Seashell Sisters

大野心結

プロローグ

 私が初めてエマに出会ったのは、彼女がパース空港のゲートの前で私を出迎えてくれていた時だった。エマが視界に入ってすぐに、この子が私のホストシスターに違いないって、私はそう思った。写真で見ていたからだけではなく、私の直感がそう言っていた。エマもそう感じたのかもしれない。私を見るなりにっこり微笑んだ。

「ハイ」

私は言った。

「初めまして。」

手をぶんぶん振りながらエマも言った。

「ハーイ、マヤ!」

エマの人懐っこい笑顔につられて私も微笑んだ。人見知りの激しい私にとって、初対面の人とこんなに早く打ち解けられたのは産まれて初めてだった。


 私たちは車に乗って私のホストファミリーの家、つまりエマの家に向かった。片言の英語で必死に話す私の話を、エマは辛抱強く聞いて理解しようとしてくれていたのをよく覚えている。


 あ、そうだ、いけない、忘れてた!きっとみんなは私たちのこと知らないよね。今から紹介するから。


 私はマヤ。真っ直ぐな黒髪をいつも紺色のカチューシャでとめている。背は日本人にしては高いほうで、父親似のぎょろっとした大きな目と凹凸のない体型が特徴。友達は私のことをおしとやかで優しくて純粋だって言う。


 エマはオーストラリアに住む美少女。とっても長い豊かな金色の髪の持ち主で、それをいつも腰まで下ろしている。目は透き通った青色で、脚はすごく長い。私も日本人にしては手足は長い方だとは思うけど、エマには全然敵わない。そしてエマは、何事にも楽観的で何でも面白くしてしまうのが得意。


 ここまできてみんなは、私達二人は全然似てないって感じたと思う。でもそれはホントじゃない。私たちは二人ともすごく想像力豊かで本を読むのが好き。(二人の一番のお気に入りは『ハリー・ポッター』!)チャレンジ精神旺盛で負けず嫌いなところもよく似ている。それに私たちは二人ともチョコチップクッキーが大好きだし。あれは私たちの大好物!


 オーストラリアに着いてからの一か月で私たちはすごく仲良くなった。私たちはパース動物園に行ってエミューみたいな日本の動物園では見られない珍しい動物を見た。野生のコアラとかカンガルーを見たのも人生のうちで初めての経験だった。ロットネスト・アイランドに行ってクアッカワラビーも見たし、グラスボートに乗って色んな種類の魚も観察した。家の近くのビーチには毎日のように行っていたけれど、私にとっての一番の思い出は、オーストラリアでの最後の日の前日にエマとビーチに行ったときのこと。私たちは海沿いを一緒に歩いているときに一組の小さくて綺麗な貝殻を見つけて、エマのママとパパが〝barbeque on the beach〟(『ビーチでのバーベキュー』)と呼んでいるステーキとソーセージの料理を作ってくれるまでの間、座って貝殻のネックレスを作った。


 これからはずっと、このネックレスが私たちを繋いでくれるんだって分かっていた。お互いにネックレスをつけあった後顔をあげると、エマは私が来てから初めて悲しそうな顔を見せた。パースの海のような澄んだ青色の瞳から大粒の涙が溢れ出て頬を伝っていった。私も同じだった。肩を抱き合って泣きじゃくる私たちを、海に沈む太陽は二人まとめて暖かい光で包み込んでくれていた。

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