第48話 ご先祖様、ステータスオープン!

 ほのかさんはその子を見ると、一瞬、顔がこわばった。


麗奈れいなちゃん……!」


 麗奈と呼ばれた、配達員の女の子は逆に顔をパアッと明るくして、


「ほーちゃん! ってことは……」


 その直後、ほのかさんは全裸のままで、地面に飛びつくようにしてその場に土下座した。


「麗奈ちゃん、ごめん! 私だけなの……。パーティで、身体が残ったの、私だけなの……私だけなのぉ……ごめんなさぁい……」


 麗奈はそんなほのかに駆け寄って、


「そっか、でも違う違う、ほのかちゃんが謝ることじゃないから……! 配信見てたよ、ほのかちゃんだって久美子と一緒に殺されたんだもん、ほのかちゃん……あなただけでも生きていてよかった……」


 俺はその光景を見ながら、でもなんとなく状況はつかめた。

 桜子が俺に話しかけてくる。


「あの……久美子ちゃんって、ほのかちゃんのパーティのリーダーだった子だよね……。ほのかちゃんと一緒に和彦君たちが作った毒を飲まされてヘルドッグに食べられて死んじゃった子……」


 久美子さんっていう人はクラスが違うから俺は面識がないけど、同じ学年の子だ。

 それはわかったけど、あの麗奈って子は……?

 とりあえず、抱き合って泣いているほのかさんと麗奈が、落ち着くまで待つしかなかった。


     ★


「久美子はあたしの妹よ」


 麗奈……さん、は俺たちにそういった。


「三つ下の妹なの。このダンジョンの中で行方不明って聞いて……。それで、遺品とか遺骨とか見つからないかなって、一人で探索しながらついでだからアマジョンの配達のバイトもしてたの」


 ついでにやるようなことだろうか?

 しかも一人で……?


「おう、いつもおおきにな、ほれ、チップや」


 ご先祖様がハッピーターンの大袋を持ってきた。

 そういやチップでせんべいをあげてるとかいってもんなあ。

 で、ご先祖様はその袋をあけ、ハッピーターンの包みをひとつ取り出し、それを剥いて、


「ほれ」


 と一枚だけ麗奈さんの口にくわえさせた。


「あ、ひつもはりがとうごじゃいやす、モグモグ」


 一枚だけかい!

 しかも食わせとんのかい!

 麗奈さんは幸せそうな顔でハッピーターンをパリパリモシャモシャ食べている。

 まあ、本人が満足ならそれでいいけど。


「でも、それだったら普通にご先祖様に聞けばよかったのに……」

「いや、ラスボスとまでは知らなかったから。ただ単にダンジョンに住み着いているロリータ趣味の子供だと思ってた」


 そんなやつがいるか!


「で、ほーちゃん、つまりほーちゃん以外の、パーティメンバー……うちの久美子も……駄目、だったんだね」

「はい……ごめんなさい……私だけ……全部食べられなかったから……」

「なにか、遺品とか、遺骨は……?」

「回収できたのはちょっとだけ……あっちの部屋にあるんで、とりにいってきます」


 ほのかさんは裸のまま、向こうの玄室へとパタパタ走っていこうとして、そこにご先祖様が、


「待て待て、裸じゃなんだからこれを着なさい」


 と、今麗奈さんが持ってきた段ボールを渡した。

 しばらくすると、バニーガール姿のほのかさんが戻ってきた。


 うわあ。


 ほのかさん、健康的な体のアウトラインがでていてすごく、こう、いいです。

 Hカップの胸がバニースーツからいまにもあふれ出そう……。

 なんつーか、裸でいるよりもエロく見える。

 着衣って、いいよなあ。

 しかもバニーならなおさらだ。

 バニーガール姿の女子高生……。


「エロい目で見ちゃだめだよ!」


 隣にいた桜子に軽く脛をけられた。

 男子高校生にそれは無理ってもんだろう……。


 ほのかさんは麗奈さんに、なにかを渡した。

 スマホだ。

 そしてひとかけらの骨。

 麗奈さんはそれをじっと見つめて、すごく乾いた笑みで、


「ありがと」


 といった。


「うん、これであたしは帰ります。お母さんに、遺骨を持って行かなきゃ。かたきもとれたし、それもお母さんに見せてくる」

「……仇?」

「これだよ、これ」


 そういや麗奈さんはリュックサックをしょっている。

 それをおろして、中身を俺たちに見せた。


「「「う゛……」」」


 俺と桜子とほのかさんは呻く。

 ご先祖様はピクリと眉を動かしただけ。


 そこには、和彦と、春樹と、美香子ちゃんがいた。

 正確には、三人の物言わぬ生首が入っていた。


「あっちの部屋で拷問されてたから、殺して首とってきた。生き残れると思い込んでみたいで、首切るときにはずいぶん泣きわめいていたよ。……わかる、わかるよ、こいつらを生きて返そうって思ってたんでしょ、でもそれはあんたたちの物語。あたしにはあたしの、あたしと妹の物語があるんだ。ダンジョン特別法でダンジョン内での出来事は違法性が阻却される。だからこいつらを殺してもあたしは罪に問われない。これは、あたしとあたしの家族が、前を向いて生きるために必要なことだったんだ。……文句があるなら、ここであたしが相手になってもいい」


 そして、麗奈さんは、


「ステータスオープン!」


 と言った。


 ご先祖様もにやりと笑って、


「おもろいやないかい。やるか? ステータスオープン!」




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