第36話 変わった?

ガルフの試合が終わり、四試合目、五試合目……そして八試合目が終わり、今度はフィリップの試合が回って来た。


「それじゃ、行くとするか」


普段と変わらず、飄々とした雰囲気。

本気なのか適当なのか解らない顔。


それでも……ガルフとミシェラの二人は、フィリップの実力を理解している。


「頑張って、って言わなくても大丈夫だと思うけど、応援してるよ」


「面倒になって適当に試合しないことを願ってますわ」


「さんきゅ、ガルフ。んで、ミシェラ。それはガルフと同じで応援してくれてるって思って良いのか?」


「お好きにどうぞ」


ミシェラの相変わらずツンとした態度にカラっと笑いながら、やはり飄々とした雰囲気のまま待機室を出て……試合会場へと向かった。


(はぁ~~~~。まさか、俺が激闘祭に参加するなんてねぇ~~~)


フィリップは基本的にやる気が足りない人物。

地頭は良いにも関わらず、基本的にテストの点数は補修を受けなくて済むレベルでしか行っていない。


戦闘訓練に関しても……実家の恥にならない程度にしか頑張っておらず、イシュドと出会うまで真面目に訓練などに取り組んだことはなかった。


(まっ、あれだよな~。とりあえず、一回戦ぐらいは勝っとかないと、絶対に父さんに怒られるよな)


友人、と呼べる人物から応援されたというのも、一応頑張る要因にはなっているが、フィリップとしては……これまで通り好き勝手に学園生活を送る為には、父親であるゲルギオス公爵から叱られるのだけは勘弁したい。


(つっても、あんまりしょうもないのに負けてもな…………こっち側なら、ミシェラに負ければ良いか。あいつイシュドにボロクソに負けたけど、俺たちから見たら普通に強いしな)


なんてバカな事を考えながらリングに登った。


「フィリップ……まさかあなたが激闘祭に参加するとは思っていませんでしたよ」


「…………」


フィリップと第一試合を行うのはライザード学園の生徒、ジェスタ・ノルアルガ。


フィリップのだらしない見た目とは反対で、優等生という言葉が似合うサラサラ髪のイケメン。

一次職は細剣士、二次職はサンバル学園のフェルノと同じ騎士。

だが、フェルノと違ってジェスタが扱う武器はレイピア。


一次職の性質が引き継がれており、他の職業が騎士の者たちと比べて細剣の扱いに優れている。


「……お前、だれだっけ」


「なっ!!! 私を、忘れていたと」


フィリップとジェスタには並々ならぬ因縁があった……というわけではない。


フィリップは単純に他人にそこまで興味がなく、偶に社交界に参加してはいたが、特別気になる存在以外は覚えていなかった。


対して、ジェスタの実家は侯爵家ということもあり、実家のレベルはフィリップの方が上ではあるが、それでも侯爵家の出身である自分を忘れているとは思っていなかった。


「っ、まぁ良いでしょう。しかし、もしその気もなくこの場に上がってきたのであれば……無事に降りれると思わない方が良い」


「おぉ~~~、こぇ~こぇ~~。もうちょい笑えよ。折角の良い面が台無しだぜ?」


「ヘラヘラしていられるのも今のうちだ」


「ったく、面倒だねぇ~~~」


口戦はこの辺りで終了。

いよいよ互いの重ねてきた研鑽の決勝をぶつけ合う。


「やっちまえフィリップゥゥゥウウウウウウっ!!!!!! んなクソ優男、やっちまえええええええええええっ!!!!!」


「…………ったく、良く耳に通るこって」


面白そうだ……初めてそう思えた友人の声は、多くの観客たちの声が飛び交う中でも、良く耳に入る。


フィリップは平民ではなく公爵家の四男ということもあり、サボり癖のある変人ではあるが、同学年の生徒や他学年の生徒などからそれなりに応援されているが……その中でも、イシュドの声援? が一番良く耳に入ってきた。


「二人共、死に関わる攻撃は控えるように」


「えぇ」


「う~~っす」


「それでは……始め!!!!!」


審判の女性が試合開始を宣言すると……ガルフとサンバルとの試合とは違い、どちらかがいきなり動くことはなく、ジェスタはレイピアをゆっくりと……フィリップもゆっくり短剣を抜いて構えた。


「……どうした、来ないのか」


「いつ動こうが、俺の勝手だろ?」


「では…………嫌でも動いてもらおう」


挑発? に乗り、まずはジェスタが先に動いた。


「よっ、ほっ。っと、っぶね」


「ッ!!!!!」


ジェスタは一気に距離を縮めると、素の状態ではあるが……鋭く素早い突きを連続で放つ。


どれも的確に狙いを定めて放たれており、当たれば痛いどころでは済まない。

審判から言われてる通り、死に関わる攻撃は行っていないが……急所の中でも、即命に関わるような場所以外は躊躇なく攻めていた。


「……どうやら、身勝手な我儘でここに来たわけではない様ですね」


「さぁ、どうだろうな?」


「中等部での三年間、一度も大会に出なかったあなたにどういった心境の変化があったのか、気になるところですね」


「心境の変化、ねぇ~~~」


フィリップからすれば、自分はそこまで変わったようには思っていない。


しかし、それを決めるのは自分ではなく他人が感じるところ。


最近は一緒に行動することが多いミシェラや、顔見知りである生徒会長のクリスティール……そしてジェスタからすれば、こうしてフィリップが激闘祭に参加していることは奇跡に近い感覚。


ジェスタはフィリップが激闘祭に参加すると知った時、何かおかしな病気にかかったのか、それとも頭を強打して性格が変わったのかと本気で疑っていた。


ただ……他人にそこまで疑われようとも、劇的に変わったと言われようとも……本人としては、やはり自分に大きな変化があったとは思わない。


「…………まっ、あれじゃねぇの? 日々の楽しみってやつが見つかったからじゃね。ほら、そういう楽しさがねぇと、授業とか真面目に受けてらんねぇじゃん」


そう、ただ面白い……楽しいと思える存在と出会った。

敢えて変わったかもしれない要因を上げるなら、それしかなかった。


「そういう部分があなたと同じだと思わないで貰いたいですね。しかし、あのような蛮族と本当に関わっているとは」


「蛮族、ね。まっ、お前らはそう否定したくなるんだろうな」


「……何が言いたいのですか」


「さぁ? 俺に勝ったら教えてあげるかもな」


「安心してください。そういった事に関係無く、私はあなたに勝ちますので」


有言実行するのか、それとも有限失態するのか……それはこれから数分後に解る。

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