もう少し危機感を
先日は友人たちと、冒険者ギルドの依頼を受けてきました。今回は悪魔ではない、ちゃんとした(?)魔物退治です。
なんでも、人里近くにちょっと大きめのワイバーンが出て、人間にも幾らか被害が出ているとのこと。
ギルドの掲示板ではそう珍しくもない事件ですが、当事者である村の人々にとっては大きな心配事です。まだ心配事で済んでいましたが、とんでもない一大事にだってなり得るものです。こういうときはさっさと動くに限ります。
これは不思議な話なのですが、田舎の出で身近な魔物の脅威を知っている冒険者でさえ、しばらく都市で過ごすうちに「たかが魔物」といった認識となってしまうのです。
定期的に魔物を殺すことを生業としていれば、慣れてしまうのも分からくはないですが……。もう少し危機感を持ってほしいものです。あなた方自身にではなく、被害に遭うかもしれない彼らについて。
まあ実際村へ到着してみると、今回のように、心配しているのは村長さん含む一部の大人だけだったりするのですが。「ワイバーンが出た!」と大喜びして、村の柵から顔を出し、空飛ぶワイバーンを探す子供たちの多いこと。
魔術の発達は、印刷技術や交通の発達にもつながり、こうして遠くの村の人々にまで、胡散臭い魔物退治の英雄譚を広めるに至ったようでした。吟遊詩人の方々にも文句の一つ二つ、言いたくなるわ。
ワイバーンはただ火を吹くカッコイイだけの生き物ではありません。子どもどころか、大人や、身の程知らずの冒険者だって、簡単に殺せてしまう、恐るべき魔物なのです。
もちろん、子どもたちに言っても聞くはずもなく。どころか同行してきた友人も「俺たちは今まで、ワイバーンや、他にも多くの魔物を倒してきた」などと調子のいいことを言って、子どもたちを更に興奮させてしまうのだからやっていられません。
好き放題やっているバカな魔物を、好き放題やっているバカな人間たちで、囲んで殺してきただけでしょうに。
ふと、例えば今ここで一発脅しの火玉でも撃って「さっきまで普通に会話していた私だって、君たちのような子どもは簡単に殺せる」ということを見せつけてやれば、多少は理解してくれるかな?と考え付きました。火玉を出したタイミングで別の友人に止められてしまいましたが。
私はごうごうと燃え盛る火炎を片手に「このぐらいせねばガキどもには分からない」と主張したのですが「お前が危ない奴だと思われるだけだ」と言われ、渋々引き下がりました。一理あります。
しかし、未だ何も理解していない子どもたちは、魔術を使った私に輝いた瞳を向けてきました。これはもう、このガキどもの足元に一発ぶっ放してやらねばならない、と決意を固めたのですが、付き合いの長い友人たちには私から何かを察知できるようで、さっさとワイバーン退治に引きずって行かれちゃいました。
その後、ワイバーンをちゃっちゃと串刺しにして、村へ帰還。ワイバーンの頭を見た子どもたちが、その恐ろしい形相にビビっていたので、とりあえず満足です。
(エスメラ)
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