第6話 ・・・なにやら

・・・なにやら歪んだ濁音を認識・・・

 「求要酬報、ダゲ助、者難遭・・・」

 えっ?、これは声なのか、声が見える?!

 これって異世界第3種遭遇ってやつ?

 それにしても、なにこれ、幻聴にしても、なんだ、声が見えるって、聴覚と視覚が混線?

 「ダン呼、ゲ助、者難遭・・・」

 えっ?

 「求要酬報、ダゲ助・・・」

 話しかけられても、構音逆さでは滑舌悪さ以前に聴き取れないはずだけど、短ければ、文字化で見えれば意味はわかる。

 なぜ逆さかわからない。 けれどその理由にこだわる余裕がない。

 息してなくてもあの苦痛ないし、どうやってかヘルプミーの心の叫びを聞きつけてか、救難してくれたらしい。有り難い。


  でも今の自分の状態が不安すぎる。

 Kそ、どうなってるんだ、自分は、呼吸も視覚もないし。

 「中生蘇、環一ゾゲ助・・・」 「袋納収、内ゾ吾・・・」

 よくわからないが救護中、なんかの袋の中で蘇生で回復途中といいたいらしい。

 集中治療中ならおまかせするしかない。

 けれど、報酬と言われても、自分に支払えるものがあるかどうか、ます不安。

 「験経動情ド報情体身、払支・・・」

 それって自分を売ることのような気がするけど、救急治療され中で、拒否でき・・・そうにない。

 「中変改応適境環、様仕体身・・・」

 環境にあわせ、体を造り変えている?

 そんなこともできるのか。それで大丈夫なのか。自分はどうなってしまう、不安マックス。 けどあのまま再度苦しんで死に終わりよりはまし。 覚悟を決めて受け入れるしかなさそう。

 えっ、脳もいじるのか。

 「内酬報、痛無・・・」

 

 それは体ごと、人生走馬灯の夢が喰われることだった。



 ぎょっとして、そこで目が覚めた。

 心臓が早鐘はやがねをうっていた。


 僕はそうだ、エウドラに膝枕を強制されて、夢をみていたのか。

 喰われる夢、なんて悪辣あくらつなやつなんだ、僕を喰らうなんて・・・経緯いきさつからしてどうやら前夜の夢がこれにつづくものらしい。 いったいどういうことだろう。 たかが夢のこと、考えても今はらちがあくものでもないか・・・


 目を開けると、向かいのお付き席でエウドラ膝枕の僕を見るサテラと目があった。


 筆頭侍女爵の爵って爵位の爵だ。 仕えるエウドラが天上すぎる位なればこそだろうけど、暗くした車内灯でもわかるずいぶんと若くて見目もよい娘爵さまだ。


 魔法があるのだろう、多少の揺れはあったが、エウドラの寝息がわかるくらい静かな車内だった。


 「あなた・・・僕、うなされていたわ・・・僕いくつなの」

 「んーたぶん6さいじそーとー」

 「姫様の3つした・・・ならありか、8上の私ともありよね」


 「ねえ、サテラおねえちゃんはぼくのこと、きらいじゃないの」

 「いいえ、姫様がお望みであるかぎり、嫌いになるはずがないわ、ラナイちゃんの正体しょうたいが敵でない限りね」」

 「へー、ちゅーしんだねー。 それとぼく、てきとちがう」


 「そう・・・。 いいかな、僕にききたいことがあるの」

 「なあに」

 「姫様のおそばにいるの、いいことだけじゃないの、あぶないこともおおいの、しなくちゃならないの、それわかってるかな、権謀術数といってもまだわからないかな」

 「ケンボージュツスーってしってるよ、ぼくはほんとうのじぶんのことはわすれたけどちしきだけはあるんだ、なんせ、まがたのおとしごっていうんでしょ、ぼくのこと」


 「はー、本物ってわけね。 それに知ってるだけじゃ、だめなのも分かっているような口ぶりね」

 「そのとーりだよ、サテラおねえちゃんもすごいけど、エウドラさまはもっとすごい。 ずのーはちょうのつくてんさいよりうえ。 いろいろとても9さいとはおもえない。 であいのはじめからぼくをだましこんで、にげるきも、すきもくれなかったんだ。 ちしきだけではこんなざまってね。 もうぼく、はめられてエウドラさまとじょうたいエンタングルメント」


 「エンタングルメント?」

 「もつれさせられて、はなれてもはなれたことにはならない、ためいきメンドーありありといういみのことば」

 

 「ラナイちゃん、ラナイちゃんも私と同じ、姫様と一蓮托生いちれんたくみたいなものなのね、でもね・・・まあ、今はそれでいいか。 ところで姫様はああおっしゃったけどラナイちゃんの出とか秘するのは」

 「うん、むりなんだいだよねー、サテラおねえちゃんのおむかえまえからぼくのこと、かくしもしなかったし・・・エウドラさまって、セーリセ―トンへた、すごくあとしまつへた、むじかくにまきこんでかきまわしてあとのこすタイプ」


 「・・・6歳児と会話してる気がしない。 言葉づかいわざとでしょ」

 「うん、ぼく、なみかぜたたないよう、ふだんから6さいじ、ギソーする、どりょくする、そのかくご」

 「ならいいこと、ラナイちゃんは、お優しい姫様に幸運にも拾われた野良孤児のらこじをしてなさい、そう同乗者の申請を通知しておくわ」

 「すじょうふめーすぎて、うそくさ」

 「かまわないわ、ほら、姫様が御自分を評しておっしゃたでしょう」

 「かぶきひめ」

 「そう、ここはそれで押し通しましょう、ごりごり、ごり押しでね」


  話しているうちに、僕はエウドラの寝息が微妙にかわっているのに気がついた。

 側近のサテラはそれに気がつきずみのようだった。

 エウドラも僕らにそれを気がつかれているのに気がついているようだった。

 それでいて、だれもそのことを口にしなかった。

 もしかして僕らは心で通じるものができてきている? 

 そう思うと、エウドラとサテラ、女手2人の仲間に僕は受け入れられた気がした。 


 気が強いほうではないむしろ臆病おくびょうな僕にも矜恃きょうじというものがあるらしい。 

 よほどのことがあるのではないのか、例え嘘だろうがすべてさしだすと捨て身覚悟らしいエウドラ、そして忠臣サテラ。 その2人と頼り頼られの初々しいつながりなら、安易に断つなどしたくなかった。 今はまだ幼い身でも、のぞまれての男手なのだ。 

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