第44話 救済
重たくて、冷たい。
素人の俺には、とても片手では扱えなさそうだ。
俺は、デザートイーグルを両手でしっかり保持し、今や泣いて殺してくれと懇願する和彦に照準を合わせた。
「悪いが、ミカクロウ、ちょっとそこをどいてくれ」
言われた通りにミカクロウがむさぼっていた和彦の下腹部から口を離した。
口元が血まみれになっているおばさん顔の人面犬のミカクロウは、たたっと走ると、俺たちの後ろでお座りをして待機する。
いうことを聞く、いい奴だな。
美香子ちゃんの子供だとは思えないよ。
さて、改めて和彦をみる。
裸で、床に仰向けになって倒れている。
太ももと下腹部はミカクロウに食われて血と肉がぐちゃぐちゃになっている。
特に下腹部なんかはかなり食われていて、もう内臓が露出しちゃっている。
鼻も食いちぎられて顔の真ん中にぽっかり穴が開いている。
「
ほのかさんの治癒魔法でなんとか命をつないでいる状態だ。
魔法をやめてもらえば、このままほっといても和彦は死ぬ。
自分を殺し、仲間を殺した仇だ、ほのかさんだって別にそれでいいかもしれない。
でも、それじゃダメな気がする。
俺自身が、俺自身でカタをつけたい。
こいつで44マグナム弾を和彦の頭にぶち込んでやれば、すべてが終わる。
「ご先祖様」
「なんや?」
「ほのかさんを生き返らせるのに必要だっていうマゼグロンクリスタルは、回収できたんですよね?」
「ああ。こいつがペンダントにして持ってたからきちんと奪っといたで。おかげで部下に土下座せんですんだわ」
ははは、そんな話もあったなあ。
その部下のトロールゾンビは俺がやっつけちゃったんだったな。
なんだか、なつかしい気もする。
そしてあとは必要なのは、三つの魂だ。
和彦と、春樹と、美香子ちゃん。
デザートイーグルの44マグナム弾の装弾数は8発だから、あと1発のこっているはず。
撃ち方はさっきググって調べた。
春樹と美香子ちゃんをどう“始末”するかはまだ決めてないけど、とりあえず和彦はこれでやっちゃおう。
「そのマゼグロンクリスタルと、あと和彦たちの魂が三つで、ほのかさんを生き返らせることができるんですよね?」
「んん?」
ご先祖様が不思議そうに顔をかしげる。
「なにいっとるんや?」
ほのかさんが慌てた顔で、
「え、ちょっとご先祖様、あれ嘘だったんですか?」
「いやいや、第4話に戻ってちょっと読み直してみい。あたし、なんていってた?」
はい?
どういうこと?
俺はちょっと記憶をひっくり返してみる。
「え、ちょっと待ってくださいよ……。『この世で最も貴重な宝石のひとつ、マゼグロンクリスタルというものがある。そいつを媒介にして、このあたしが呪文をかければ、マゼグロンクリスタルの破壊と、プラスしてあとほか三人の人間の魂、これを引き換えに人間をひとり復活させられるんだよ』っていってます。このころはまだエセ関西弁定着してないですね」
「せや。別に、和彦たちの魂じゃなくて、ただ魂が三つあればええんや。あたしが何百年不死の女帝として生きてきたと思っとるんや」
「あ、英語だとアンデッドクイーンじゃなくてアンデッドキングなのに、日本語だと“女帝”なんだ……」
「“不死の王”より“不死の女帝”の方がなんか特別感あってかっこええやろがい!」
「あ、はい、すみません
「本名を言ったらあかーん!」
そこに桜子が口をはさむ。
「いやそういうのいいんで、ちゃんと説明してください」
「だからな、あたし、別に使い道のない魂、百個くらい持っとるで? あたしを人柱にした上にあたしの娘……つまり慎太郎、あんたのひいひいひいひいひいばあちゃんを殺そうとした村のやつらの魂とか。あいつら皆殺しにしたから」
俺は思わずデザートイーグルをおろした。
「して……殺して……」
うめく和彦。
「和彦はいい声で鳴くなあ。いやーでも村のやつらの悲鳴もなかなかのもんやったで」
と笑うご先祖様に、俺は尋ねる。
「え、魂って保管できるもんなんですか、ちょっと待ってくださいよ、じゃあほのかさんを生き返らせるだけの魂はあるんですか?」
「せや」
「じゃあ和彦たちを殺す必要は特にないとか?」
「いや別に殺したきゃ殺せばええけど? でも死は救済やで? 死んじゃえば苦しみも悲しみも恥辱も痛みも後悔も絶望も感じなくなる。救済や。こいつにそれをひっくり返すような生の喜びは二度と訪れんだろうし、あたしなら殺さずにこのまま苦しんでもらうけどな」
「ころしてくれよぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおおお!!!!」
「うるさい、ミカクロウ、あいつの舌も食いちぎってやれ」
ミカクロウが和彦に飛びついていって、その舌にかみついた。
あ、これってなんか傍目に見るとディープキスっぽい……。
「「うわっ、エロっ」」
ほのかさんと桜子が同時に言った。
ま、その直後に血が噴き出して全然エロくなくなったんだけどね。
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