第4話カイトside1
「カイト様……」
「ラナ、怖かっただろう」
震えて涙するラナをギュッと抱きしめて落ち着かせる。グレイス王女が突然俺と結婚すると言い出した事に怒り震える。俺の妻になる女性はラナだけだ。
政略結婚で愛のない貴族も多い中、俺達も同様に政略結婚のためにラナと会ったのが最初だった。だが、ラナのコロコロと変わる表情に俺はすぐに恋に落ちた。
事あるごとに好きだと伝え、家に行ってはお茶をしたり、街に出掛けたり、一緒に勉強したりと周りからもお似合い夫婦だなとからかわれる程の仲となっていった。
……後はアンドリュー王太子殿下がグレイス王女殿下を何とか宥めてくれるだろう。
俺達下位貴族はもちろん上位貴族でさえグレイス王女の言動には迷惑している。同じ学院生だったやつらは王女と距離を取り、最低限の会話しかしない。
そういう俺もご多聞に洩れず最低限の会話しかした事はないのだが、王女はどうやら俺の顔が気に入っているらしい。俺は騎士科だ。王女が俺を無理に望むのであれば顔の一つに傷でも付けようと本気で思っている。
ラナと離れる位ならなんだって平気だ。
俺はラナを落ち着かせた後、彼女を家に送り届ける事にした。来て早々帰る事になるが許されるだろう。
アンドリュー殿下が去った後、他の貴族達が早く帰りなさいと促してくれたのも有難い。爵位を持った年上の人達からも王女の行動は目に余ったようだ。まぁ、そうだろうな。苦言を呈しただけの公爵を牢に入れろだなんて前代未聞だ。
「ラナ、もう大丈夫だ。俺は生涯ラナだけだ」
「カイト様。私も夫になる人はカイト様だけと決めています」
馬車の中でも震えるラナを抱きしめる。この温もりがいつも俺を安心させてくれる。
式まであと三か月。
何もなければいいのだが。
ラナを家に送り届け、執事に今日の出来事を話した後、俺も邸に戻った。何となくだが、気分は悪い。まだあの王女から何かあるんじゃないかと。
やはり俺が思っていた嫌な感は当たっていた。
家に帰ってからは執務室で父と母、執事に今日の事を話し、俺はラナと離れたくない、今すぐに婚姻したいと話をした。両親もその事にもちろん賛成だった。とりあえず書類だけは明日にでもラナと交わし、式はそのまま三か月後にしようと話をしていた矢先。ノック音がした。
「旦那様!王宮から使者が来ております!」
侍女が慌てた様子で俺達の部屋へと入ってきた。俺は父と目を合わせた。嫌な予感がする。
「あなた。もしかして」
「……。カイト、隠れておけ。一歩もそこから出るな」
「あぁ。分かったよ。父さん、ごめん」
俺達はもしもの事を考えて動く事になった。執事は父の命で邸を離れた。俺も小さな邸とはいえ、執務室にある小さな隠し部屋へと身を潜める。
どうかすぐに父が来て何事も無かったと言って欲しい。そう思ってジッと身を潜めていたのだが、俺の思いとは裏腹にドタドタと邸に何人もなだれ込んでくる足音が聞こえてきた。
「どこに隠した?」
「嘘を吐いたら家は取り潰しだぞ」
「早く捕まえないと俺達の首が飛ぶんだ」
騎士達は粗方邸を探し回ったのだろうか。
「逃げたようですね」と騎士の一人の声が聞こえた。
「仕方がない。今日はこのまま引き上げだ。明日、またここに来る。それまでにカイト殿をここに連れてくるように。これは王命だ」
騎士達は部屋からまた出ていく足音がした。恐ろしい。
俺は恐怖からガクガクと震える。何故俺なんだ。俺は王女の執着が怖い。
どれくらい時間が経ったのだろうか。騎士達が帰ると言葉を残していたが、実はこっそり見張っているのではないかとも思う。父や執事が知らせに来ないのはきっと理由があるに違いない。
そして、数時間は経ったのだろうか真っ暗な隠し部屋をノックする音が聞こえた。
「カイト、準備が出来た。部屋を出てきてくれ」
父の声にホッとしながら部屋を出ると、そこには疲れ切った顔をした父の姿と執事、ラナの父親とその執事がいた。窓を見ると既に外が白みがかってきている。そんなにも時間が経っていたのか。
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