第3話 アゴスティーニ

 気まずそうに付いてくるオレリアとクロエを引き連れて、草原の中の一本道を歩いていく。


 このまま街に入ってしまおうというわけだ。時計ウサギの持っていた時計で確認したけど、今は朝の八時みたいだね。時計ウサギ、ハズレだと思ったけど思ったよりも便利だ。


 そんな時計ウサギを左肩に乗っけて歩いていると、草原の茂みから道を遮るように小さなイノシシが二体現れた。☆1モンスターのウリボーだ。


「うら!」


 脅威にならないだろうとそのまま歩いていると、クロエが飛び出してウリボーを二体ともサクッと倒してしまった。


「キョー? なんか落ちたー」

「え?」


 クロエがなにかを拾い上げてこっちにきた。その手にあるのはッ!?


「召喚石!」


 正式名称は「超界のクリスタルの欠片」。召喚に必要な石だ。まぁ召喚以外にも使うのだが、主な使い道が召喚なのでみんな召喚石と呼んでいる。


「ひょっとして、さっきのがチュートリアルだったのか? たしかウリボーが二体出るのは一緒だけど……。課金ができないからどうしようかと思ったけど、これからはこうしてコツコツクエストをして集めるしかないのか……」


 正直言えばかなり面倒だ。だが、課金機能がまだ実装されていないみたいなので仕方がない。


「ありがとう、クロエ。助かったよ」

「にしし、いいってことよ」


 クロエが屈託のない笑顔を見せた。思わず惚れてしまいそうないい笑顔だ。


「先ほどのはマスターを助けたのですか?」

「まぁねー。キョーってば、たぶんすんごく弱いよ? あーしが守ってやらないと」

「貴女にもそういった情があるのですね。意外でした」

「あーしを感情がない女みたいに言うの、止めてくんない?」


 後ろからなんだか険悪な言い争いが聞こえるけど、無視しちゃうぞー。


 オレの視線は、目の前に広がる大きな城壁へと注がれていた。


 モンスターのいる世界だし、城壁で街を守るというのはわかる。でも、壁に囲まれているせいでわざわざ城門まで歩かないといけないのは面倒だな。


 まぁ、面倒よりも安全を取るのはわかるけどね。


「ケンカしてないで行くぞー」


 オレは二人に声をかけて城門をさっさとくぐってしまう。


 そこには、小さめの広場が広がり、石造りの家々が並んでいた。簡素な作り屋台がいくつか立っており、中には石畳に商品を広げたバザーのようなものまである。


 文明レベルは『サマナーズ・フロンティア』で見たとおりだな。意外と人通りが多くて活気がある。


「ひゃー! 目も眩むほどの別嬪さんじゃわい」

「トゥンク!?」

「あの人、猫さんのみみー!」

「ありゃ耳飾りかなにかか?」


 そんな人々の注目を集めていたのは、オレじゃなくてオレリアやクロエだった。二人ともたしかに現実離れした美少女だし、この世界にはいないエルフと獣人族だ。


 だけど、そんなに珍しいか? ここは『サマナーズ・フロンティア』の世界だろ? オレ以外にもエルフや獣人族を連れてるサマナーはいそうなもんだが?


「エルフの長い耳は珍しいんじゃないの?」

「貴女の猫の耳も珍しいのだと思いますよ?」

「猫じゃない! トラだ!」

「君ら、本当は仲いいんじゃない?」

「「どこが!?」」

「まぁまぁ、まずはギルドに行こう。ギルドはどこかなー?」


 『サマナーズ・フロンティア』の愛好者の常識として、オレはこの始まりの街アゴスティーニで受けられるクエストをすべて暗記している。だが、街の地理はゲームでは登場しなかったので知らない。


 まぁ、観光ついでに探せばいいでしょ。


「サマナー風情が生意気言ってんじゃねぇよ!」

「そうだそうだ!」


 なんとなく大通りを歩いていると、物騒な喧騒が聞こえてきた。


 サマナー? あそこにサマナーがいるのかな?


 近づいていくと、一人の女の子に対して五人の武装した集団が囲んでいた。


 よく見ると、女の子は胸にガラスの金魚鉢を抱えていた。その中には、白い魚泳が泳いでいる。その魚の上には、まるで天使のような小さな輪っかがあった。☆2フォロワーのエンゼルフィッシュか。ザコだな。


 なんでこの少女は弱いフォロワーを連れて歩いてるんだ?


 あれか? 敢えて弱いフォロワーを出して、相手の油断を誘っているとか?


「あれ? あの女の子因縁付けられてるの?」


 オレはクロエがむすっとした表情で女の子に駆け寄ろうとするのを抑えた。


「なんで止めるのさ?」

「そうです。クロエに同調するのも心がざわつきますが、助けるべきでは?」

「その言い方はなくない?」

「そうですか?」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。あの子だけど、敢えて襲われている可能性がある」

「「え?」」


 驚く二人にオレは口を開いた。


「あの弱そうなフォロワーを見なよ。敢えてあんなフォロワーを連れてるんだ。オレの予想では、敢えて弱いフォロワーを見せて、相手を油断させているんだ」

「そうかな?」

「そうでしょうか……?」


 あ、なんか女の子が泣きそうな顔をしている。というか、泣いてる。


「あぁん? 泣けば許されると思ってるですかぁ?」

「お前ら散々今まで甘い汁吸ってたんだろ? ちょっと俺たちにも恵んでくれや」

「そうそう。意味はわかるだろ? 現ナマだよ?」

「さっさと出せや!」

「ひぃ!?」

「あるぇー?」


 なんか女の子が泣きながら財布を取り出しちゃった。


 え? 敢えて相手に因縁付けさせて、逆にボコって金を巻き上げる展開じゃないの?


「キョー? なんか女の子泣いてるけど?」

「マスター?」

「おぅ……」


 オレは自分の予想が外れていることを認めざるをえなかった。





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