第124話 【新婚編】道中、街道にて拾いモノ

 フィニックス大公領へ向かう馬車に乗った俺達は、王都を通り過ぎ、街道を進む。

 フィニックス大公領はエルフェンバイン公国とグラファイト帝国、レヨン・ベール精霊国に接する位置で、今からだと大体、馬車で五日の行程だ。

 王都から北に位置するフィニックス大公領は、俺とそれなりに縁が深くなったカーマイン砦が領内にあり、有事の際は俺が指揮することになる。

 これからは頻繁にカーマイン砦にも顔を出すことにもなる。


「……転移してもいいんだけど、やっぱり最初は馬車だよね……」


「リオン様、もしかして、飽きました?」


 隣に座る妻になったウィステリアが俺を見上げる。


「飽きてはないけど、五日も馬車の中だと、身体がガチガチに凝り固まりそうでね……。休憩の時に少し身体を動かさないとだね」


「そうですね。でも、こういう時って、よくある話だと、魔物や盗賊と遭遇したりしますよね」


「……いや、リア。それ、フラグ……。俺、元女神関連が解決したとはいえ、一応、巻き込まれ体質がまだ残ってるから」


 やんわりと突っ込むと、ウィステリアはハッとした顔をした。


「ま、まだ残ってるのですか……!?」


「ヴェルとお父さんの話だと、元女神関連が解決して、二、三年くらいは残るらしいよ。次席の神を殺したことによるしっぺ返しをマルーンが俺に回したから誤差が、ね。再生の権能も頑張ってるみたいだけどね。だから、あと、一、二年?」


「……安易にフラグを立てる人達がいなくて良かったです。私も気を付けます」


「そういえば、フラグを立てる一級建築士が俺の周りにいないよね」


『フラグを立てなくても、リオンを巻き込むアレはいたがな』


 馬車内の真ん中にあるテーブルに立ち、紅が呟く。

 ウィステリアが眉を寄せて、俯いた。


「いや、アレは論外だよ。お父さんの話だと、反省の色も、懺悔のようなこともなかったらしいし。一応、伝えておいたんだよ? そういう気持ちが少しでもあって、真摯な態度だったら、罪を軽減してもいいって。無理だったみたいだけど。まぁ、もう陛下が処罰を下して、一度入ったら、刑期が終わるまで出ることも、脱走も出来ないと言われているヒースロウ監獄に行ったし、お父さんからも裁きを下されたから、もう終わったことだよ。会うこともないから、リアが気に病むことではないよ」


 ウィステリアの頬に触れ、笑みを浮かべる。


「リアにちょっかいを掛けなくても、アレは自滅してたと思う。子供の時から罪を犯していたんだから」


 そう告げるが、ウィステリアは少し眉を寄せている。こういうところが、優しいから俺は心配になる。しっかり守らないと、と心を新たにする。


「とりあえず、その話はもう終わりにして、重要なことがあるんだけど……」


「じゅ、重要なこと、ですか?」


 目をぱちぱちと瞬かせて、ウィステリアは俺を見上げる。


「新婚旅行、何処にする?」


 にっこりと笑顔で問い掛けると、ウィステリアが真っ赤になって固まった。


「可愛いなぁ……リア。結婚したんだから、新婚旅行に行きたいよね。行きたいところはある?」


「あの……リオン様。その、ノリノリですね」


「そりゃあ、やっっっとリアと結婚出来たからね。神の俺も念願だったしね。婚約期間が短いようで長かったからね」


 にこにこと笑顔で答えると、ウィステリアも嬉しそうに笑った。


「それに、結婚したんだから、理由付けられて離れ離れ、というのもないし、寝室が一緒でも咎められない。婚約者だった時よりもリアを守られるのが良いね」


「……私も、リオン様の心をいつも守られる位置に立てるのが嬉しいです……」


 顔を赤くしながら、ウィステリアはふわりと花も恥らうような綺麗な笑みを浮かべた。


「……あ、うん。ありがとう……」


 不意打ちを食らった俺は、耳が熱を持ったのを感じながら、隣に座るウィステリアを抱き締めた。

 そこで、ふと常時発動中の魔力感知が馬車より少し先に何かがあると反応を示した。


「ねぇ、紅。この先に魔力の反応があるんだけど、何かな?」


 ウィステリアを抱き締めながら、紅に聞く。


『……魔物ではないが……我には劣るな』


「いや、世界最強の伝説の召喚獣が何を言ってるんだか……」


 抱き締めていたウィステリアから離れ、紅に言う。


「魔物ではない、ということは、召喚獣?」


『そのようだな。どうやら、リオンに関係しているようだな』


「え。俺? また? 召喚獣は今の人数で、もう良いんだけど……」


 特に、今のところは元女神関連のような何か厄介事がないのだから、これ以上は勘弁して下さい。


『それは、相手の話を聞いてからでも良いのではないか?』


「そうだけど……やっぱり厄介事に巻き込まれるってこと?」


『その時は我がリオンとリアを守る。安心しろ』


 金色の目を細め、紅は俺の右肩に乗って、頭を撫でた。

 紅のイケメンな物言いに、俺と多分、ウィステリアはときめいた。

 そんな会話していると、魔力感知が反応した付近に着いたのか、馬車がゆっくりと止まった。


「我が君。少し、宜しいでしょうか」


 ハイドレンジアが馬車の外から声を掛けてきた。


「レン、どうした?」


 馬車の扉を開けると、戸惑った顔のハイドレンジアが立っていた。

 ウィステリアと共に馬車から降りると、グレイ達も戸惑った顔で馬車の先を見ている。

 怪訝に思いながらも、ウィステリアと共に前を見る。


「……あー……成程……」


 前を見て、紅が何故、俺が関係するのか分かった。ウィステリアも分かったのか、どうするの? とでも言いたげな顔で俺を見上げる。


「……紅。ウィスティをお願い」


『分かった。任せろ』


「今から、結界を張るから、レン達もその中に待機ね」


 そう言って、俺は馬車から後ろに物理と魔法無効の結界を張る。

 ハイドレンジア達が結界の中に留まっているのを確認し、馬車の先へと向かう。

 目の前には、じっと俺を見つめる浅葱色の目、金色の毛並みの大きな獅子がいた。

 足を止めると、目の前の獅子は俺に目を合わせるように腰を下ろし、伏せの体勢になった。

 見たことあるなぁ……。既視感が凄いなぁ……。

 あれだよね、乙女ゲームの第二王子の召喚獣だよねー……。

 あれは乙女ゲームの話だし、俺はゲームの第二王子じゃないし、この世界もゲームの世界じゃないし、召喚獣も世界最強の召喚獣と三歳の時に契約したから、獅子じゃなくても……と思っていた。

 それが、まさかの、乙女ゲームでいうところのエンディング後に、会うって、何が狙いですか、ハーヴェストさん。伏線回収なら、早めに言っておいて欲しいんですが!

 と、心が少し荒れつつ、目の前の獅子を見る。

 目をじっと見ていると、緊張しているのか、獅子の目が少し潤んでいる。


「……私に、何か用でも?」


 とりあえず、話し掛けないと、話が進まないと感じ、獅子に声を掛けた。


『……僕を、貴方の召喚獣にして、欲しい……』


 ストレートな返事だった。しかも、その大きさで“僕”とは……。実は、年齢が幼い?

 うるうると拾って下さいと言いたげな獅子は、俺をじっと見つめる。

 よく見ると、金色の毛並みの大きな身体のあちらこちらに、刃物か何かで切り裂かれた裂傷が至るところにたくさんあった。


「……その傷、何があった?」


 眉を寄せて、獅子の浅葱色の目を見る。


『……逃げて来た。貴方に会いに。グラファイトから……その時の傷』


 目を大きく見開いて、獅子の目を見上げる。

 その言葉を聞いた、聖の精霊王の月白が髪の色を月白色に変えて、ふわりと隣に現れる。


『……お前、もしかして、グラファイトの皇子に囚われていたのか?』


『うん。全属性の精霊王に嫌われたグラファイトの皇族は、精霊以外の召喚獣を召喚獣にしないと力が発揮出来ない。僕は、貴方の召喚獣になる予定だったから、ずっと断ってた。でも、捕まって、何度も強制された……。それでも、ずっと断ってた』


 じっと獅子は求めるように俺を見つめる。

 召喚獣は嘘をつかない。

 つまり、目の前の獅子の言葉は、本当だ。

 探せば、良かったのだろうか。

 紅を召喚獣にした時、乙女ゲームの第二王子の召喚獣は獅子だったから、と。

 乙女ゲームの世界とは違うから、いないかもしれないと思っていた。

 獅子の代わりが、紅だと、思っていた。

 だから、探しもしなかった。

 獅子は俺の召喚獣になる予定だったと言った。

 それはいつ、決まった?

 この獅子は、どのくらい待っていた?


『僕は、貴方の召喚獣に、なりたい……。フェニックス様が貴方の召喚獣で、相棒と決まってたけど、僕も、貴方の召喚獣になりたい。女神様は僕も貴方の召喚獣にしてくれる予定だったけど、マルーンに邪魔されて、グラファイトに飛ばされた……』


「……ここにも、あいつ等の被害者がいたのか」


 あの最悪な女神を思い出し、頭を掻きむしりたい気分になる。

 しないけど、苛立ちが募る。

 トワイライトの裁きを受けている最中の、ハーヴェストが作った小さな世界に行って、外側から強力な雷を落としたい。

 追加でトワイライトに、裁きの権能を使ってもらえないだろうかと真剣にお願いしようか悩んだ。

 そして、願いを受け入れるのが、この獅子の癒やしになるのなら。


「……召喚獣に、なるか?」


『なりたい。貴方の、召喚獣に。名前を、付けて欲しい』


 無垢な浅葱色の目で、獅子は俺を見つめる。


「――分かった。名前は浅葱アサギだよ。これから、宜しく」


 そう目の前の獅子――浅葱に告げると、じわじわと至るところにたくさんあった傷が消えていく。

 俺の再生の権能が働いたようだ。


『ありがとう、ご主人様』


「あ、あのさ、その“ご主人様”っていうのは、やめてもらえないかな。何か、開いてはいけない違う扉が開かれるのは困る。ヴァルでいいよ」


 ついでに何故か、鳥肌がひどいので、“ご主人様”呼びはちょっと勘弁して下さい。

 そう思っていると、隣の月白が笑った。


『うん。ありがとう、ヴァル様』


 そう言って、浅葱はポンっと小さな猫のような姿になって、俺の足下にやって来る。


「馬車の中で、グラファイトでのことや浅葱のことを聞かせてもらえる?」


『うん、話すよ』


 浅葱を抱き上げ、結界を解除して、ウィステリアと紅、月白と共に馬車に戻る。




 浅葱から聞いたグラファイト帝国のことで、俺より月白が怒り心頭で、帝国内の、特に皇族達がいる場所全てに漂う聖属性の魔力を消し去り、皇族以外の者達も聖属性の魔法が使えないという事態になった話を数日後に、ヘリオトロープ公爵からの手紙で聞くことになった。

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