似た様な事言ったのかよ……つかさ、お前準決でフィリップに負けたんだから、それを言うのはまず俺じゃなくてフィリップにじゃねぇの」


「っ!!! そうでしたわ!!!!! フィリップ! 来年はその首をぶった斬って差し上げますわ!!!!!」


「…………やべぇな、イシュド。この女、胸ばかりに栄養が行き過ぎてクソ馬鹿に

なっちまったぞ」


剣戟……超接近戦の最中に偶々そこに刃が行ってしまうことはあるが、明確な意思を持って首に刃を向けた場合……反則負けである。


「だっはっは!!!! 無茶苦茶納得出来るな」


「なっ!!!! わ、私は毎回筆記の試験も超上位に入ってますわ!!!!!」


(……気にするのそっちかい)


思わず心の中でツッコんだイシュド。


出会った当初のミシェラであれば、間違いなく胸の大きさを間接的にいじられたことに起こっていた筈だが……イシュドたちと過ごす中で、その辺りの感覚がマヒしてきたと言えなくもない。


「つか、俺やフィリップに意識が行くのは別に構わねぇけど、同学年にはガルフやあの第五王子。後は……ガルフを相手にダブルノックアウトに持ち込んだいかにもみそカスみたいな性格してそうなクソ貴族もいるしな」


「ディムナのことか?」


「あぁ、そうそう。そんな名前だったな。後、この時期……つか、中等部から高等部までの期間は、どいつがどのタイミングで、どんな切っ掛けで化けるか解らねぇ。今回ベストフォーに入ったからつって油断してっと、来年また激闘祭に出場できても、初戦敗退とか全然あり得っぞ」


「っ!! そ、それぐらい解ってますわ!!!! 学園に所属している者であれば、差はあれど全員が向上心は持っているのは当然。私は彼ら、彼女たちよりも更に成長してみせるだけですわ!!!!」


「……まっ、お前が来年初戦敗退しようが、俺にとっちゃどうでも良い事なんだけどな」


「なっ!!!!!!!」


自分から話を振っておいてなんだその態度は!!!! と、浮き上がる血管が切れそうなほど怒りが爆発するミシェラ。


「…………フィリップ。彼は、本当に狂戦士なのか?」


「その気持ち、超解るっすよダスティンぱい先。俺、あいつが本当は時々就いてる職業が狂戦士系なんじゃなくて、賢者とかじゃねぇのかって思うっすもん」


冷静に年齢に対する成長速度に対して語るがイシュドが、自ら枷を身に付けて恐ろしさすら感じる笑みを浮かべて自分たちと戦っていたイシュドと同じとは……到底思えないダスティンぱい先だった。

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