閑話② マイヤ視点
「本当に来ちゃった……」
翌朝、ホテルが比較的王城に近かったと言うこともあり、歩いて王城へとやってきた。
王城の大きな門の前には、見張りが立っていて正直少し怖い。
「大丈夫かな、近づいても刺されたりしないかな……」
大丈夫だと思う。あのギンさんが言ったんだ。きっとなんとかなる。
よしっ、と思い切ってゆっくりと見張りの元へ近づいていく。
「どうされましたか?」
「ひっ、あ、あの、この手紙を預かったんですけど……」
「手紙? 拝見させていただきます」
甲冑を着ていて怖そうだったけど、話してみたら案外優しそうな人たちだった。
やっぱり門を守っているだけあって比較的ベテランなのだろうか。見る限りでは非常に強く、歳もそこそこ行っている。
敵に回したら正直きつそうだ。
「こ、これは……!?」
「どうしたんだ?」
「見てください……」
「なっ!?」
渡した手紙を見て驚いた様子の門番。
まだ中すら見ていないのにどうしてそこまで驚くのだろうか。
「えっと、この手紙をお渡ししたいのですが、王城で働いているとしか聞いてなくて……」
「あの、お手紙は誰からいただきましたか?」
「イワミギンという人なんですが」
そういうと、やはりか……、とかつぶやきながらひそひそと話している。
どうやら門番はギンさんのことを知っているらしい。
「分かりました。少々お待ちください」
そういって、魔道具で何やら連絡を取っている。
迎えの者が来てくれるらしいので、直接渡すと良い。だとか。
迎えの者が来ると言うことは、相当上位の人なのだろうか。とりあえずおとなしく待つことにする。
数分後、急いだ様子で上級そうな見た目をしたおじさんがやってきた。
「お待たせいたしました。すぐにご案内いたしますね」
「はい。ありがとうございます」
ようやく手紙を届けられる。
ギンさんなんで王宮の重要人物みたいな人と知り合いなのか。あの人の交友関係はよく分からない。
「いやぁ、まさかギンさんからお手紙が届くとは思っていませんでした」
「すみません。私誰宛の手紙なのか知らないのですが、どちらへ宛てた手紙なのでしょう」
「国王陛下ですよ」
「……ん?」
「国王陛下です。さぁ、この部屋にいらっしゃるので、お入りください」
「……」
なに? 国王陛下?
……そういえばギンさんは黒のギルドカードを持っていたはず。
なるほど。そういうことか。
「し、失礼します……!」
しっかりと扉を3回ノックしてゆっくりと入る。
どうやら人払いをされているらしく、この部屋で王様と2人きりだとか。
緊張して俯き気味になっていたが、なんとかゆっくりと顔を上げる。
おひげを生やした威圧感の凄い王様がいるに違いない……。
「え? 若っ」
「あはは、そうかそうか。確かに若いかもな」
「ううぇぇっ!? すみません!」
「大丈夫大丈夫。緊張しなくて良いから、とりあえずそこに座ってくれ」
え? そこに座る?
なに、床に土下座すれば良いのかな……。
「えぇ!? なんで土下座するんだよ! ソファーソファー!」
「は、はい!」
本当に、優しい王様なのかもしれない。
そりゃあ人を見る目がありそうなギンさんが友人と認める人なのだから、きっと大丈夫なのだろう。
「で、なんの用かい? 私は宰相から私に話があるということのみ聞かされているだけれど」
「えっと、手紙を預かってきたのでお渡しいたします」
「手紙? だれからだ?」
「イワミギンという人です。お知り合いですか」
ガタッ!!
ギンさんの名前を出した途端、驚いたような表情を見せて椅子から立ち上がった。
驚いて少し後ろへのけぞってしまったが、激しく鼓動する心臓をなんとか抑え、平常心を保つ。
「……知り合いも何も、私が恋い焦がれている人だよ」
「えぇ!? そうなんですか!?」
ま、マジで!?
ギンさんってもしかして王妃候補みたいな感じなの!?
「えっと、え?」
「あぁ、フラれてしまったよ……。私が生きているうちに戻ってくると行っていたから、それまでにこの国を良い所にしようと思っていてね」
「そうなんですね」
この国は、現在の国王。つまりは目の前に居る若い男の人に変わってからは、民の生活が楽になり、経済も成長しているという。
その根底には愛の力が合ったと言うことなのだろうか。
「少し聞かせて貰うが、ギンは私のことを何か言っていたか?」
「えっと、信用できる数少ない友人? と言っていました」
「友人、か……。これは望み薄だな」
「いやいや、分かりませんよ? あの人経験少なそうですし」
「それは確かに。って、私の話は良いんだ! それより手紙、手紙を読ませて欲しい」
「あ、失礼しました。今お渡しいたします」
恋バナの予感がして女の血が騒いでしまった。本来の仕事を果たさねば。
それにしても、さすがはギンさんが認めた人なだけはある。凄く親しみやすいし、邪悪なオーラを感じない。きっと凄くいい人なのだろう。
「では、読ませて貰う」
そういうと、手紙を開けてじっくりと隅々まで目を通すように読み始めた。
時折顎に手を当てて考え込むようなポーズを見せたり、目を輝かせたりと、一喜一憂しながら楽しそうに手紙を読んでいる。
こう見るとこの王様は結構可愛い。まだ20くらいの若い王様。若くして国をまとめているのは凄い。
きっと力量があるのだろう。
そんなことを考えながら、のんびりと手紙を読み終わるのを待っていると、そこそこの長い時間が経って、王様が口を開いた。
「……手紙、読ませて貰ったよ。
この手紙を届けてくれてありがとう」
「あの、どのようなことが書かれていましたか?」
「ああ。近況報告だったり、最近あった面白いことだったり、それに君とした冒険のことも書かれていたよ。
私の噂を町で聞いたとか。良い魔道具を手に入れたとか。そんなたわいも無いことさ」
「……それだけ、ですか?」
「嫌違うね。君を王立魔法学院に入学させて欲しいとも書かれていたよ」
「魔法学院?」
「そう。ということで、今から君は王立魔法学院の生徒だ。特待生として優遇するから、勉学に励みたまえ」
は? 王立魔法学院の生徒?
確かベルフェリネ王国の王都にある王立魔法学院は世界でも有数の名門校だったと思うのだけれど。
入学料金は安く、貴族平民関係無しに入れる国の教育機関。
上下関係は魔法の腕のみ。たとえ平民でも、貴族よりも魔法の腕が良ければ、学内においてはその平民の方が立場が上。
完全なる実力社会。それが王立魔法学院だ。
その特待生とは、相当な実力が保証された生徒が1年に数人のみなることが出来るもので、授業費は全額無料。食費も無料で、寮は他の生徒よりも豪華な部屋が与えられる。
それに、そのまま順調に卒業すれば、国の機関で雇ってもらえることが確定する。
誰もがうらやむ待遇だ。
その実力の保証の仕方は、近衛騎士団副団長以上の実力を持つものから直々に認められないとなることが出来ない。
毎年受験の前になると、騎士団の副団長、団長はその審査で動けなくなることもあるらしい。
倍率は計り知れないほど高い。
「あの、私は実力の保証をされていないのですが」
「いや、されてるさ。ギンが言うなら間違いは無い。どうやら魔道具制作が得意らしいね」
「え、はい」
「魔法は使える?」
「まあ、そこそこには」
「ギンと戦ったことはある?」
「1度だけあります」
「どうだった? 攻撃は与えられたかい?」
「はい。まぁ、ちゃんと戦ったわけではないのですが、先制攻撃で相当なダメージを負わせられました」
「うん。じゃあ特待生で良いよ」
例のお風呂での事件を思い出す。
あれは戦ったと言えるのだろうか。流れで発言してしまったが、嘘つきにならないかな……。
「よし、学院には……、じゃあ1週間後から通って貰おうかな」
「え!? 一週間後ですか!?」
「そう。これから頑張ってね!」
「えぇ……」
私、なぜか学院の特待生になってしまいました。
え? 気がついたらエリートコースを進んでいるのですが……。
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