第20話 ゆうっくりしていってねー・・・

 『・・・このまま押し倒しま・・・』

 『・・・え、まだはやいでしょ・・』



 この世界は危険に満ちている。この何日かで2度も死にひんしたから、僕にとってそうである。 でも僕以外もそうであるならば、あっというまに人は絶えるだろうから、この世界のこの危険の対称性は、僕限定だろう。 僕はこの世界で普遍的な、安定した存在ではない、まだ特別な何かのままだろう。 僕が生き残るには、逆に、そこにつけ込めないか、ん? 今の声なき思念のやりとりは何?



 「留学の話しを出したからには、霊薬体質を隠せるあてがあるのでしょうね?」


 「姫様の御関係・・・神殿の最奥ビハインドモーストに巣くうあやかし、双子ジェミナイ・・・」


 「・・・」 


 なんだ、なんだ今の無言の間は?


 「ヘリオナーペ宮が解放されたので、ここにもはいれます。『いやですけど』」


 僕の体質を隠蔽できそうな人を呼ぶ話しらしい。 だがちょっとまって。

 僕には僕のペースがほしい。 僕以外にまかせるままでは、それだけでも危うい。 主導権がいる。 そういう気が強くする。 


 常識どころか、知らないことばかりだから、知らないまま危険と交叉する、衝突する。 安全からほど遠い、慎重からほど遠い。


 僕はそんな、この世界にピカピカの初心者。 きて1週間もたっていない。 

今は、慎重のころもを何枚重ね着してもじゅうぶんではないだろう。


 それに神殿最奥だか、妖しだか、無言の間をとられ、サテラにディスられるって、しかも双子でって、ダブルで黒い予感しかしない。


 「ねえ、どーいうおふたり?」


 「・・・秘蹟」と、エウドラ。


 「と、戯れ言」と、サテラ。


 「ひせき? ざれごと?」


 「姫様をたぶらかして、魔潟に出向かせの張本人たち」


 「違う、誑かされてない、ギブとテイク」


 エウドラよ、だまされた被害者はみなそう言うね。


 神話的乙女少女のエウドラをそそのかして魔潟にいかせるなど危ないことをさせている?


 だとしたら児童虐待するひもも同然。6歳児としてはよけい会いたくねー一択が正解?


 「なんかこわい、やだ」


 「それでも霊薬体質かくせないと、ラナイはここから出られません」と、サテラ。


 「まって、なんとかするー、なんとかするーから、まって、あわせるのはまって」


 「・・・たしかに、ラナイなら、ペロリと食べられ、もとえペロペロめされ、ふっふっふ」と、僕をいじくってくるエウドラ。

 

 サドな笑顔も彼女がすれば絵になる・・・でもショタが好物の双子の相手するとかきつい、かんべんしてくれ。


 「けれど姫様、いつまでもラナイをこのままここにすまわせるいうわけにもいかないし・・・」


 「なんとかする、なんとかするから、ちょっとまって」


 「本当でしょうか、いいのがれならよくないわ」


 「なんとかする、なんとかするから、まってまって、おねがいします、まって、まって」


 「どうします、姫様・・・」


 「そんなにこわいの、・・・しかたがない、ラナイ。待ってあげるけど・・・自分でなんとかできるあてがあるの?・・・それとも魔潟の出ならできるのかな」


 「やらせてみますか、体質の制御、ダメ元でおてなみ拝見」


 「う、うん、ぼくがんばーるー」



 でも、それだけではだめ、やみくもにがんばってたりないのだ。 


 今更だが、事態の進行、展開が速すぎるのにも、遅まきすぎで気がつかされた。


 リスクを計り対策をたて身構える前に、よくもまあ、次から次へ、次つぎと、重大状況・案件がひっきりなしだ。 僕が2度、ほとんど死んだことすら、そのうちにすぎないと言いきれるほどだ。 


 主導権を握り、進行速度をなんとか遅らせねば。 それとも進行を遅らせ、主導権を握るのか。 こういう場合、両方、同時進行で進行具合をやりくりする、ややこしく、全くしたくないし、全く不得意な方面だ。


 「う、うん、ぼく、がんばーるーからー、まっててーねー、ゆうっくーりーしてーいってねー、まってーてーねー」


 「でもねー、ながくは無理ねー。 こほん。 星下のご裁可でここエウドーラー廓も解放されましたから、秘め事の隠蔽いんぺい維持関連のコストは大きくなったの、おやつの祝福が半減するほど大きくなったの。 それにここの魔法火壁(マファイアウォール)くらい。ふんふん鼻歌交じりで越えてくるのもいる、しね!  ラナイが霊薬体質を隠せないままなら、それを知られるのは時間の問題ですわ」


 「サテラのいうとおり、おやつのお供え、祝福はたいせつ。 だだこねでなかろうと、いつまでもはつき合えない。 だから、期限を決める」


 「う、うん・・・ゆうっくーりーきめ」

 「決めた!」


 はやっ、んもう、このう、エウドラのせっかちさん。


 「その昔、世界は、消防主しょうぼうしゅが七日、遅刻を重ねて焦土と化したと言う」


 「”火の七日間”・・・七日のうちにラナイが自力で何とか出来なければ、神殿からおジェミナイけをお招きすると言うことですね、私もいやですがしかたがありません」


 「神話習しんわならいで制約をたしかなものとする、七日強制力発動!」


 おやつのお供え?祝福に、消防主?なにそれ。 そんな遅刻常習駄目駄目消防主?のお話し、そんな文化的、神話的背景を僕が知るわけがないし、結局、僕抜きで二人で納得して決めてしまうし・・・この主従から主導権をうばうのは全く容易たやすくなく、ベリィ、ベリィ・ハードだ。


 なにか、よほどの意表をつかなければ、霊薬体質になった僕に肉体的にもべったりでハイテンションなこのおふたりは、ゆうっくりしていってねを、してくれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る