記憶を辿り、奮い立つ決意
ついさっきまで冷たい雨風にうたれていた俺にとって、シャワーから放たれる温水は、いつもより何倍にも心地良く、いのちの水と化していた。
髪がひどく
だけどもその心地良さは、
「とりあえず、少しは元気になれたのかな……」
俺はぼんやりとそう
高校に入学して以来、一体
何が紗彩を
そんな俺一人じゃ答えなんか出るはずもない問いに、あれこれと考え始めてしまう。
中学校までしか、紗彩との思い出が無い自分にとっては、あんな弱くなった姿なんて想像できなかった。いや、誰が想像できようか。
俺はシャワーにうたれながら、紗彩の過去について
確か紗彩は、小さい頃からピアノを習っていたな。
その才能も、小学生の時点から満開の桜の
コンテストに出場しては、ほぼ毎回入賞していた。
当時、音楽に関しては紗彩は頭ひとつ飛びぬけていて、彼女の右に並ぶ者は誰一人いなかった。
あれは中学三年の二月のこと。高校受験も
それは俺も例外ではなかった。たかが高校受験、されど高校受験。可能な限り優秀な学校に合格できないと、難関大学への切符を得ることが格段に難しくなる。
校長と教頭を
今思えば、公立中学でそんな教育的な学校、あり得ないと思う。
その
自宅に閉じこもり、ひたすら勉強を続けていたある日の俺は、まるで無職の中年のようにボッサボサの
そういえばお
そんな中、太陽のような笑顔で、お前は現れてくれたっけな。
部屋に入っても、俺の体臭も肩にかかっていたフケも全く気にすることなく、身体をガシッと
「第一志望の高校に合格できた!」と。
肝心なその学校の名前がなかなか思い出せないが、音楽科という特別科のコースがあり、そのコースではピアノの実習も行われているみたいで、紗彩はその音楽科に合格したと報告してくれたのだ。
「自分の好きなことに熱中しながら、学校生活が送れるなんて夢みたいだよ!」
そうだった。
俺はその言葉を聞いた瞬間、初めて気づかされたんだった。
紗彩は他にも、そこそこ良い公立高校に受かったのに、そう言ってわざわざそこを
自分の好きなように、やりたい道に突き進んで良いんだ、と。
それまで固定観念のように、自分の頭から一切離れなかった学歴コンプという名の
彼女が放つ光によって、初めてその悪魔が
何を俺は……大人たちが自分たちに都合良く教えたことを
優秀な学校に合格できないと、大学の可能性も減る? そんなの、学校の教諭が生徒の進学実績をより良くするだけの、ただの偽善に過ぎないじゃないか。
統計的に見れば、確かにその傾向は高いかもしれないが、真実とは全く相反する。
それまで俺は、偏差値73の
パズルのピースがひとつひとつ合わさっていくように、ニューロンが少しずつ繋がっていく。
自分の将来に無関心だった俺にとって、自分の将来のなりたい姿へ一直線に突き進む紗彩が、どれだけ眩しく見えただろうか。
こんなにかけがえのない光を俺にくれたというのに、自分は十分見合うだけの恩返しができているのだろうか。
今度は、俺が紗彩を助けてやらないと……!
そう俺は決心し、ぎゅっと
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