第19話
昨晩はいつもとは違って、お風呂の周りを壁で覆った。今までの森とはもう違う。いつでも人が来られる距離だから、さすがにそんなところで極・露天風呂は出来ない。
いつもより入念に洗った。
昨日の狩りの時に良い香りのする木の実を見つけたのだ。しっかりとパッチテストもして毒がないのも確認した。
木の実はすりつぶして布かなんかで濾すとちょっとした香水のような物を作れる。
本当は1週間くらいおくと良いんだけど、まさかこんなに早く村につけると思ってなかったから準備が出来てなかった。
軽くその香水のような物をつけていく。
こう言うのってつけすぎると逆に臭くなったりするから適度にね。それに貴族ならまだしも、この世界で平民にまで香水が広がっているとは思えないから、変に良い匂いを侍らせていると怪しまれるかもしれない。
森に隠れて見えないけれど、空の明るさからしてそろそろ太陽が顔を出す頃だと思う。
今から出発すればお店が開く頃に着くんじゃないかな。
まあお店が何時に開くかなんて知らないんですけどね。
朝食は取った。いつもの硬い燻したやつ。
「行きますかねぇ、ふぉうッ」
あまりの緊張によくわからない声を出してしまったが、早速村に向けて出発する。
とはいっても、途中何もないことは探知魔法で確認済みだ。人の姿もなければ障害となりそうなモンスターの姿もない。
森を出てからはしばらくは探知魔法の範囲内なのだが、途中から範囲外となる。そこに強いモンスターとかがいたら終わりなのだが、まあ大丈夫だろう。
楽しみだ。ようやく靴が買える。ようやく新しい服も買えるし武器も手にできる。
「は?」
そう期待を込めて着いた村は、すべてが焼け焦げていて辺りには煙のにおいが充満していた。
家であっただろう物は真っ黒な炭に変化していて、まだ隙間から煙が上がっている。
「なんでぇ? なんでなのもう。そんなことありますか??」
せっかく今日から人間らしい生活を営めると思っていたのに、その材料を集めるための村が真っ黒に焼け焦げていたとかおかしいよね。
明らかにおかしい。これ誰かが仕組んでるでしょ。
地面に膝をつき、誰がどう見ても落ちこんでいるとわかるような格好を取る私の元に馬の音が近づいてきた。
「こ、これは……」
その馬車に乗っていたのは騎士のような格好をしたお兄さんだ。多分帝国の騎士なのだろう。
私のことでも村に伝えに来たのかな、ははは……。
「えっと、これは君が?」
「ちょちょちょ! そんなわけないでしょう!」
「……ですよね」
一周回って冷静になっているお兄さん。私と軽い会話をした後村の方を向いて、言葉が出ないといった表情で未だ煙の出る村をじっと眺めていた。
これどうしようかな。もう無理じゃない? ここからまた別の方に進んでも良いけど、この村は相当辺境だから。
ここでいろいろ確保できる前提で行動していたから、ここで何も手に入らないとなると計画が一気に狂う。
そうしばらく二人して村を見ていたわけだが、再び遠くの方から馬の音が聞こえてきた。
今度は1匹どころではない量だ。
「お、おい! これはどうしたんだ」
「隊長……、僕にもわかりません。来たらこうなっていたんです」
「お、おい! そこの少女は!」
やべ。こりゃばれたな。
でももういいや。
なんかもう何もかもやる気を失った。虚無感に包まれているよ私は。
「お前、騎士に襲撃を掛けるだけでは飽き足らず、村を1つ焼き払うとは何事だ」
「それ全部えん罪なんですけど……」
「嘘をつくな!」
馬に揺られてドナドナと。
今私は帝都へ向かう馬車に乗っています。相乗りだけど運賃無料。すごくお得な馬車だよ~。
手足拘束されるけどね。
「ねぇ、私これからどうなるの?」
「牢屋だ。処刑になるんじゃないか?」
「ああ、ならよかった」
死なないから処刑とか関係ないしね。
ていうか戸籍上死んだことにされるのはありがたい。だって今までのえん罪がすべて消えるわけでしょ? 最高じゃない。
なんかもうだめだ。疲れたよ私は。
足は痛い。食事はまずい。服もろくに着れないし、有らぬ罪を着せられるし。体を狙われ、逃げる道中村は丸焼け。
私ついてなさ過ぎる。
「ならよかったってどういうことだ?」
「私、死なないんで」
「……は?」
死なないってどういうこと? とひたすらに聞かれながら進んだ日々はなかなかに愉快な物でした。
でも結構快適。なんて言ったって護衛がついた無料の馬車で、食事だって出てくる。
干し肉だけどね。
途中何回かモンスターに襲われたらしいんだけど、馬車の外を見れないのでわからない。
ゴブリンとか言う単語が聞こえてきたんだけど、この世界ゴブリンいるんだね。
実は馬車に乗った翌日、私はすごく後悔したんだ。
あまりのショックに正常な判断が取れていなかったと思う。本当なら流れで馬車に乗るべきではない。一目散に次の村へ向けて逃げるべきだった。
でもそんな判断は取れなかった。されるがままに拘束されて馬車に乗せられ帝都へ。
でも、私の身に危害を加える様なことはなかった。
あの最初に出会った騎士共が腐っていただけだったみたいで、ほかの騎士たちは真面目に仕事をしているみたいだ。
家族がいると言っていた。一年ぶりに帝都に戻るらしい。しかも私がいなかったら帝都に帰るのはもっと後だったらしく、その人にはなぜかすごく感謝された。
まあなんやかんやで楽しい馬車の旅だったわけだが、そんな旅ももう終わり。
帝都に着いた。
こう言うのって「帝都すげーッ!」「建物高ーい!」とかやるんだろうけど、私馬車の外見えないので出来ません。
「ここに入っとけ」
そうやって案内されたのは城の地下にある牢。
石レンガで作られ、薄っぺらい掛け布団と一応の仕切りはあるトイレ。小さな机と言ったなかなかにひどい作りの牢屋。
よく見る鉄格子の牢屋って実在したんだって思いながら1本のたいまつのみで照らされた牢屋の中で体育座りをする。
なぜこんなに落ち着いているか。
理由は簡単。いつでも脱走できるからだ。
だってこんな鉄格子、身体強化魔法でバリっていけるだろうし、アイテムボックスでその部分だけかっさらうことも出来る。
でもそれをやると戸籍から私の名前が消えないのでやらない。
今は静かに処刑の時を待つのだ。
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