第35話 二つの球体

 魔法で武器をエンチャントした春樹のメイス攻撃。

 それを剣で受けて、俺は思った。


 ――軽い。


 こんなもん、子供の力同然じゃないか。

 実際には、春樹が弱いんじゃない。

 強いのは俺の方なのだ。

 俺にはご先祖様の父である鬼の血が流れている。

 人類を超越した力。

 レベル100の戦士の攻撃力が500くらいだ。

 種としての人間の、最高到達点がそんなもんだろう。

 今の俺の攻撃力が2280だ。

 たかが僧侶のメイス攻撃なんて、まさに児戯に等しかった。


 俺は思い込んでた、俺の攻撃力はただのバグで、俺は無力な戦士なのだと。


 自分で自分の能力を見限っていたのだ。

 だから、弱かったんだ。

 自分を弱くするのに一番よい方法は、自分が弱いと、そう思い込むことだ。

 俺は弱い、ダメなんだ、そう思えば弱くなる。

 今の俺は自分が強いと知っている。

 自分の力を信じれば、その通りの力が出せる、ということを、俺は初めて知った。

 自信。

 それこそが原動力になることがある。

 つまり――。


「俺は、女の子のおっぱいをじかで揉んだことのある男だーっ!」


 男にとって、これはまじで自信になるぜ!?

 それも、無理やり揉んだんじゃない、揉んでいいよと言われて揉んだのだ、それだけの魅力を桜子は俺に感じたのだ、つまり俺は男として認められたのだ!

 おっぱいの柔らかさを、俺は知っている!

 その先っぽのこりこりの硬さを俺は知っているんだぅああ!!

 自信がもりもりと股間からわいてくるのを感じた。

 俺は力任せに剣を春樹に叩きつける。

 春樹の身体が軽く浮く。奴の顔には焦りと恐怖が見えた。

 そりゃそうだ、攻撃力2280の斬撃なんて、今まで受けたことあるわけない。


「くそ、空気よ踊れ、風となって踊れ、敵の血液とともに踊れ! 空刃ラロトー!!」


 僧侶系の攻撃呪文、空刃ラロトーを苦し紛れに俺に放つ春樹。


「ふっ!」


 俺はその空気の刃に向かって息を吹きかけた。

 刃は瞬時に雲散霧消する。

 これがおっぱ……鬼の力だ。


「おぅらぁっ!」


 思い切り剣を振ると、春樹はそれをメイスで受ける。が、勢いを殺しきれず、メイスは春樹の手を離れて吹っ飛んでいった。

 春樹の背後から和彦が攻撃呪文を唱えようとしているのが見えた。

 俺は持っていた剣を和彦に向かって投げる。


「くそっ!」


 おしいところだったが、和彦は飛んできた剣をぎりぎりかわした。

 俺はその体勢のまま、握りこぶしをぎゅっと強く握った。


「なあ、春樹。人間を殴るって、どんな気分になるんだろうな……?」


 春樹はおびえた表情で、


「……やな気分になるからやめたほうがい」


 俺はその春樹の鼻面に渾身の右ストレートを叩き込んだ。

 俺の全力パンチがどんなもんか、ご先祖様で実証ずみだ。

 まずはこぶしの先で春樹の鼻骨が折れる感触を味わった。

 俺の力が春樹の全身に衝撃となって伝わる。

 次の瞬間には春樹の身体が半回転して後頭部から床に落ちた。


「ウエスタンラリアット並みの勢いやな」


 後ろからご先祖様の声が聞こえた。

 その春樹の髪の毛をつかんでひきあげた。

 もう顔面はぐちゃぐちゃで、目玉は飛び出ているし、鼻はひん曲がっているし、歯が唇を突き破っている。


「し、慎太郎、ご、ごめ、ゆる……」


 俺は春樹の声を最後まで聞かず、思い切り右足で春樹の股間を蹴り上げた。

 ぷちゅん、と二つの球体がつぶれるのを脛で感じる。

 きもちわるっ!


「んむーっ! んむーっ! あぐゎーっ!」


 変なうめき声をあげながら、床の上で悶絶する春樹。

 俺は春樹の腹に、思いっきり蹴りを入れる。

 内臓を破壊できた感触があった。

 俺の蹴りの威力で春樹の身体は数十センチほど浮いて落ちる。

 死んではいないようだが、完全に気を失ったようだ。

 まあこのままにしておけばすぐに絶命するだろう。

 

 さて、


「和彦、あとはお前だけだな」

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