第6話
「さて、とりあえず服に関しては大丈夫だね。そろそろお肉が食べたいよ」
なんとか水浴びも済ませ、神からもらったものではあるのだが、服も手に入れた。
アイテムボックスとかいう便利な魔法が存在していることもわかったわけだし、このヒールを利用すれば少しのけがはすぐに治る。
実際、靴を履いていなかったことにより痛めていた足も、ヒールをかけたらすぐに治った。
魔法はとにかく便利なものだ。
ひとまず探知魔法を使ってみると、近くには大きな獲物はいないみたいだ。ただ、小さいウサギのようなものがぴょんぴょんと跳び回っているのが見える。
ウサギなら狩れるかな?
「攻撃魔法は正直よくわからないけど、まあなんとかやってみるしかないね」
詠唱は覚えたし、この前実際に使っていたのでなんとかなるはずだ。ただ、ウサギは小さいし素早く動くから、狙いはよく定めないとだめかもしれない。
私は現実世界で弓であったり銃であったりを扱っていたわけではないから、そこら辺はこちらの世界で練習する必要があるだろう。
水浴びなんかをしていたら、太陽は傾き始めている。そうなってくるとあまり拠点から離れるわけにもいかないわけで、先ほどよりも範囲を狭めて探知魔法をかけてみる。
(拠点・・・・・・? まあ、拠点だろう。一応たき火あるし・・・・・・)
そんなどうでもいいことを考えながらではあったが、さすがは籠城生活でなれたということもあって、イメージに狂いはなく正常に発動できた。
近くにいる動物はウサギと、あとキツネ? のようなものがいる。
キツネは少し獰猛そうで、距離もウサギの方が近いから今回はウサギを狩ってみることにする。
距離にして100メートルといったところだろうか。
私は動物の知識はないのだけれど、大きな耳を持っているのだから耳はいいはずだ。
できるだけ遠くから音を立てないように狩りたい。せっかくの獲物を逃がすわけにはいかないのだ。
相当おなかが減っている。もしここまでおなかが減っていなかったらかわいそうだという気持ちが勝っていただろう。
ただ、今はそんな悠長なことを言っていられないのだ。弱肉強食の世界。それはこの前戦ったあの巨熊のせいで強く心身に刻まれている。
できるだけ音を立てないように近づく。これは靴を履いていないのが功を奏しているかもしれない。
ていうかあの神、服をくれるんだったら靴も一緒にくれてもいいのではないのではなかろうか。
まあそんな甘ったるいことをいっていられないというのはわかっている。
私を絶望の淵に追いやったのはあいつなのだし、服をもらえたのもただの哀れみのようなものなのだろう。
獲物との距離は発見時の半分くらい、50メートルほどの所までやってきている。
ここから魔法を発動してウサギを檻の中に閉じ込めることなんかができればいいのだが、さすがにそこまで細かい魔法を発動することはできない。
この探知魔法はひたすらにやり続けたからできたことなのであり、覚えておけば何かと便利だろうから覚えたまで。檻を作る魔法なんてそうそう使わないだろう。それに効率が悪い。
(50メートルでいけるかな・・・・・・、もう少し近づいた方がいいだろうか)
ウサギの数はたった一匹。探知魔法の範囲内にはまだ居はするけれど、またのっそりと近づくのも正直言って面倒くさい。
いまは草を食べているからなんとか動いていないけれど、いつ動き出すかはわからない。
せっかくここまで来たのだから、できれば本日の食卓に並べたい。
(よし。逃がす前にさっさと倒そう)
もし魔法を外して逃がしてしまった場合と、それを恐れてためらっているうちに逃げてしまった場合とでは、結果はどちらも同じ。
ならば少しでもとれる確率に賭けたい。
声を出せばすぐに逃げられてしまうかもしれない。そのために今回は詠唱はなしだ。
素早くするためにはどのような形状がいいだろうか。先端がとがった形状? 小さめがいいか?
狙うのは脳天の付近。できることなら苦しみを与えずに倒してあげたい。
(よしっ。当たってください!)
あの神に頼むのも癪だが、ここは神頼みしか正直ない。細かい誘導なんかができるわけはないのだから。
加速のために多くの魔力を使い、一気に手から放たれた鏃状の岩は、ウサギめがけて一直線に飛んでいき・・・・・・。
「あぁ、外れた・・・・・・」
ウサギの前の前10センチというところを通過していった。
ウサギの姿はもう見えない。驚いて逃げてしまったのだ。
本日の食卓には、ウサギが並ぶことがないのである。その落胆具合といったらひどいもので、背中を丸めながらとぼとぼと帰途につく。
「これは練習するしかないだろうね。魔法のコントロールをしっかりと勉強しないと狩りすらできない」
誰もいないのに声を出して考え事をする。そうでもしないと精神の安定は保っていられない。
タンパク質がとれないというのはなかなかに苦しい。何でもいいからタンパク質をとりたい。・・・・・・しかし虫はいや。
そうなってくると沢に住んでいる生物を食べるのがいいだろうか。
魚やエビ、カニなんかは居るはずだ。あれほどきれいな川なのだから。
実際、水浴びの時にちっこいエビなら見かけている。さすがにちっこすぎて食べる気にはならなかったが、エビが居るならそれを捕食する魚も居るはず。
「食事のためだ」
おなかが減って今にもくたばりそうな体をまたもや持ち上げる。
居るかはわからない。さすがに川にすむ小さな生物に探知魔法を使うのは精神的にもなかなか厳しい。
万全の状態だったらいけるかもしれないけれど、もう何回も何回もいっているが、私はおなかがすいているのだから。
万全なんていうのとはかけ離れている状態な訳だ。
先ほどは裸になっていたから気にしていなかったが、水に足をつけるのだから服が濡れてしまう。
ただ、沢はそれほど深くはないため、ズボンを膝のあたりまでまくり上げてから足を踏み入れることにした。
本当は足を入れることなく探したかったのだけれど、中に入った方が絶対見つけやすいはずだ。
サクッと見つけてサクッと帰る。今やりたいのはこれなのだから、見つけるのを最優先でいきたいと思う。
「魚居るかな・・・・・・、姿は見えないけど。ていうか見つけたところでこれどうやってとればいいんだろう・・・・・・」
網のようなものを持っているわけではないし、釣り竿のようなものを持っているわけでもない。釣り竿があったところで浅すぎて釣りができそうな感じではないが。
そうなってくると狙うのはエビやカニがいいだろう。
「エビカニ、居るか?」
こうやって水遊びしたのはいつぶりだろうか。いや、今日2回目なのは除いてだけれど。本当に昔、小さい頃にやったきりだと思う。
まあそのときとはずいぶん状況が変わってしまったが。
以前は川で遊ぶのが目的だったけれど、いまは食事を探すのが目的なのだから。少し悲しいな。少しどころではないけれどね。
「いたッ! いたいたいた!」
正直少し楽しみながら探していたら、案外すぐに獲物を発見することができた。
「これは、ザリガニかな・・・・・・」
見た目は完全にザリガニ。色はよく見たアメリカザリガニのような真っ赤っかな色はしていない。どちらかというと茶色っぽいし、サイズも一回り二回り大きい。
これが異世界クオリティなのだろうか。
「う~ん、どうやって食べるのかわからないけどひとまずとっておこうかな・・・・・・」
ないよりはまし。怖かったが何とか掴むことに成功し、ひとまずアイテムボックスに入れることにした。
・・・・・・したのだが。
「あれ? 入らない」
なぜか入れられなかった。
おかしくなってしまったのかと思い、そこら辺の木の枝を拾って入れてみたが、何の問題もなく入る。
つまんでいるザリガニは私の指を挟もうと必死に動かしながらもがいている。さすがに痛いのはいやだ。
「ど、どうして? 生きてるのはだめってこと?」
おそらくこれが正しいはずだ。生きているものは入れてはいけない。そういうことなのだろう。
「いてッ、いててッ!!」
あまりにもたらたらしていたせいか、思いっきり指を挟まれて焦ってザリガニを逃がしてしまった。
どうやら川でも私は獲物を逃がしてしまうらしい。
獲物を捕ったらまず殺す必要があるのだろう。
ただ、できれば生きた状態で運びたいというのが本音だ。この前の芋の件があって、食中毒というものに敏感になってしまっている。
できるだけ食べる直前までは生かしておいて、鮮度は保っておきたい。
・・・・・・鮮度を保つ。そうか。凍らせればいいんだ。
凍らせれば獲物を殺せるし、殺しているからアイテムボックスに入る。しかも凍っているのだから鮮度も落ちない。
来た。これは来ました。
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