第11話
「よし、今日の練習はこんなもんでいいか」
あれからしばらく魔法や剣の練習をしている。
時計がないのでどのくらいやっているかはわからないのだが、この練習でわかったことがある。それは、私は実戦で確実に魔法を使えないということだ。
どうやら身体強化魔法に関しては私のイメージが明確でなんとかなりそうだったが、とっさにエアカッターだとかロックジャベリンだとか、そういうのを発動するのは無理だ。
緊迫した場面で詠唱、イメージを構成するのは先日の考えと同じであまり現実的ではない。とっさだと魔力の変換効率が悪いからだ。
それに絶望的に魔法の狙いが悪く、放った魔法がまっすぐに飛んでいかない。
とっさに発動した魔法はイメージも弱くて威力も弱い。
ていうかイメージ力が足りない。
それで思ったのが、魔法で作り出した剣ではあまり戦わない方がいい。出来ることなら魔法製ではない武器を手に入れたい。
先日素振りをしているとき、明らかに私の剣が剣ではなくハンマーみたいになっていることに気がついた。
おそらく私のイメージ力が足りない。思ったように鋭い剣を作れないのだ。そりゃ眺めにイメージすれば作れるけれど、毎回そんなことをしていたら精神が持たない。
「うーん、剣ねぇ……。って!」
たき火の周りをくるくると回りながら考え事をしていたら、1つ重大なことを忘れていたことに気がついた。
「オオカミ……」
魔物化したオオカミを閉じ込めてしばらく時間が経ってしまっていた。
閉じ込めてから数日は吠える声や暴れる音が聞こえてきたのだが、だんだんと弱ってきたのか時期にそれがなくなって行っていた。
そのせいでその存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「うわぁ、いやな予感がする……」
近頃はだんだんと暖かくなってきている。
閉じ込めた箱の中はオオカミの体温と、様々な方法でオオカミの体内から出てくる水分で相当ひどいことになっているはずだ。
3日くらいならまだ大丈夫だっただろうが、明らかに3日を超過している。
「ま、まぁ、開けないとわからないし……」
重い足を無理矢理動かしながら閉じ込めていた箱まで歩いて行く。
完璧に密閉されていたのか、何かが漏れ出ていると行ったことも無ければ、悪臭が漂っていると行ったことはない。
……いや、嘘。明らかに地面がぬかるんでいる。
何でぬかるんでいるのかというのは考えない。それを意識してしまえば私の胃液で辺りを汚してしまう。
「よし、ひとまず開けてみよう」
ゴクリと喉を鳴らし、慎重に魔法を使って蓋を開けていく。
「うッ!?」
少し開けただけで辺りに広がるもわっとした空気と悪臭。
飛び跳ねるように後ろに下がり、近くにある木の横辺りで先ほどせっかく我慢したはずの吐き気が限界突破してしまった。
付近に生えていた大きめの葉っぱで口元を拭き、諸悪の根源の方へと目を向けると、そこから勢いよく虫たちが湧き出ているのが目に入った。
その虫たちは、まるで魔物化しているかのようにこちらへ向かって襲いかかってくる。
まるで魔物化しているようにではない。魔物化しているのだ。
魔物化したオオカミの肉を食べた結果、体内の魔力量が増えてしまった虫たちはそのまま魔物化。ただでさえ害悪で、駆除の対象であった害虫たちがさらにその害度を高めてやってきている。
「ファイアーボール!」
とっさに魔法を使えないといったものの、魔法を使う以外にこの大ピンチを抜ける方法が思いつかなかった。
イメージすることは無理だ。私の脳内容量では裁ききることの出来ないような情報量を今私の五感は感じ取っている。
そこに新たに魔法のイメージという相当の容量を取れる行動は取れない。とっさに出来るのは覚えている魔法の詠唱のみ。
ただ、その威力もパニック寸前ということもあって非常に弱い。
小さい火球がひょろひょろと私の手から出ていく。
普段なら絶対に当たらないような攻撃だが、今日はしっかりと敵にヒットした。
なぜなら数が多いからだ。
「ファイアーボールッ! ファイアーボールッ!」
足がすくんで立てない。木にもたれかかりながらなんとかファイアーボールを発動し続ける。
森が燃えるとかもう関係ない。大丈夫だ。この雲の様子ならそろそろ雨が降る。その雨が自然に消火してくれるはずだ。
倒しても倒しても湧き出てくる虫たち。正直そろそろ私の魔力が厳しくなっている。
私が魔法を実戦で使えないと言ったもう1つの理由として、私の魔力量は少ないのではないかという疑問が上がったからだ。
魔法の練習を30分もすると、体内の魔力量が少なくなってか体調が悪くなってしまう。
現在練習でもしなかったようなペースで、イメージもろくに出来ていないために魔力の変換効率も悪いこの状況でひたすらに魔法を放っている。
「も、もう……、限界だ……」
やりたくなかったけどもうやるしかない。
ひとまず今は魔力の補給が優先だ。この木から吸い取るか? しかしこれでこの木が枯れてしまえば私がもたれかかる物がなくなってしまう。
出来るかはわからない。一か八かの挑戦だ。
「頼む……」
あの信用ならない神に祈る。頼むから成功してくれと。
とっさに脳のメモリーを裂いて行ったイメージは、空気中の物質から魔力を抜き取るというものだ。
ただ、その判断が間違いであったのか、それとも正解であったのか全くわからないような事象が起きた。
私の手に魔力が渡り始めたその瞬間、私の手の辺りで大爆発が発生したのだ。
何が起きた? わからない。
空気中から魔力を吸い取った瞬間に目の前が真っ白になって……。
体が全部吹き飛んだとき、時間はかかるが一部再生できる。ただ、回復魔法を使える状態まで回復するのにどのくらい時間がかかるかはわからない。
まあ原因の究明でもして気ままに待ちましょう。
復活するまでの時間、体が動かせるようになって回復魔法を掛けられるようになるまでの長い長い時間で出した結論。
推測でしかないのだが、前回オオカミから魔力を抜き取ったときは、あくまで抜き取る対象は生物だった。
生物は体内で魔力を循環させている。その魔力の循環の一部に私の魔力の循環への入り口を無理矢理差し込むような形で魔力を引き抜いた。
ただ今回は違う。
酸素、窒素といった物質から直接魔力を抜き取った。
おそらくそれが原因で何らかの化学反応のようなものが発生して爆発したのではないか。という結論だ。
核融合反応的な、そういった感じだろう。しらんけど。
「まぁ、ひとまず倒せたからいいか」
虫どもは倒せた。しかしもうここには住めないね。
辺りを見渡すと、私が立っている位置を中心に半径100mほどの範囲がえぐれている。
それにその周りに木も吹き飛んじゃってるし……。
そう自身のやらかしを反省していると、前方に久しぶりに見るシルエットがあった。
「人だ……」
5人ほどの装備を着た人たち。
この爆発を見て調査隊のような形で派遣された人たちだろうか。それとも何か別の用事で来た人たちだろうか。
ただ、今はそんなのはどうでもいい。人が居るのだ。目の前に。
「まずいッ!」
どうやらこちらの存在に気づいたようだ。
爆発の中心地に居る怪しい少女。体が治ったらすぐに森の中に隠れれば良かった。爆心地であぐらをかいてブツブツ言っている人が居ればそりゃ怪しいわ。
そんな怪しいやつに向かって行う行動はただ1つ。攻撃だ。
杖を持った初老のおじさんがこちらに向かって岩の槍のような物を飛ばしてくる。
とっさに剣は作れないとはいったが私だって馬鹿ではない。
あらかじめ時間のあるときに作っておいた剣をアイテムボックスにしまっていたのだ。
アイテムボックスから剣を取り出し、身体強化魔法をいつもより強めに掛ける。身体強化魔法は楽でいい。常時発動はまだ無理だけれど、相当回数を重ねたためにイメージをしなくても完璧にかけられる。
身体強化魔法によって速くなった足を駆使して素早く槍の横へと行き、その槍を真っ二つに切る。
これを見て奴ら一瞬動きが止まったが、すぐに次の攻撃がやってきた。
1対5、戦闘初心者の私が勝てるわけがない。
取れる選択はただ1つ。
「逃げるぞ~っ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます