第59話 持っていて当然のメンタル
「なん、だ……あの男は」
「各学年の優勝者が、子ども扱い、だと」
驚いているのは一般の観客席にいる学生、冒険者や平民たちだけではなく、特別席で観戦している貴族や有名どころの冒険者たちも同じ反応をしていた。
「レグラ家が、あの蛮族の血族が……くっ!!!」
「……蛮族だからこそ強い、そう捉えるしかないでしょう」
「それは…………だが、しかし」
凝り固まった思考を持つ者が多いが、殆どが戦闘に関して一定以上の知識や体験を有している。
だからこそ……イシュドが蛮族らしく腕力のみで対応しているのではなく、時折高い技術力が垣間見える。
それが凝り固まった思考、プライドに嫌な刺激を与えてくる。
「うっわ…………ヤバくね?」
「語彙力をどうにかしろ。解らなくはないがな」
有名どころの冒険者組は乾いた笑みを浮かべながら、変則試合に魅入っていた。
彼等からすれば、各学年のベストフォーに入る生徒たちは、全員スカウトしたいぐらい魅力を感じる存在である。
しかし、これから育てればいずれ最前線へ……という思惑が入っている。
だが……一人で三人の猛撃を対処しながら、平然と、笑いながら反撃を行っている。
いずれ最前線へ、どころではない。
即最前線で共に戦える逸材。
「なぁ、あの生徒って十五歳、なんだよな?」
「今年高等部に入学した一年生。イシュド・レグラ」
「あの噂の貴族の子供、か…………ちょいちょい噂は聞いてたけどよ、ありゃちょっとびっくり過ぎるっつ~か、存在としてあり得んのか?」
「私たちが今観ている光景が幻影でなければ、あり得る存在なのでしょう」
「だよなぁ~~~。なぁ、スカウト出来ると思うか?」
スカウトしたくないクランのトップがいるなら見てみたい。
そう言える逸材、鬼才、怪物が視線の先にいる。
「……レグラ家の子供として生まれた者は、辺境の地でモンスターと戦い続けるため、殆ど生まれた地から離れることはない。今現在、イシュド・レグラがあの場で戦っていることが非常に珍しい……いや、奇跡に近い事であるはずだ」
「奇跡か……スカウトは無理か~~~~~~~。まっ、そもそもあんな強かったら、誰かに従おうなんて思わねぇだろうな。つかよ、今戦ってるガキたち、大丈夫か?」
「メンタル面の話か? であれば問題無いのではないか」
「なんでだよ。ボコボコ、蹂躙って感じの内容じゃねぇけど、多分あえてやってないんだろ。観客もそんな戦いを観ても楽しくねぇだろうから、ある意味虐めてる様にも見えねぇと思うが」
プロ中のプロ。
戦闘職の中でも命懸けの戦いに身を置いている時間が長い彼らは、イシュドが手加減しながら各学年の優勝者たちを子ども扱いしている事を把握済み。
「頂点に立つ者たちだ。同世代に、歳下にあり得ない怪物にがいると身に染みて解ったとしても、折れることはないだろうと」
「頂点に立つ者だからこそ、持っている筈の強さってやつか……解らなくはねぇけど、ありゃ同世代の心を折るには十分過ぎる存在だろ」
「それは間違いない。リングで戦っている三人以外は絶望しているだろう。それでも、卒業して騎士として活動する者であれば、そういう状況でも折れない……もしくは立ち上がる心が必要でしょう」
「……相変わらずてめぇは細かい事まで考えてんな」
とにかくイシュド・レグラをスカウトすることは無理だろうという考えに至りながらも、視線の先で行われている試合を観るのに再度集中する。
「ぬぅうううああああああああああアアアアッ!!!!!!!」
「ぃよいしょ!!!」
岩石を纏った大斧の大斬に対し、魔力を纏わず拳骨を思いっきりぶつけるイシュド。
「ぐっ!!! 恐ろしい、拳骨だな!」
「そっちも思い切りの良い一撃だ!!!」
一対三。加えて、出力を抑えた状態で戦っていることもあり、イシュドは非常に生き生きとした笑みを浮かべながら戦っていた。
「フィリップ!!」
「はいはい、解ってるっすよ!!」
序盤は後衛から斬撃刃や刺突による遠距離攻撃をメインに戦っていたフィリップだったが、もう牽制には意味がない。ひたすら攻めなければならない。
そう判断したクリスティールの指示により、前線に加わる。
フィリップは天性のセンスでクリスティールのリズムを即座に把握し、一切邪魔をしない動きで自身も短剣と剣の二刀流で果敢に迫る。
(なっはっは!!!! 良いじゃん良いじゃん、会長!! 良い判断だ!!!! それにフィリップ! やっぱりお前やべぇな!!!!)
フィリップとクリスティールのタッグによる斬撃の嵐。
完璧に息の合った攻撃……ではなく、フィリップがこれまで見てきたクリスティールのリズム、斬撃の軌道などを把握して邪魔にならないように動いている。
クリスティールもフィリップの動きに全く気を遣っていない訳ではないが、それでも腐れ縁である青年がこの舞台に上がるまで鍛え上げてきた戦闘力とセンスを信じ、ある程度自由に動いていた。
まるで以前からタッグを組んで戦っていたと思えるほどの連携。
観客席からその光景を見ていたミシェラは……何故あそこに自分がいないのかと、準決勝でノット紳士である男に勝てなかった悔しさが爆発し、フィリップへ嫉妬の炎を燃やしていた。
「ゼェエエエアアアアアアッ!!!!」
二人の連携を手刀や脚から放つ魔力の斬撃刃でやり過ごしていると、イシュドに向かって岩石を纏った大斧が投げられた。
(こっちも良い判断!!!)
これまでダスティンは一度も遠距離攻撃を行っておらず、このタイミングで放たれたスローイングはまさに意識の隙間を突いた一撃と言えた。
フィリップとクリスティールも速攻で下がっており、誤爆する可能性はゼロ。
「ぬぁいしょッ!!!!!!!!!」
「っ!!!!!?????」
強烈なスローイングに対し、イシュドが取った行動は……頭に魔力を纏い、タイミング良く頭突き。
「だっはっは!!!!!!! 良~~~い威力だ!! さすがにちょっと血が流れちまったな」
「……フィリップ、クリスティールさん。あれは……人間か?」
「職業がって意味じゃなくて、もう存在が狂戦士なんじゃないっすか? 今日はさすがに俺もびっくりが止まらないっすよ」
「同感ですね。型破りというか、ぶっ飛んでいると言いますか……とはいえ、それでも私たちがここで諦めて良い理由にはなりません」
丁度弾かれた大斧もダスティンの元に戻って来た。
何だかんだで三人の闘志は試合開始時と比べて衰えてはいなかったが……イシュドにとっては、ここからが本番であった。
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