転生王子は婚約者の悪役令嬢と幸せになりたい

羽山 由季夜

第1話 物心がつく頃に思い出しました

「ねぇ! この悪役令嬢ちゃん、やっぱり可愛くない?!」


 寝ている俺を揺さぶって、俺の部屋でゲームをする姉が言ってきた。


「お姉ちゃん、私もずっと思ってた! めっちゃ可愛い! お兄ちゃんは?」


 俺より先に妹が頷き、更に意見を聞いてくる。

 重たい身体を動かすが起き上がれず、顔だけテレビの方へ動かす。

 そこにはゲーム画面に映る綺麗な薄紫色の髪、少し吊り上がった藍色の目をした女の子がいた。

 息を飲む。


「……確かに、可愛いね。今度はどんなゲーム?」


「流石、我が弟! よく聞いてくれたわ!」


「このゲームはね、乙女ゲームなんだよ。平民のヒロインが貴族達が通う魔法学園に通って、攻略対象のキャラと仲良くなって、国の危機とかを救う話」


 姉がゲームをほとんどしない俺に分かりやすく教えてくれる。


「攻略対象のキャラのルートによって、誰と仲良くなっていくかで、ヒロインが王妃になったり、聖女として国民に慕われたりするんだよね……」


 妹も補足してくれるが、何故か不機嫌な顔をする。

 話を聞いていて、不思議に思ったことを口にしてみた。


「その話とこの子がどう繋がるの?」


「この子、悪役令嬢のウィステリアちゃんって言ってね、メイン攻略対象キャラのヴァーミリオン王子の婚約者なのよ。で、ヒロインが王子ルートに行くとヒロインの邪魔を何度もしたりするの」


 姉が画面に映ってる女の子の名前と内容を教えてくれる。


「で、卒業パーティーでヒロインと王子に断罪されて、国外追放または処刑されるのよ。どっちになるかは王子との好感度次第。他のキャラのルートでも何故か裏で手を回してました的な内容で、どのルートでも断罪されるんだよ。ひどくない?」


 妹が更に補足してくれる。ずっと不機嫌な顔をしている。


「え、邪魔ってどんな邪魔?」


「ヒロインが平民だから、知らないであろうことを言ってるだけよ。婚約者がいる貴族の男性に馴れ馴れしく近付くなとか、愛称で呼ぶなとか、貴族のルールを説明して窘めてるだけよ」


 姉も不機嫌な顔をして、更に教えてくれる。


「……それ、ヒロインと王子が悪くない? 注意されてるのに聞かなくて、婚約者以外の人とくっつくとか完全に浮気じゃん。こんなに可愛い婚約者を窘められたから断罪とか、俺は無理。窘めただけで処刑とか人の命なんだと思ってるんだ」


 思ったことをそのまま言うと、姉と妹はキラキラした目で「流石!」と言って、俺が動けないことをいいことに抱き着いてきた。


「ちょっ、二人共……!」


「流石、お兄ちゃん! ちょっとヴァーミリオン王子に顔が似てるけど、お兄ちゃんの方がかっこいい!」


「王子の顔知らないけど、それ、嫌だから」


「王子の顔はこれよ!」


 姉が画面を変えて、王子を見せてきた。

 紅色の髪に、銀色の目の見目麗しいけど、俺様系な王子サマだった。何処が似てるんだ……。

 そんな顔をしていたせいか、姉と妹が同時に「目元が」と言ってきた。


「でも、あんたの方がこの王子より、素敵な王子様になると思うけどなぁ……」


「私もそう思う! お兄ちゃんだったら、騎士みたいなかっこいい王子様になると思う!」


 この王子のことをよく知らないが、酷い言われようだなと少し同情した。

 姉と妹はどんどん話を盛り上げており、それを子守唄に俺は眠るのだった。


 それから毎日、姉と妹は俺の部屋で乙女ゲームをして、寝ている俺を起こしてはゲームの内容を全て教えてくれるのだった。

 その度に、悪役令嬢が可愛すぎる、幸せにできないかと姉弟で話していた。





――そして、まさかこうなるとは思っていなかった。


「……王子になってるとか、それはないだろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る