第7話
一方、引き摺られて行ったマリウスはと言えば、
「お、おい! た、頼むから放してくれよ!」
「いいですけど、放しても逃げませんか?」
「に、逃げないから! や、約束するから!」
大ウソである。マリウスは逃げる気満々だった。なんだかんだ言ったって相手は女一人だ。全力で走れば逃げ切れるはず。その後のことは考えてない。まぁ取り敢えず、逃げ切ってしまえばなんとかなると短絡的に思っている。
「ならいいでしょう」
不意にミランダが掴んでいた手を放した。
「グエッ!」
情けない声を上げながら地面に倒れ込んだマリウスは、今がチャンスとばかりに立ち上がって走り出そうとした。だが、
「グオッ!」
「あら、シオン。お迎えに来てくれたの?」
「グオッ! グオッ!」
マリウスの目の前には、長い翼を畳んで漆黒に輝くウロコに身を包み、こちらを睨み付けている巨大な飛竜の姿があった。
「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」
驚きの余りマリウスは腰を抜かしてしまった。
「あ、殿下。紹介しときますね。この子はシオン。私の愛竜です」
「あ、愛竜ってなに!?」
初めて耳にした言葉にマリウスは思わず突っ込んでいた。
「愛馬って言葉があるでしょう? 馬を竜に置き換えたってことですよ。私はこの子に乗って王都までやって来たんですから」
「えぇっ!? 馬車に乗って来たんじゃないの!?」
「ハァッ...」
ミランダは一つ大きなため息を吐いた後にこう続けた。
「殿下、ウチの領地から王都までやって来るのに馬車になんか乗って来たら、一体どれだけの時間が掛かるか知ってますか?」
「い、いや知らない...い、一週間くらい?」
「一ヶ月掛かるんですよ。そんなことも知らないなんて、殿下はどれだけ私に興味がなかったんですか?」
「も、申し訳ない...」
マリウスは縮こまって謝るしかなかった。
「そんなチンタラ時間なんて掛けてらんないから、この子に乗って来たんですよ。この子ならひとっ飛びですからね」
「そ、そうなんだ...」
「ほら、行きますよ? さっさと乗って下さい」
そう言うなりミランダは、ひょいっと身軽に飛んでシオンの背に着地した。だがマリウスは尻込みしたまま動こうとしない。
「殿下、大丈夫ですよ。この子は大人しいんで噛んだりしません。怖がらなくても平気ですって」
「い、いやその...じ、実は死んだジッチャンからの遺言で『なにがあっても飛竜には乗るな』って言われてて...」
終いにはそんな苦しい言い訳を始める始末。
「...シオン、やっちゃって」
「グオッ!」
カプッ(咥えた音) ポイッ(放り投げた音) ペシャ(背中に乗った音)
「はい、いらっしゃい」
「えっ!? あ、あれ!? い、いつの間に!?」
一瞬の内にシオンの背に乗ったマリウスが仰天する。
「じゃあシオン、飛んで」
「グオッ!」
そんなマリウスを無視してシオンは大空に飛び立ったのだった。
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