救済

 あるところにカルト教団があった。

 その教団の教祖は、人間にとって死こそが唯一の「救済」であると信じ、それを教義としている。

 恐ろしげな教義ではあるものの、死期の近い老人や、親しい人を亡くした者にとっては救いとなる部分もあり、教団の外の者に迷惑をかけることもなかったため、特に問題視はされていなかった。


 しかし、教団の規模が大きくなってくると派閥のようなものが自然発生し、中には教団外の人間を「救済」することを教唆するような過激派まで現れた。

 そして、最終的には通り魔として人を殺傷するような信者が生まれてしまったのだ。


 通り魔事件の背景に教団があることが分かると、世間からは恐怖と怒りの声が上がった。

 メディアでも連日取り上げられた結果、政府も事件を重く受け止め、教団に対して解散命令を発令。

 教団を、そして救う相手を失ったことで自暴自棄になった教祖は世界への復讐を決意したのだった。


 教義の性質上、信者から遺贈を受けることも多く資金は潤沢にあったため、その資金力と教祖にまで上り詰めたカリスマ性を活かし、教祖は自身の考え得る限りの悪虐をつくした。

 近くの医療施設から発展途上国や紛争地域まで、あらゆるところに彼はその魔の手を伸ばしていく。

 しかし、そんな彼も流れ弾に当たり、最後はあっけなく「救済」された。


 教祖が「救済」されて長い年月が経過した。

 彼の家のポストには、受け取る者のない感謝の手紙が未だに届いている。

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