かけら
瀬尾あゆみ
ひかりは
毎日通っているはずの道が、なぜだか知らない道のように感じられた。
不思議な感覚だった。なんとなく怖くなって、自転車のペダルを強く踏む。
いつも通りの土手の上。左側には枯れかけている雑草、その奥に畑が広がっている。反対側は住宅街だ。この近道を見つけた友人が以前、二階建ての家より視点が高いとはしゃいでいたことを思い出して、前傾気味だった姿勢をくっと伸ばしてみた。
瞬間、ぱっと夕陽が目に飛び込んでくる。
やわらかな光を浴びて、やっと先ほどからの違和感の正体に気がついた。太陽は雲に隠れていたが、それでも明らかに昨日までとは違う表情をしている。
青さを失いつつある草に、畑に入りこんだ野良猫に、路地に置き忘れられたボールに、でこぼこのアスファルトに、どこからか漂ってくる焼き魚の匂いにも、ひとつひとつに秋を教えるような光だった。
どことなく寂しいような、それでいて懐かしいようなその色。自転車のブレーキを握った。きゅっという音が響く。とん、と地面に降り立つ。ひとつ深呼吸をする。
秋が、すぐそこにいる。
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