第39話

「殿下、マリウス殿下」


 ミランダは未だ悄然としているマリウスに話し掛けた。


「うぅ...アマンダ夫人~」


 マリウスはそんなミランダの声も届かない程、ガックリと項垂れたままだ。


「フゥ...殿下、そんなにママのことが好きになっちゃったんですか?」


 ミランダは長いため息を一つ吐いた後、呆れたような表情を浮かべてそう問い質した。


「うん...好き...」


 それに対してマリウスは躊躇なくそう答えた。 


「私よりもですかぁ?」


「えっ!? い、いやその...そ、それはその...な、なんて言ったらいいのか...」


 急にしおらしくなったミランダの様子に気付いたマリウスは、それまでの腑抜けた態度が一変して挙動不審になった。


「そうなんですね...うぅ...酷いわぁ~...私の心を弄んだんですねぇ~...私のことを好きだって言ったクセにぃ~...酷い~...酷いわぁ~...私泣いちゃう~...シクシク~...サメザメ~...」


 ミランダは思いっきりウソ泣きした。


「ま、待ってくれ、ミランダ! そ、そうじゃない! そうじゃないんだ!」


 見事に引っ掛かったマリウスは大いに慌てた。


「じゃあ一体なんだって言うんですかぁ~? グスグス~...」


 ミランダはあくまでもウソ泣きを貫く構えだ。


「だ、だからその...あ、憧れ! そう、憧れなんだよ! 歳上のキレイなお姉さんに対して抱く淡い憧憬なんだ! 俺が本当に好きなのはミランダ、君だけだ! 信じてくれ!」


 マリウスは必死に言葉を繋いだ。


「...本当に? ウルウル~...」


 ミランダのウソ泣きモードは続く。


「本当だとも!」


「...じゃあ私のお願いはなんでも聞いてくれますか?」


「聞こうじゃないか!」


「それを聞いて安心しましたよ」


 凄く良い返事を返したマリウスに、ミランダの態度が急変した。ウソ泣きモードはこれにて終了である。


「あ、あれ!?」


 豹変したミランダにマリウスは目が点になる。


「それじゃあ殿下、早速トレーニングを始めましょうか」


 ミランダはとても良い笑顔を浮かべてそう言った。


「あ、あの...み、ミランダさん!?」


 マリウスは戸惑うしかない。


「歳上のキレイなお姉さんでしたっけ? その人のお陰で心も体も随分と元気になったみたいなんで、今日からはまた厳しく行きましょうね?」


 そう言ってミランダは凄惨に笑った。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 マリウスは堪らず悲鳴を上げた。


「まずはフルアーマーを装備しての行軍訓練から始めましょうかね」


 ミランダはニッコリと笑ってそう言った。

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