第9話 鬼退治
和陽北部の鉱山の
鉱山は資源運搬の為に道が整備されているが、
源内が言うには
「お願いリント」
私はリントの背中に跨った。
「任せてね」
リントは翼を羽ばたかせ、夜の空へ飛んでいく。
視界の遠くの方に街明かりが見える。西部の遊郭街だろうか。
集落に近い山々は木々が少なく開発されている。奥の方はまだ木々が残っている。
少し肌寒い。雲は少なく月明りが射している。下にはリントの影が見える。
目に映る景色の端から端まで森が続いている。
夜に冒険をする冒険者は少なくない。
暫く飛び続けると、森の色は濃くなり、街明かりも見えなくなった。
「結構奥まで来たね」
「これさ、暗視の
「確かに、街明かりが白く見えてたから、松明とかの明かりも白く見えるかも」
「妙に白い部分がちらほらあって、ある程度のスペースがあるとこを探さないと。なら、もっと低めに飛んだ方が良いかな」
リントは高度を下げた。
私は
数分後、遠くの方に異様に広い空間と、数個の白い点を視認した。
「リント、一時の方向に飛んでくれる?」
「あいよお」
やはり、その空間は
そして、別格の存在感を放つ巨大な影が一つ。右手には極大の金棒、東部には威厳のある上向きに曲がった角。
「おっ。見つけたね。あの
「無視して
(ここまで山の深部にくると、
(戦闘においてかなり重要な初撃。私はその初撃を視界の外(空)から不意打ちとして放つことができる。加えてリントも私も範囲攻撃の技がある……)
冒険者は
それはドラセナもまた然り。
戦闘を構成する要素……。自分の
自分が持っているアドヴァンテージを最大限に生かす方法を考える。ティルナノーグでのラティとの戦闘で言えば、戦場にある血熟のリンゴを食べるとリントの攻撃が強化されるという点。
前回のように、イレギュラーな急な能力の強化は望めない。
今ドラセナとリントに与えられたアドヴァンテージは、空からの攻撃が可能である点と、まだ敵に気づかれていない点。
その二つを最大限に生かすため、ドラセナは戦闘を形成するもう一つの要素を利用した。
「リント!作戦がある!」
「言ってみて!」
「私は
「群れに飛び込むとか……また無茶なことを。でもまあ、なんとなくドラセナがやりたいことは分かったよ」
「おお流石!んじゃ任せた!!」
「ちゃんとすぐに退避するんだよ!!」
リントは円環を成す
タイミングを見計らい、私はリントの背中から飛び降りた。
右足に魔力を送り、帯電させる。ゴブリンが囲っている焚火の辺りの地面を狙う。
着地と同時に、帯電した踵で焚火ごと地面を叩きつけた。
雷が落ちたような轟音と砂埃、焚火が引き取んだ末の火花が周囲を覆う。
「
私は右の踵に集中させていた魔力を解き、全身に魔力を行き渡らせる。
(出来るだけ広範囲に、魔力の節約を考慮して数秒麻痺させれる程度の電気を放つ!)
私を中心に放たれた稲妻は、一帯に群がっていた
電気を浴びた数十匹の
私はその隙に
視界の上の方から、私を降ろしてから旋回してきたリントの姿が見えた。
「
リントはドラセナが自身の攻撃に巻き込まれない位置に移動したのを確認し、攻撃を放った。
ドラセナは大きくジャンプしてリントの背中に飛び乗った。
氾濫したかのような水流の暴威が、麻痺により動けない
水流に飲み込まれた
この
ドラセナが利用した戦闘を形成する要素……。
それは、「
自分がどんなの能力を使うのか、相手がどんな能力を使うのか、それらは確かに重要なことだ。
互いの能力には相性がある。遠距離攻撃を得意とする冒険者と近接攻撃を得意とする冒険者が戦ったとして、前者は接近されれば勝算は薄い。マッチアップは必ずしも対等とは限らない。
だが、大半の場合「いつ戦うのか」「どこで戦うのか」は両者に平等に与えられた条件。
ドラセナは後者の「どこで戦うのか」に目を付け、「西側に崖がある」ことを知り、
崖には木作が設置されているが、木作程度ではリントの
水流に飲まれた数十匹の
「おお~。壮観壮観」
ドラセナを乗せたリントは一度上空に対比し、状況の確認を行う。
「お、一匹残らず掃除できたね。偉いよリント」
「どやあ!!」
「次はメインディッシュがやる気みたいだね」
巣の北のほうにある階段から、激昂した
「おいおいまじか!?」
リントは驚愕しながら額に冷や汗を流す。
「うそでしょ!」
私も目に映った光景に言葉が飛び出た。
巣の階段の上にある巨大な空洞から、二体目の
二体目の
二体目の
『えっ』
一体目の
周囲に噴水のような血しぶきが飛び散り、顔が潰された二体目の
「仲間割れか!?」
「いや……」
一体目の
「おえっ……なにやってんだあいつ……」
すると
痛みと憎悪を存分に含んだ雄叫びが二つの顔から放たれる。
「リント、来るよ!」
肉片は衝撃により弾丸へと変貌し、空のリントを襲う。
リントは急降下して肉片を回避し、旋回しながら
リントは再び攻撃を回避する。
「ドラセナ、どうする?」
「戦うしかない。あの大きさだと私の打撃で削るのはしんどそう。顔は増えたけど腕や足は増えてない。でも心臓が増えた可能性も捨てきれない」
「的がでかいし動きも遅い。体力は多そうだけど、こっちも大技を当てやすい」
「あの巨体なら一度でも体制を崩すことが出来たらでかいな」
(どう戦うか……。大技を当てれそうと言っても、あの大きさなら相当体力がある。大技で削り切れなかったら大量の魔力を消費してジリ貧だな……。リントが言うように、あいつの体制を崩せれば心臓を狙える。さて……)
リントが攻撃を回避するため、大き体制を変えた。それにより、ドラセナが腰に帯刀していた
「よし!リント作戦は―――――」
「了解だけど、怪我の一つでもしたら許さないからな」
「分かってるって」
「じゃあいくぞ!!」
攻撃の隙を見計らい、リントは高度を低くして私を地面に降ろす。
「
私は両足を中心に魔力を送り、身体機能を大幅に向上させた。
正面に双頭の
全力で注視すれば、至近距離で躱せない訳ではない。
金棒が地面に叩きつけられるたび、姿勢を崩すほどの振動が周囲に伝わる。
私は大量の砂埃と石の破片を搔き分けて、
(まだ!まだ高さが足りない!)
振り降ろされる金棒と落石、足を奪う振動。それらを両壁と手すりを利用して何とかいなす。
(最上段まであと2段。よし!十分な高さ!!)
私は上空で待機していたリントに合図を送った。
「
リントの攻撃はティルナノーグでの強化により、
だが、
憎悪に駆られる
そんな
リントの
ドラセナは今まで回避の為に足に回していた魔力と電気を右腕に集中させた。
「
ドラセナは右腕に溜めた魔力と電気を、
放たれた紫色の稲妻は龍の容貌へと変わり、甲高い音を轟かせながら
巨躯が階段から転がり落ちる。その振動にドラセナは思わず片膝と片腕を地面に着く。
転げ落ちた
「リント!!お願い!!!」
「
先ほど、
上空から放たれた凄まじい威勢の水流は、戦士の防具を穿つ槍のように、
攻撃が終わり、周囲に水飛沫と血飛沫が雨の様に飛び散る。
束の間の静寂。狼の遠吠えが木霊する。
一体目の
その進化は外見が変化するだけではない。
ドラセナの予想通り、
超高水圧の
投げられた金棒は、その巨体からは想像できないような速度で上空のリントへと迫った。
「やばい!!」
リントは回避を試みるが、金棒の大きさとその速さ故に被弾を覚悟する。
大地の震動に足を奪われたドラセナだが、その目は、敵の動きを見逃すことは決してなかった。
腰に帯刀した
今日の朝初めて手にした刀。大剣や戦斧、他の武器ではなく刀を選んだ理由。
それは新しい技を思いついたから。
腰を低くし、
刃の部分をモデルとし、刃を覆うように電気を帯電させる。
ラティとの戦いでの血熟のリンゴの投擲の経験を経たドラセナは、自身とリント以外のものに電気を帯電させる感覚をものにしていた。
(電気で刃を延長させるイメージ。先端はより鋭利に、その分魔力と電気の密度は高く。真ん中の方も、あの巨体を切るためにちゃんと意識する!!刀で物を切るイメージも忘れずに。新技だからって怯むな!!)
(今!)
「
紫色の電気の刃は、夜空に舞う金棒を両断した。
ドラセナの
「
超高水圧の水流が、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます