第24話

あれから半年が経った。


計画は順調で、ライラの本命は変わらずエドワルドだが自由に会う事も叶わず、ユージンを攻略する事で己の欲を満たしていた。

彼を連れている事で周りの令嬢からは嫉妬と羨望の眼差しを受け、いつもライラを見下す奴らの悔しがる顔が見られてご満悦なのである。


ユージンもライラの扱いに慣れてきたのか、所謂、てのひらで転がしているような状態だ。

だが、時には予想だにできない行動をとる事もある為、油断禁物な所もあるのだが、おおむね計画通りに進んでいる。

それこそ、数か月前のユスティア達の誕生日以来、ライラはエドワルドと顔も合わせていない。

ライラの気持ちをユージンに集中させる為という、これも計画の一つのうちなのだが、余計な事を仕出かすなよ・・・と言うのが、今の所の一番の懸念である。


そう、ユスティアとライラは、とうとう成人した。もう、結婚もできる。

ライラの事がなければ、エドワルドはユスティアの誕生日に結婚をしたかった。だが、ライラが片付いてからというユスティアの希望で、婚約発表すらできていない。

でも、それもあとひと月の我慢。

ユージンの誕生日の日に、彼がライラにプロポーズする事になっているからだ。

二人の交際・・・と言えるのかわからないが、順調にを育んでいる、ようだ。

というのも、ユスティアがユージンに気があるという設定で進めている為、ライラが喜んで邪魔しに入りユージンを奪うように二人の間に割り込んでくるのだ。

そんな時は、必ず悔しそうな感じのリアクションをユスティアがしなくてはいけないのだが、それがなかなか難しい。

ユージンには「俺から見るとちょっと微妙だけど、ライラ嬢にはちゃんと嫉妬しているように見えたみたいだね。ご機嫌に話してくれたから」と言われている。

微妙な評価だが、取り敢えずは及第点を貰えたらしい。


ユージンの誕生日まで、あと一か月。

彼にも色々と準備が必要だった。

まず、誕生日パーティに招待する人の厳選。今回は伯爵家ではなく個人的にささやかな催しという事で、親しい友人しか呼ばない事にした。

その友人達には、当然性癖の事は暴露しないが、ライラの事は話している。

友人たちは彼女の悪評を聞いていた為、そんな人と結婚するのかと心配していたが、半分は政略、半分は恋愛なのだと説明した。

伯爵家の次男で継ぐ家もないユージンは、自分の力だけで生活基盤を確立しなくてはいけない。

それに関しても、自分のに関しても、フライアン侯爵家への婿入りは願ってもない話なのだ。

これまでにもこの美貌に惹かれて、それこそ高位貴族の婿養子の話もあったが、それらは皆ユージンに好意のある者ばかり。

それでは駄目なのだ。

どうせ政略結婚するならば、いつか出会ったあの令嬢の様に叶わぬ思いを抱き続ける人が良い。

実際は、そんな人などいなかったのだが。

婚約者や恋人がいる人、時には結婚している人にも近づいた事もあった。

そんなな彼女らが相手に義理を通したのは、最初だけ。顔を合わせる回数が増える度、気持ちはユージンへと向かってくるのだ。

それを認めた瞬間「ああ・・・この人でもなかったんだ・・・」と興味が失せる。


だが、とうとう見つけた。いや、与えられたと言った方が正しいのかもしれない。

ライラという、自分以外の男を一途に欲する貪欲な女を。

全ての男は自分を愛するのだという、勘違いも甚だしい所もあるが、そんな馬鹿な所は非常に扱いやすい。

そして初めて、自分自身が恋焦がれる女性も現れた。

初めから他の男のもので、決して自分のものにはならない美しい人。

この厄介な性癖を刺激するかのような姉妹は、ユージンにとっては麻薬の様に決して止める事の出来ない、無くてはならないもの。


この二人は、俺がこれから生きていく為の栄養剤だ。

それにライラの事は、確実に手に入れなくては。

初めはユスティア嬢が声を掛けてくれたが、この話が無くなればきっともう会うことも無くなってしまう。

それだけは、絶対にダメだ。

ライラの存在は、ユスティア嬢と俺を繋いでくれる、大切な駒。

とても、大切な大切な・・・・


誰も見る事がない、仄暗い笑みがユージンの口元に浮かんでいた。

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