第24話

「いや~、本当に助かったよ。ありがとう」

「こっちこそ。行き先も決まったし、こうして魔道具市に来れた。それにお金まで」

「じゃあ、俺はこのまま客のところに行くから、嬢ちゃんも楽しんでな」

「うん。ありがと」


 しばらくに渡るジェノムとの旅が終わった。

 到着したのだ。ジェレイ王国の王都、レグニタウンに。

 レグニタウンは西洋風の建築のなかに仏教の趣を感じるような、不思議な町並みが広がっているのが特徴的だ。

 人もそこそこ多い。服を見た感じだと比較的裕福な国みたいだ。


 市が開催されているレグニタウンの中心部にやってくると、そこにはたくさんの人の姿があった。

 ただ、暑苦しいほどの人混みというわけでもなく、回るにはちょうど良い人の数だ。

 魔法を使うのに良いと言われる杖を持っている人や、どこかの貴族の使用人のような格好をした人が多いため、おそらく一般向けというよりはお金を持っている人、それを生業にしているような人向けに開催されているのだろう。

 まぁ、一般人も結構いるみたいだが、おそらくそれはこの町に住む人なのだろう。わざわざ別の町から一般人が訪れるというのはないかな。


 さて、私も回ることにしよう。

 おそらく私の言う一般人のなかに私は含まれないだろう。

 この200年間で魔法オタクになった。お金もたくさん持っている。まあ今回の報酬として貰った金貨1200枚の半分、600枚くらいには押さえたいかなと思う。

 だから予算は金貨600枚。その中で良いやつがあったら買っていこうかな。




 さっと見た感じ、金貨10枚くらいのものが多く、小さなアイテムボックスや火を簡単におこす道具など、案外日用品が多いみたいだ。

 魔力を使って発動するものもあるが、魔力を使わないでも発動できたりするものもある。

 魔力を使ったとしても、普通に発動するより使用量は少ない。

 旅をしているなかではできるだけ魔力を温存しておきたい。嵩張るかもしれないが買っておいて損はないものなのだ。

 まあ私はアイテムボックスがあるので嵩張らないけど。


 便利そうなアイテム立ちのなかに、永遠と回り続ける魔道具や、オルゴールのようなものと言った、比較的マニア向けのものも混じっていた。

 こういうのは大抵高い。高いものだと金貨100枚を超える。


 そんな品々のなかに、1つものすごい値段をつけている品を発見した。

 銀色で様々な装飾の施されたブレスレット。その真ん中には大きな水晶がはめられている。

 遠目からみれば普通の目立たないブレスレットかもしれない。でも、近くで見ればよく分かる。精巧で巧妙な加工技術。美しい。

 だが、とにかく高い。高すぎる。


「おじさん、金貨1200枚って高くない? どんな効果?」

「ああ、これは魔力をためておけるアイテムだ。どこまではいるか試してみたが、そこが見えん」

「なるほど、魔力をためられると……」


 ここに来るまでに魔力をためられる指輪とか、そういったものは見かけた。

 ただ、正直容量はそこまで大きいとはいえない。魔力をためるのに使っているであろう水晶、おそらく魔力水晶だが、その大きさが小さいのだ。

 ただ、この腕輪の水晶は凄く大きい。

 それに、ほかの魔力をためられる魔道具の水晶の色は透明なものがほとんどだったが、この水晶は黒目の赤色。

 魔力水晶は色が濃くなっていくに従ってためられる魔力の量が変わるはずだ。


「でも、1200枚かぁ……」


 予算は600枚。正直高すぎる。


「600枚にならない?」

「馬鹿言え。半額じゃないか」

「700枚は?」

「値引きはしないよ」

「絶対?」

「絶対」


 私が値引き交渉に慣れていないというのもあるだろうが、この頑固そうなおじさんは値引きを頑なに断るらしい。


「ほんとにそんなに魔力をためられるの?」

「ああ、試してみるか?」

「うん」


 もしこれで少ししかためられませんとかなったらイライラで町ごと吹き飛ばしてしまうかもしれない。

 試させて貰おう。


「じゃあ、行きます」


 水晶の辺りに手を当てて、魔力をゆっくりと水晶の方へと移していく。

 魔力が入り始めると、水晶は明るく光り出した。


「おおっ、これはすごい……」


 どんどんと吸い込まれていく。

 通常の魔力水晶は残り許容量に伴って魔力の入りやすさが変わるのだが、全然それの減衰がない。

 あれから数分にわたって魔力を入れ続けたが、容量を迎える気配がしない。こちらの魔力が先につきてしまいそうだ。


「いや、これは凄い。いくらでも入りそうだ」

「そうだろう。それにしても、嬢ちゃんも随分凄いじゃないか。魔力量が多すぎる」

「まあ、鍛えてますから」


 あの仏頂面がすこし解けた。


「実はこのブレスレットは俺が作ったんだ。

 見た目で判断して悪かったな。職人としてはこのブレスレットをちゃんとした人に使ってほしいと思っていた。

 でも嬢ちゃんは若いから、ろくに使いこなせないだろうと。そう思ったんだが、どうやら俺の目は節穴だったらしい」

「と、いいますと?」

「まあ、こっちも相当な原価だからあんまり出来ないんだが、850枚でどうだ」

「買います。ありがとうございます」


 どうやらこのおじちゃんはいい人だったらしい。

 まあ、予算を遙かにオーバーしてしまったが、私の魔力量の底が分からない今、貯めておけるアイテムはほしい。

 高かったけれど良い買い物をした。


「おじさん、関係ないんだけど、ベルティナの町への馬車はいつ出るんだ?」

「ああ、朝2の鐘が鳴る頃に出る」

「わかった。ありがとう」


 2の鐘とは前世で言う8時。

 6時になる最初の鐘が1の鐘で、それから午後6時まで2時間おきに鐘が鳴る。

 まあ、これは時計が高くて至る所に置くのは無理と言うことで行われているものだ。実際は前世と同じように24時間で動いている。

 良い機会だ。時計も買おう。






 右腕にブレスレット、左腕に腕時計を巻いた。

 今私の身ぐるみを剥いでうっぱらえば金貨1000枚くらいはするのではなかろうか。

 盗めるもんなら盗んでみろと言った感じだが。


 馬車が出るのは明日の朝。ということは今日一日はこの町に滞在することになる。

 ここまで硬いマットを引いて寝ていたわけだから、さすがにふかふかのベッドで寝たい。


 まあ、あんまり高級なところじゃなくて良い。

 でもやすすぎてもあれだから広場に近い良い感じの宿を探す。






「ここにしよう」


 ぷらぷらと町を巡って見つけた1件の宿。

 高すぎず安すぎず。価格帯としては冒険者の贅沢と言った感じの宿だ。

 安すぎると客の民度が悪く、微妙に高いと金持ちを気取るアホタレがいる。

 だから高いわけではなく、安いわけでもない宿を選ぶのだ。


 一番高い宿でもいいのだが、お金を節約したいので止めた。


「いらっしゃいませ」

「1日でお願いしたいんですが、空き部屋はありますか」

「はい。有りますよ。食事はいりますか?」

「えっと、じゃあ夕朝どちらもお願いします」

「わかりました。7の鐘の時、翌朝1の鐘の時に来てください。暖かいお食事をご用意しておきます。チェックアウトは4の鐘までにしてください」

「分かりました」


 カウンターで鍵を受け取り、3階の部屋へと向かう。


「おお! 結構良い部屋じゃん!」


 広いとはいえない部屋だ。しかし大きなベッド、良い感じのサイズをした机。

 大通りに面しているために景色の良い窓。それに服を掛けられるラックまでついている。

 加えてお風呂付き。今回この宿を選んだ最大の理由は大浴場がついているということだ。

 浄化魔法で体を清めてはいたが、牢を出てから1度もお風呂には入れていなかった。

 体はきれいだが気持ちが悪いだろう。


 せっかくきれいな町に行くのに、己が汚れていたら失礼になってしまうからね。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る