第5話 そういう運命だった

「……イシュド様、完璧でございます」


「マジ? いやぁ~~、そりゃ良かった。勉強は鍛錬ほど好きじゃないから、正直不安が強くてさ~」


「正直なところ、不安を持つ必要はないかと」


模擬テストを採点した従者はレグラ家の中でも学問の分野に関しても優れた知識を持っており、今回学園を受験するイシュドのサポートを務めていた。


(いや、本当に不安なんて……あるのか? この出来であれば、戦闘力だけではなく、筆記試験に関してもトップ争いが出来る)


因みに、従者は戦闘試験に関してはイシュドがトップになると確信している。


「その……首席で入学するのが目標、ではないのですよね?」


「おう、勿論。ただレグラ家の人間だからといって、そっちの方がからっきしだと思われたくないだけだよ」


イシュドのその気持ちは解らなくもない。

とはいえ、学習量……そして結果も踏まえて、従者はこれはもしかしなくても……という気持ちが膨れ上がる。


「いよいよ明日、王都に向かうことになりますが、私としては何も心配する必要はないと思っています」


「本当? ほら、あんまり学力に関して周りで比較できる人がいないからさ、褒めてくれてもあんまり自信持てないんだよね」


「……では、改めて申しましょう。イシュド様の先輩に該当する人物として、今のイシュド様の学力は受験生の中でトップファイブに入ると断言致します」


従者は入学時の成績、入学してからの成績もずっと超上位であったため、迷いがない目を向けて断言出来る。


あなたは、既にトップに立っていてもおかしくないと。


「ふっふっふ、そんな熱い目を向けて言われたら、自信を持たない訳にはいかないな。でもよ、今更筆記試験で上位を狙うって考えは変わらねぇけど、実際にトップファイブぐらいに入ったら、なんか色々言われそうだよな」


「申し訳ありませんが、間違いなく色々と暴言を吐き散らす輩が現れるかと」


悲しい事実であるため、従者は謝る必要はない。


「しかし、文句があるのであれば決闘でもしようかと申し上げれば、震えて逃げ出すかと」


「逃げ出さなければ?」


「イシュド様の流儀に則って、半殺しにしてしまえばよろしいかと」


暴言を吐きたくなる令息の気持ちも解らない訳ではないが、それでも現在はレグラ家に身を捧げた身であり、イシュドの努力を知っている。


そのため、バカがやらかしてしまっても、慈悲はないと思っている。


「はっはっは! 結局それが一番だな」


気分良く最後の確認を終え、夕食は翌日イシュドが王都の学園に向かう為、宴会が行われた。


「済まないね、イシュド。お前だけに任せてしまって」


母親であるヴァレリア本当に申し訳なさそうな表情を浮かべながら済まないと告げるが、イシュドとしてはそんな表情で謝られてしまうと、反応に困ってしまう。


「母さん、そんな暗い表情をしないでくれ。俺としても屋敷に居たんじゃ出来ない体験を出来るのは、良い刺激になると思ってるから」


「お前は本当に優しいね……ったく、あんた達がしっかりしてないから」


「「「「「ッ!!!」」」」」


ビクっと肩を震わせるのは主にイシュドより早く生まれた兄や姉たち。


「うむ! それは済まないと思っている!! しかしだ母さん、イシュドは本当に何でも出来る。多くの事に惜しむことなく努力を費やせる男!! だからこそ、イシュドが学園に通うという結末は、変わらなかったと思う」


話す最中、そして普段から若干狂気味が含まれていると感じる笑みを浮かべているアレックスは、真正面からイシュドは学園に通う運命だったと宣言。


「アレックス兄さんの考えには一理ありますね。イシュドは非常に聡明である反面、戦闘力に関してもずば抜けている。加えてただ聡明で強いだけではなく、発想力も優れている。総合的に考えれば、レグラ家でも随一の力を持っている」


「あんまりイシュドを褒めるのは癪だけど、ダンテ兄さんの言うう通りだよ、母さん。イシュドは物理的な強さだけじゃなくて、話術? もヤバいんだぜ。一番学園で上手くやってけるのはイシュドしかいないって」


二人が本気で自分のことを褒めてくれているということは解る。


解るものの……今のイシュドからすれば、やや言い訳にしか聞こえない。


「まっ、二人の言うことは最もだな。学園へ送るとなれば、基本的にはアレックスたちになるわけだが……喧嘩を売ってくる者たちを叩きのめすだけでは、卒業するまで恐怖政治を行うことになる」


三人にそういう事をしようという気は元からない。

そんな事は父親であるアルバも理解しているが、結果そうなってしまう光景が目に見えている。


「……まっ、兄さん達じゃそうなってもおかしくないよね」


「はっはっは!! すまんな、イシュド!!」


「本当に済まないな、イシュド。もう少し私に堪え性があれば話は別だったのだろうが……」


「安心しろ、イシュド! お前が返ってくる頃には、きっちりお前より強くなっててやるぜ!!!」


「ふざけんなよミハイル兄さん。次戦ったら今度勝つのも俺だっての」


兄だけではなく、姉たちもイシュドには感謝していている。


レグラ家に生まれたからか、婚約者は自分よりも強い……最低限、同等の実力がなければ認められない。

その考えはしっかり妹たちにも引き継がれている為、レグラ家の令嬢たちが学園に

入学すれば、男子生徒たちの心がボロ雑巾になるまで待ったなし。


(本当に婿の当てを心配してしまう姉さん達だな……まっ、なんだかんだで歴代の女性陣は結婚してるから、ぶっちゃけ心配するだけ無駄なんだろうな)


レグラ家の婿に来る者たちは意外にもいる。

ただ、絶対に一度心を……プライドがバキバキに砕かれるまでがいつもの流れ。

そんな男たちも、一通りしごかれた後はしっかり洗脳……ではなく、レグラ家の常識を身に付け、今でも夫婦円満な生活を送っている。


因みに浮気をしようものなら……文字通り地獄の果てまで追いかけられ、地獄以上の苦しみを体験した後……大切な大切なムスコを切断され、捨てられる。


これはそれだけレグラ家の女性陣が強いという訳ではなく、実際に過去に起きた事件であるため、今では婿旦那たちの過ちを思いとどまらせる良い抑止力となっているのだ。

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