荒天のメロス
発車してから約十分後、水戸駅北口に到着した。
ここでも、俺の体内で計られたストップウォッチは、軽く三十分は経過している。
駅周辺の雪は少しずつ溶け出してきていて滑りやすく、とても危ない。
俺は傘を差すことも忘れて全速力で走る。
国道51号線に沿って駆け抜け、滑っては転んでを繰り返しながら、
「はぁ、はぁ」
あまりの自分の
それでも人の目なんて気にならなかった。幼馴染を救うため。最早それしか頭の中に入っていなかった。
後悔の念が押し寄せ、再び涙がこみあげてくる。
鉄橋を渡って
突き当りの交差点を越えた先、その近くに俺の自宅が、そしてちょっと進んだところに
何度も転倒したせいで、身に
そのせいか、全身が強く痛む。身体の何処かしらを動かしている状態でないと、その痛みは
喉の奥から血の味がしてきた。運動部の生徒は、これを毎日のように味わっているのだろうか。
もうその場でじっとすることもできず、常に体の一部をぶらぶらと動かしていた。
信号が青に変わったのをようやく確認し、交差点を駆け出して自宅に着く。
目線の奥に建つ高層マンションを見上げてみる。
だが、相変わらずの悪天候なので視界が悪い。その上俺は元からの視力もあまり良くなかった。
そんな俺に、人がいるかどうかの確認なんてできるわけがない。
一分一秒も争う事態。とにかく助けたい一心で、迷うことなく俺はマンションに向かって走り出した。
ロビーに入るとき、偶然にも運よく住民とすれ違ったので、すぐに室内に入ることができた。だけど正直ここで変に運を使い切りたくないのが本音だった。
既に手遅れで、マンションの階下に血を流して倒れていたり、室内でリストカットしていたりなんて未来が、一番の不幸だから。できれば今のうちに運の悪さを味わっておきたい。
紗彩の住む階は、十階。俺は
「エレベーターありますよ」と、管理人らしき人から声をかけられても、なお俺は階段で上ることにした。
今の俺ならエレベーターよりも早く上れる自信があったからだ。
紗彩が住む一〇一五室の目の前。
ぜえぜえと息を切らしながら、俺は早速インターホンを鳴らした。
返事は来ない。待てども待てども一人寂しくぽつねんと、時だけが過ぎる。
時間もないので、俺はドアノブに手をかざし、開いているかどうか試みた。
「あれ……?」
扉が静かに開く。すんなり部屋に入れたことが、逆に不気味さを覚えた。
リビング、洗面所、浴室と部屋中を駆け回り、意を決して最後に紗彩の部屋を見てみたが、彼女の姿は見当たらなかった。
「鍵をかけてないまま、外に出たのか……?」
その不穏な状況に、俺は頭を悩ませた。
きょろきょろ当たりを見回していると、ベッドの上に四角くて
紗彩のスマホだ。
わざわざ携帯を置いて外出するのは、明らかにおかしい。
俺は試しに、屋上まで上ってみることにした。
きっと紗彩は、この悪天候な日、いや悪天候な日だからこそ、屋上から飛び降りようとしている。そう確信したからだ。
そうと決まれば、俺はマッハの勢いで部屋を出て、再度階段を駆け上った。
このマンションは十五階建て。今まで駅から全速力で駆け抜け、一気に十階まで駆け上った俺にとっては、最早五階程度、何の造作も無かった。
もしかしたら、もう既に飛び降りているのかもしれない。
そんな心の悪魔を必死に振り払いつつ、俺は屋上に辿り着いた。
奥の方を
少女の身体は小刻みに
降りしきる雨は、まさに少女の心の
俺は即座に、
「紗彩あああああ!!!!」
と、腹の底から少女の名を
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