第43話
翌朝。外から聞こえる土砂降りの音によって目を覚ました。
「最悪……」
湿気で肌はべたつく。髪の毛もボサボサ。また今日も日の光で気持ちよく起きられるかなと思えば、土砂降りの音で目が覚める。
昨晩はよく晴れていて、新月だったために星がきれいに見えていた。多少雲はあったが、明日も晴れかなと思っていた。だが実際は大雨。
憂鬱な朝だ。
起きたらすぐ出発しようと思っていたので、朝ご飯は食べないと言ってある。ただ、代わりにお弁当を作ってくれるらしく、それを受け取ってから出発だ。
今日1日は海沿いに進もうと思う。海沿いに進むから晴れて欲しかったのだが、まあ天気には逆らえないだろう。
陸を進んでも地面がぬかるんでいて気持ちが悪いが。まあどっちもどっちだな。旅は晴れていた方が良い。
お気に入りの柔らかい皮と、必要部にだけ金属がつけられた装備を着て出発の準備だ。駆け出し冒険者みたいな格好だけれど、動きやすくて私は気に入っている。
全身ガチガチに覆う防具も防御力が高くて良いと思うが、動きにくいのはデメリットだと思う。いくら防具が堅くても、動きにくいせいで避けられたはずの攻撃が当たってしまえば意味が無い。
私は軽い方が好き。
特徴的な下駄の音を鳴らしながら階段を下っていく。
時刻は6時半。厚い雲のせいで外は暗いが、晴れているのならば出発にちょうど良い時間だ。
「おはようございます」
「おはよう。嬢ちゃんは不思議な靴を履いているから、降りてくるのがわかりやすいねぇ。はいこれ、お弁当」
「ありがとうございます」
「大分雨が降ってるからね、くれぐれも気をつけてな」
暖かい女将さんに背中を押され、この居心地の良い町を後にする。
きっといずれどこかで定住するときがあるだろうから、そのときにもう1回来たいなぁ。そのときにはお米と醤油を持って行きたい。
こういう雨の時、どうやって旅をしてきたかというと、頭の上に大きな結界を張っていた。雨だけ弾く結界。イメージすれば簡単に出せるから非常に便利だ。
傘を作っても良いのだろうけれど、傘を持っていれば狭いところを歩くときや、森の中では邪魔だ。ここは整備された地球の、観光用自然では無いのだから。
だからといって雨をずっとかぶっていれば風邪を引く。少し休憩で地面に座ったりとかもしにくいからやっぱり雨は好きじゃない。
波の音をかき消すかのように大きく音を立てて降り注ぐ大粒の雨。遠くの方からは雷の音が聞こえてくる。もちろんこの世界に雨雲レーダーなんて物は存在しないので、気にせず前に進む。
ここでレインコートでも着て雨風を避けながら進んでいったら。厳しい冒険って言う感じがして見応えがあるのだろうが、やっている側からしてみればただの苦行。私は結界を使わせて貰う。
崖の下。海岸沿いを歩いて行く。
波が高く、白波の立つ大海原は、風が吹き荒れ、巻き上げられた海水は、追加で展開した結界に弾かれる。
結界は崖側だけ開けて、他の面をぐるっと覆っている。崖側だけ開けているのは、完全に塞いでしまうと結界内の空気が乾燥して嫌だからだ。
下駄の凹凸を上手く石にはめながら歩いて行く。今使わなくていつつかうんだということで、しっかりと手も使いながら進む。汚れた手は洗えば良い。
旅はそう頻繁に何かが起きるわけではない。丸1日そう面白いことも無く変わらない景色の草原を歩くなんて言うことは普通だ。
全く同じで、ゴツゴツとした岩と、水に濡れてジャリジャリになった砂浜が続く海岸線を、ひたすら雨に打たれながら歩いた。
腕時計を見ると、現在の時刻は12時を回ったところ。朝御飯を抜いていたと言うことで相当おなかがすいている。
身体強化を掛け、常に結界を張りながら進むというのは、慣れている物のそれでも疲れる。
今回は足下が悪かったからなおさらだ。
雨脚は弱まる気配を見せない。良い感じの洞窟があるのでそこに入ってご飯を食べようと思う。
「これは……、天然ではなさそう?」
偶然近くにあった中程度の洞窟に入ってみると、中に人工物のようなものがあるのを発見した。何かの門のような。
探知魔法で辺り一帯の地形を把握してみるが、何かこれと言ったものがあるわけではない。門をくぐればすぐ行き止まりだ。
まあいい。食べ終わったら軽く探索するとして、今はお昼ご飯を食べる。
おなかペコペコだ。
アイテムボックスからお弁当を取り出す。木を上手く削って作られたお弁当。どことなく母のお弁当を思い出した。
ちょうど良い岩に腰を掛け、膝の上でお弁当を開ける。
「おいしそう……」
中には、魚のフライが挟まれたパンが入っていた。フィッシュバーガーのバンズをパンにしたみたいな感じだ。アイテムボックスは時間の経過があるので熱々というわけには行かないのが残念だが、ありがたくいただく。
「いただきます」
別に誰も見ていないからと大きく口を開けてそのバーガー風にかぶりつく。
旅の中でも食事の時間というのはやはり特別だと思う。
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