第40話 なければ痛くない【※※※和彦視点】

 和彦は、眼の前の光景が信じられなかった。

 いや、光景だけではない、自分の状態が信じられなかった。

彼の内蔵はほのかの回復魔法で死なない程度には回復させられていたが、しかし、そのかわりに手足をきつく縛られている。

 正確には、全裸にさせられた上で、手足を縛られている。

 両手首と両手足がくっつくようにきつく縛られ、天井から吊り下げられているのだ。

 背中が曲がって折れそうなほど痛い。

 目の前には慎太郎をはじめとした4人の人物が立っていた。


「うん、見事な駿河問いや。でも、男の駿河問いっていまいちやなあ、裸やと余計なもんがプラプラするし、見苦しいわ」 


 ロリータファッションの少女がそういった。

 コイツがここのラスボス、アンデッドキングだろう。

 なにがアンデッドキングだ、カスが!

 女だったらキングじゃなくてクイーンだろうが!

 なんだその人を馬鹿にしたような甘ロリファッションは?

 自分はそんな恰好しておいて、人間を裸に剥いて、手首足首をくくって天井から吊るす、だと!?


 カスがぁっ!


 くそ、さすがモンスターの親玉だ、やることがえげつない。

 えげつなすぎるだろう。

 慎太郎もほのかも桜子も、並んで和彦のことを蔑むような目で見ている。

 そんな目で俺を見るんじゃねえ。


 人間を、こんなやり方で辱めるなんて、お前らほんとうに人の心があるのか?


 和彦は自分が他人にやってきたことは棚に置いてそう思った。

最大級の憎しみをこめて目の前の敵を睨みつける。

 くそが、視線だけで人を殺せればいいのに。

桜子もほのかも俺の身体を気持ち良くするためだけに生まれてきたメスの肉に過ぎないくせに!

 そんなやつらにいまは裸にされて、宙吊りになっているのだ。

 屈辱だ、屈辱だ、屈辱だ!


「……!………!」


 思わず呪文の詠唱を始めたが、魔法を封じる呪文がかかっていて呪文を言葉にできない。


「なにやってんだ、こいつ今更」


 呆れたように慎太郎がいい、


「ぷはは、さすがにいまのはまぬけすぎ、ぷはは」


 と桜子が笑う。

 四人ともニヤニヤした笑顔(に和彦には見えた)で和彦を眺めている。

 クソがっ! 

 ちくしょうが!

 殺す、殺す、殺したいのに何もできない、むかつく!


「あきらめろ、まだ舞えるとでも思ってんのか、もう舞えないんだお前は。あはは」 

 クソが、むかつく、殺す殺す殺す!

 おれが人を笑うことがあっても人が俺を笑うことは許さん!!


「こいつのせいで俺は死にかけたんです。正直許してやる気にはなりませんね」

「私は和彦君に顔を殴られて犯されかけたからなあ……」

「私は和彦君に殺されたんだよ」

「じゃあ、有罪で決まりやな」


 アンデッドキングがパチンと指を鳴らすと、和彦を縛っていた縄が瞬時にすべて消えた。


「ぐぎゃっ」


 そのままぶざまに床の上に落ちる。

 思わず手をついてしまい、グギン、と肘が曲がってはいけない方向に曲がった。

 手首の骨が砕ける。

 プチプチプチ、と肘の腱が切れる音が聞こえた。


「くそ、いてえ! いてえ! くそがっ」


 叫ぶと、アンデッドキングが実に優しそうな声で言った。


「そりゃいたいやんな。かわいそうにな。じゃあ、痛くないようにしたるわ。あるから痛いんであって、なければ痛くないやんな?」



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