転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

第1話 生まれながらに狂ってる

(な、なんなん、だ……この豪華な天井は)


不慮の事故で亡くなった高校生だった日本人、鬼島 迅。


彼は当然のことながら、人間が死後どうなるかなど知らない。

だが、意識がハッキリするにつれ……容易に信じることは出来ないが、徐々に自身の状況を把握し始めた。


(これは……あれか、転生ってやつ……なのか? それとも憑依になるのか? ……だめだ、全く解らねぇ)


まだ半分ぐらいしか自身の状況が理解出来ていないが……家の内装を見渡す限り、裕福な家庭であることだけは解る。


(あれって、メイドとか執事……だよな? もしかして、華族みたいな家なのか?)


的外れな考えではないが、華族ではなく貴族。


鬼島迅が転生した家はレグラ辺境伯。

そして新たな生を受けた迅の名は……イシュド。


イシュドは転生してから十日間ほどの間に、転生した世界のこと……レグラ辺境伯家についておおよそ理解した。


(とんでもない家に生まれてしまったみたいだな)


辺境伯という名の通り、レグラ家の当主が治める街は辺境。

街自体はかなり栄えてはいるものの……辺境と言うだけあり、獣を越える怪物……モンスターが数多く生息している。


凶悪なモンスターたちがなるべく他の街に向かってしまわない様に、モンスター退治が専門である冒険者ではないレグラ家に所属する騎士たちも積極的にモンスターの討伐に参加している。


それはレグラ家に生まれた子供たちも例外ではない。

いくら戦力があっても困ることはないため、レグラ家に生まれた子供たちは……まず学園に通わない。


早ければ六歳という歳から学園に通うのだが、レグラ家に生まれた場合、幼い頃から戦闘訓練を積み重ね、凶悪なモンスターと戦う日々を過ごすが。

それがレグラ家では当たり前であるため、多くの貴族たちからレグラ家の連中は蛮族と変わらない、狂戦士の一家と言われている。


レグラ家の四男として生まれたイシュドも、成長すれば戦場に放り込まれる。


(ヤバい家に生まれてしまったのは確かみたいだけど……スマホや漫画がない分、魔法とかそういった超ファンタジーな要素に目を向ければ、案外死ぬまで楽しめるかもな)


ド〇クエなどをがっつりプレイしていたイシュドにとっては、以前の娯楽を失っても有り余る興味がそこら中にある。


その好奇心を抑えることはせず、幼い頃から赤子とは思えない行動をし続けていた。


そしてイシュドが四歳になる頃、イシュド家の隠居老人にして、最凶の暴力装置であるロベルト……イシュドの曾爺さんに当たる人物へ、現当主でイシュドの父親であるアルバが楽しそうな顔をしながら、イシュドの様子を伝えた。


「ほぅ……確かに、話を聞く限りは、面白そうなひ孫じゃな」


もう完全に七十を超えたというのに、その肉体は筋骨隆々であり、全く衰えを感じさせない……スーパー筋肉ハゲジジイ。

いくら狂戦士一家のレグラ家に生まれた子供であっても、正面に立って顔を合わせれば……ギャン泣きしてもおかしくない。


「お前がそこまで言うなら、少し見てみるか」


「ッ!!!」


普段は屋敷ではなく、敷地内に建てたこじんまりとした部屋で日々を過ごすため、中々屋敷を訪れることはない。


そんな一部の人間にとっては都市伝説の様な老人が……本当に久しぶりに屋敷を訪れた。

使用人たちは顔こそ覚えている為、綺麗に腰を九十度に折って挨拶をする。


(うむ、相変わらず教育が行き届いとるな)


礼儀云々の話ではなく、ロベルトが満足しているラインは……強さのレベル。


この世界にはゲームの様にレベルと職業という概念が存在する。

レグラ家で使用人として就職する為には……一定ライン以上の強さを有していなければならない。


これは騎士や兵士だけの就職内容ではなく、使用人に関しても適応されている採用条件。


因みに、レベルが二十五を超える度にワンランク上の職業に転職出来るのだが……ロベルトのレベルは九十オーバー。

まだまだ死なないところを見ると、歴史上……片手で数えられる程しかいないレベル百を超え、五次転職する可能性がある。


「あ、あの……もっと近くで見なくてもよろしいのですか?」


「あぁ、構わん。この距離でも変わらんかもしれんが、わざわざ近づく必要はない」


ロベルトは朝から晩まで、じっくりとイシュドのことを観察し続けた。


そして……何故わざわざ孫であるアルバが自分にイシュドを紹介してきたのか、深く納得した。


「美味いな…………さて、アルバよ。あの子はなんじゃ」


当主の執務室でウィスキーをロックで呑みながら、探るような目で孫に問いかける。


「最初に言っておきますけど、俺は何もしていませんよ。まぁ、あの子がレグラ家に生まれた子供だから……というにはかなり無理があるのは解っています。まだ歩けない頃からミハイルと同じく聡明な子供だとは思っていましたが……子供たちの中でも、あれは群を抜いています」


「うむ、同感だ」


イシュドはロベルトが離れた場所から見ている間……殆ど休むことなく、何かに取り組み続けていた。


勿論、戦闘訓練時にも幼い子供とはかけ離れた行動をしていた。


「レグラ家に生まれれば、その環境故に徐々に染まっていく。しかし……あれは、生まれながらの天然物だぞ」


「そうですね。本人は毎日毎日非常に楽しんで過ごしている様ですが、明らかに狂っています」


イシュドは異世界という面白さしかない世界を日々楽しんでいるのだけだが、家族や使用人たちから見ても……異質な存在であるのは明らか。


「ふっふっふ……この家に染まって狂うのではなく、生まれながらに狂う子供、か…………イシュド、戦闘面での教育は、儂に任せてくれんか」


「ッ!!!!!!!」


自分から提案していても、ロベルトからの申し出に驚きを隠せない。


ロベルトはイシュド以外のひ孫達を遠目から見て、褒めることはあっても稽古を付けることは今まで一度もなかった。


「も、勿論です。早速明日、イシュドに伝えます」


優しい口調ではあるものの、現当主でありながらアルバに拒否権などないに等しい。


そして翌日、イシュドは曾爺ちゃんという存在がいると知ってはいたが、一度も会ったことがない生きる伝説と対面。


(……曾爺ちゃん? えっ、この体で曾爺ちゃんなの!!!???)


一先ずロベルトの心配を裏切り、ギャン泣きすることはなかった。

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