落ちてもその先は終わりというわけでない
南方のとある大国。ここは魔法が非常に発達した国だった。この国での産業だけでなくあるとあらゆる物に魔法が使われている。
そしてなぜかこの国で生まれる子供はみな魔法特性をもっており、幼いころから英才教育をうけていた。とはいえ、その家庭、または生まれてくる子供によっては得意・不得意もありそれによって身分などがわかれていた。強い魔法力があるほど権威がある、そんな国であった。
ナナシーはこの国の権力者の娘として生まれた。三歳ほどで強い魔法力をもっているのを認められ、普通の子より早いペースで魔法をつぎつぎと修学。六歳になった頃には一人いた4つ上の姉を越える最年少の上級魔道師となった。
上級魔道師とは禁書にもかかれた高火力の攻撃魔法、ホムンクロスなどの錬成など、神に近い・・とはいえないが、隣国とのバランスをくずしかねない力をもった魔道師だ。その職についたのは数えるほどしかいない。しかも最年少でその職になったのはナナシーが初だった。
ナナシーはその力を同じ学校のみんなや回りの有力者から称えられた。しかし家庭ではそうではなかったのだ。
***
ある雪の降る寒い夜・・・魔法石の淡い青い光の灯籠が街を照らす。有力者が暮らす豪邸のある市街地。夜は静まりかえっている。
しかし、その一角の家から、叫び声と悲鳴が聞こえる。
ナナシーの実家だ。
父親はそれは力のある物ではあったが自分より強い力を持ったナナシーの事を我が子とはいえ気持ちよく思っていなかった。
我が子と比較され、なお自分より上位の立場にいるのが面白くないのだ。そして行き当たりのないやり場のない気持ちは自分より力の弱い妻へといく。
ほぼ毎晩のように口論、暴力と発展していた。 完全な一方的な力と魔法での暴力。有るときは母親は流血する怪我を負うほどであった。
ナナシーはその様を見るのがとても嫌だった。母親に部屋にはいってなさいと言われ、暗い部屋の隅のベッドで姉と一緒に蹲り、悲鳴や怒声が聞こえるたびに姉の胸にすがって涙を流していた。
なんで、こうなってしまったんだろう・・・。
私が生まれてこなければよかったんだろうか・・。
私は死んでしまえばいいんだろうか・・・。
死ねば・・・
死ねば・・・
死ね・・
***
そして、ある日の夜。
ナナシーは意を決して部屋をでた。丁度その日は姉が学校の合宿で家におらず両親とナナシーの3人だけだった。
毎日繰り返される怒声と悲鳴・・。精神的に耐えられなくなり、父親に意見しよう・・。とそう思い、居間に降りてきた。
その時うずくまる母親が目に入る。そして気の狂ったかのような父親が魔法を詠唱しており、母親に放とうとしていた。
上級魔道師であるナナシーはすぐに父親の使おうとしている魔法が母親の命を奪いかねない強力な魔法だとわかった。
そのとき、無我夢中で阻止しようとしたのだろう。
父親を止めようと父親へ向けて魔法を放っていた。だが父親に対しての負の意識の高まりのためなのか・・それとも悪魔にそそのかされたのかもしれない。
父親に放った魔法は、闇属性の上級魔法・・・「XXXXXXX」・・・
父親の足下に巨大なこの世の物とは思えない牙が現れ、父親を下からかみ切り食い散らかした。
血や肉片を飛び散らかしながら絶叫する父親・・ そして返り血を浴びて顔を青ざめる母親。
やがて父親は床に飲み込まれるように消え、そこには血だまりだけがのこり、あたりは静まりかえった。
放心状態だったナナシーは詠唱で使った右手を震えながら顔に寄せる。
・・・ 血で真っ赤だった・・・・
とっさに放ってしまった魔法のため状況が理解できず、母親にすがる。
しかし母親はまるで怪物を見るかのように恐怖し、震えてナナシーを避ける。そして手元にナイフを取りナナシーに向け命乞いをする。
母親に怯えられるのが理解できなかった。自分が命をまもった・・はずだった・・助けたはず・・ なのに・・ なぜ・・。
血で真っ赤になった手を差し向けて母親に近寄る・・。
しかし、母親は発狂しものすごい悲鳴をあげるやいなや、ナイフで自分の首を搔ききりナナシーの目の前で自死をする。
・・なんで・・ ・・なにがあったの・・ ・・・・
《わ た し は 悪 魔 ?》
***
後日、友が帰ってきて状況が明かになる。
血だまり・・ 母親の遺体・・ そして、へたり込んで血だらけになっているナナシー・・。
そして宮廷警備士によって魔法拘束され、詠唱できぬように口を塞がれ牢獄に投獄された。
・・そして、裁判を迎える。
この国には最高刑で「死刑」は存在しない。しかし親殺し、かつ禁止魔法を使っての殺人によって死刑相当の刑をかせられたのだ。
─その罪を神が命終わらせるまで償え─
ナナシーには首と両手に自死をしようとすると身動き出来なくなるほどの激痛がはしる刑具がつけられた。これは上級魔道師でなければはずせない。
それと同時に風魔の入れ墨を施される。特殊な赤い墨で全身に封の呪文をほどこされるのだ。
入れ墨なのでなにを施してもとれるものではない、かつ赤い呪文がおどろおどろしく見える。
これをほどこされた体で魔法を使うとなれば威力が大きければ大きいほどその墨から肉が裂け血が噴き出して死に至るのだ。
・・・強い魔法は使えなくなった。
そして、城門から放りだされる。
顔を上げ、回りを見る・・・みんなの目が冷たかった。いままで称えてきた褒められてきたのがうそのよう。完全に罪人を人を見る目ではなくなった。
もう、死ぬこともできない・・・ 帰るところも・・・
ナナシーは涙が止まらなかった。かといって誰も差し伸べる人はもういない。両親も・・。
「う・・うぅ・・・・!?」
っと、そのときそっと手を取ってくれる人がいた。
はっと思い、涙を拭きつつ顔をあげる。
そうだ・・唯一の家族、姉がいたのだ。
いてもたってもいられない気持ちになり、ナナシーは姉に抱きついた。
そして、ごめんなさい、ごめんなさいとずっとないて謝ったのだった。
***
その日も雪が降る静かな夜だった。
姉は必用な荷物だけをまとめるとナナシーにも荷物を渡した。
きょとんとして姉を見上げると、姉は笑顔でナナシーに語りかけた。
─国を でよう─
─あなたは、けっして悪い子じゃない、お母さんを護ろうとしただけ─
─世界は広いよ、きっとあなたを必用としてくれるひとがいるはず─
ナナシーは涙する。姉は軽い笑みをかけて頭をぽんぽんっと二回叩くようになでると、雪降る中城門を後にした・・。
***
国の外では手かせの意味はわからない、もちろん、体の入れ墨も。
姉と一緒にあっちこっちの国を歩いてわった。たしかに、自分を罪人で見る人はいない。
世界が新鮮でたまらなかった。姉と歩くのがたのしかった・・・。
・・しかし、それも長くは続かない・・・
運悪く、旅路で強い魔物と遭遇してしまい、姉は命を落としてしまった。
姉の亡骸で泣くナナシー。 じりしりと、魔物が背後に迫る。
命の危険を感じたその瞬間・・意を決めて杖を構える。
そうだ、魔法だ・・ 魔法を使えば姉の元に逝ける。そう思い立ったナナシーは、魔物にむかって上級魔法を唱える。
じりじりと体が痛む。血が滴る落ちるのが体をつたってわかった。 これで──
・・っとその瞬間。一閃が走る。
魔物が斬り裂かれ消滅した。
唖然として、前をみると一人の女剣士と、金髪のローブをまとった女性がいた。
「・・大丈夫? 怪我・・しているようね・・」
「・・これは・・なんでも・・・ない・・」
「シィタ!! そっちの倒れている女性を手当して!!!」
「わかったわ!ねぇ様!!」
姉の亡骸に寄り添い、なにかしら魔法を唱える金髪の女性・・しかし聞いたことのない詠唱だった。
そして、彼女は、首を振った。
「ごめんなさい・・今の私の力では命はよみがえらせられない・・・ あなたの、おねぇさまかしら・・」
「・・はい・・」
「せめて・・神の元へ、上がれますように・・」
「シィタ・・ダメだったのね・・・ ごめんね。お嬢さん。力になれなくて・・」
「・・あ・・いえ・・ 私を・・救って・・頂いて・・」
「せめて神の身のもとにもっとちかくに送って上げる。あなたのお姉ぇ様に未練はない?」
「・・え・・」
「最期にふれてあげて・・・いっしょにいてくれてありがとうって・・」
姉の亡骸に手をふれる。そして思いっきり抱きついてなくナナシーだった。
魔物を倒して姉の敵をうってくれた女性二人も一緒に祈ってくれているようだった。
「じゃ・・・ はなれて・・」
金髪の女性が、なにかしらの魔法のようなものの詠唱を始める。
すると光が現れ、姉の亡骸が宙にすぅっとうきあがった。
詠唱をする金髪の女性を目を向けると、なんと大きな羽が生えていた・・。
唖然とするナナシー。
─天使・・・?─
その瞬間強い光に姉の光がつつまれる。そのまま砂のように消え光の柱とともに宙へのまっていったのだった。
***
─これで完全に一人ぼっちだ・・・─
落ち込むナナシーに声を掛けるグレイ。
「あなたの姉はたぶんあなたが生きることを望んだわ。シィタがしっかり天に送ってくれたからこれからもずっとあなたを見守ってくれる。がんばって生きましょう?」
涙目になっているナナシーに笑顔を向けて差し向けるグレイ。
姉が重なって見えた。
「・・あの・・・ わ、私の・・おねぇ・・さんに・・なってくれます・・・か・・?」
んー、っとこまった顔をするグレイ。
「そうねぇー、歳は大分離れているみたいだから・・ 「お母さん」・・かな?」
久々に聞いた母親の言葉・・そして救えなかった母親を思い出し、また涙が止まらなくなる。
「いまはうんと泣いていいよ。悪い気持ちは全部洗い流さないと・・ね!」
「気が済むまでないたら、私達と一緒に行きましょう!世界は広いんだから!!」
・・世界は広い・・姉もいった言葉だった・・ この人達とすすめば、私にはまだ未来があるんだろうか・・
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