第26話
ユージンとライラの婚約は、あの後すぐに発表された。
「麗しのユージン様があの毒女と婚約!?」と、貴族平民問わず令嬢達は、阿鼻叫喚の巷と化したらしい。
中には、フライアン侯爵家やコックス伯爵家に直接乗り込んでくる豪胆な令嬢もいたくらい、混沌としていた。
そんな状況も若干収束を見せた頃、二人の結婚式が行われる事になった。
結婚する前から、フライアン侯爵家に婿入りする為の当主の仕事の引継ぎで、しばらく侯爵家に滞在する事になっていたユージン。
現当主のカーネルは、ユージンにすべてを任せ、落ち着き次第当主の座を表向きはライラに譲り、領地へと帰る事にしていたのだ。
結婚式の打ち合わせもあり、互いの家を行き来するよりは時間を有効に使う事も出来て、まさに一石二鳥。
・・・・というのは建前で、一番の理由は未だ収まりきらぬ婚約の波紋のために、外出が難しい状態でもあったのだ。
ユスティアとしても、ライラの目を盗みユージンと今後の事での打ち合わせもあった為、物事がスムーズに進んだのは喜ばしい事だった。
ただライラが、ユスティアがユージンに振られた事に対して、見下したくて笑い者にしたくて、何かにつけて接触を図ってこようとするのは鬱陶しかったが。
そして彼等の結婚式が行われる日、やっとユスティアとエドワルドの婚約が発表される事となった。
それはライラとユージンの、結婚披露パーティの締めに発表される事に。
この事は、ユージンからの提案で決まった。
話が出た時ユスティアは、ライラとはもう関わり合いたくはないなと思っていたので、お断りしようとしていた。
だが、一日でも早くユスティアと結婚したいエドワルドが、その提案を受け入れたのだ。
侯爵家のユスティアの居住区の荷物は、ライラにばれない様、秘かに公爵家へと運び出され、引っ越しも着々と進んでいる。
ユージンとの婚約の件で騒がれてはいるものの、優越感に浸りたいライラは、婚約して一気に増えた茶会の招待に進んで参加していて、屋敷に居る事が少なかったのだ。
ユージンやユスティアは外出を控えているというのに、ライラだけはこの状況を楽しみ、悔しそうに顔を歪める令嬢達の姿を肴に勝利感を味わっていた。
おかげで、彼等の結婚式までの間に全ての荷物が運び出され、部屋の中には必要最低限のものしかない。
何せ、彼等の結婚式が行われたその日から、ユスティアは公爵邸へと移り住むのだから。
ユージン様も人が悪いわ。
私達の婚約発表でライラの反応を楽しもうだなんて・・・
相当荒れるんじゃないのかしら。まぁ、私に絡んでこなければどうでもいいんだけど。
夫となる人がそんな事を考えているとも知らず、一人浮かれ遊び歩いているライラの少し先の未来を想像して・・・・
まぁ、自業自得よね。と、彼女の事を考えると腹立たしい事ばかり思い出すので、愛しいエドワルドとの結婚式へと思いを馳せる事にしたのだった。
そして、ライラとユージンの結婚式当日。
ライラは、今まで以上に上機嫌だった。
ドレスもアクセサリーも何もかも、自分の思い通りにできたのだから。
性格は悪いが美的感覚は悪くないライラ。ドレスのセンスもそこそこ良く、ウエディングドレスも白を基調にユージンの髪の色でもある金糸の刺繍を施し、とても上品な仕上がりだった。
全体的に清楚に見える装いで、巷に噂される毒女には全く見えない。
ライラ本人は、自分が全て選んだと思い込んでいるが、陰でユージンがうまい具合に誘導し、出来上がった花嫁姿。
ライラに対する評価を少しでも改善するための意図もあるのだが、狡賢いようで実は単純なライラが面白いように思い通り動いてくれるのが楽しくて、調子に乗ってしまったらしい。
「くれぐれも、やり過ぎないように」と思わず注意してしまう位。
だが、本人は何も気づいておらず幸せならいいのかなと、敢て知らないふりをすることにした。
そんな彼等の結婚式はトラブルが起きる事もなく厳かに終え、会場を移し結婚披露パーティーが始まった。
結婚式にもその後のパーティにも、ユスティアをエスコートしながらエドワルドも参加。
自分の結婚式だというのに、エドワルドを見つけると途端に目を輝かせるライラが相変わらずで、思わず呆れたように溜息が出てしまう。
顔を合わせることは無くても、想いだけは変わらず育っていたようで、パーティ会場ではすぐにでも襲い掛かりそうなくらいエドワルドをガン見していた。
姉の同伴者という事で、挨拶に一言二言交わしただけで、その後は関わる事はなかったが。
燻ぶる想いを抱きながらのパーティも、御開きの時間が近づく。
最後の挨拶として、ユージンとライラが揃い感謝の気持ちを述べた。
「本日は私達の為にお忙しい中おいでくださりありがとうございました。
まだまだ未熟な私達ではありますが、今後ともご指導いただければ幸いです。
そして、最後になりますが、もう一つおめでたいご報告がございます」
ユージンのその言葉に、招待客は何事かと少し騒めいた。
誰もが「もしや、おめでた?」と思ったが、隣でキョトンとするライラを見て違うのかと改める。
そんな会場の人達をぐるりと見渡し、これから起きるであろう事に、思わず笑みが深くなった。
「我が妻、ライラの姉でもあるユスティア嬢が、この度婚約を発表する事になりました」
まるで波の様に大きなざわめきが広がる。
祖母のフレデリカ以上の美貌と謳われるものの、浮いた話の一つもなかったユスティアが、とうとう誰かと婚約をする。
騒めきは次第に大きくなり、収拾がつかないほどに。
そして隣のライラも、信じられないとユージンを見上げた。
「ユージン様!一体何を・・・・」
「あぁ、ライラを驚かせたくてね。私がユスティア嬢に提案したんだ」
「婚約って・・・誰と・・・」
ハッとして会場を見渡すも、お目当ての人が見当たらない。
まさか・・・まさか・・・だって、他国の王族と婚約してるって・・・・
「きっとライラも驚くよ」そう言って会場に向き直った。
「皆さま、どうぞ静粛に。では、お二方お入りください」
そう声を掛けると、おそろいの色を纏った美しい二人が会場に入ってきたとたん、水を打ったような静けさが会場を包み込んだ。
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