第5話 冒険者と魔法
ダンジョンの入り口―――
「あれ、銅貨だ」
「え、本当?」
「洞窟の前に……?」
「もしかして、中に誰かいるんでしょうか?」
4人の人間がダンジョンの前を通りかかっていた。
銅貨を拾い上げたのは、赤い髪の若い男だ。腰には剣を下げており、左腕には小さな盾を括り付けている。
それを確認するのは、短い弓を背負い短剣を腰に下げた金髪を結わえた女性。
「少し貸してくれ、レブル」
「おう、ハバート」
ハバートと呼ばれた眼鏡をかけた男は、レブルという剣士の男から銅貨を受け取ると手をかざす。
少しして、ピクリと眉を動かした。
「微かだが魔力を感じる……ダンジョンで生まれた銅貨だ」
「え、じゃあ、この洞窟ってダンジョンなの?」
「多分ね、ティシー」
眼鏡の男の言葉に、弓使いの女性、ティシーが驚く。
レブルも、入り口から中の様子を伺っていた。
「多分ね。誰かが、このダンジョンで手に入れた銅貨を落としたんじゃあないかな」
「でも、このようなダンジョン、冒険者ギルドで聞いたでしょうか?」
「私は聞いてないわ、フォネ」
頭からヴェールを被る女性、フォネが首をかしげる。
彼女の豊かな胸元には、聖教の象徴が下げられていた。
「もしかして、未発見ダンジョン?」
「だとしたら大手柄だ、すぐに街に戻って冒険者ギルドに報告しよう。
誰かがもし入った後だとしても、こっちが早ければ報酬は僕らのものだ」
「そうですね」
3人が話をする中、レブルが少し考え、やがて口を開く。
「なあ、少しだけ様子を見てみないか?」
「え、でも危ないわよ、レブル。どんな魔物が出るか解らないし」
「調べるのを優先でほんの少し……ここから目の届くあの場所まで行ってみないか?
報告するにしても、多少なりとも情報があれば報酬は多くなるし……。
……ほら、もし宝箱があれば、俺たちが総取りできるだろ?
ハバートも魔術書が欲しくて金が入用って言ってたじゃないか」
「それは、そうだが」
悩む3人であったが、レブルの熱意に押され、少しだけ偵察をすることになった。
ティシーを先頭にし、その横にレブルが並ぶ。殿はフォネが務めた。
・・・
「……うん、罠だ。
よし解除……これ、帰るときに踏むと発動するタイプだね」
「性格悪いな、まあ、ダンジョンなんてそんなもんだが」
ティシーは長い木の棒で前を叩きながら、僅かな痕跡や違和感を見逃さずに罠を発見し、可能な限り解除する。
レブルたちはその間、油断なく周囲を警戒をする。
それ故に、すぐに対応できた。
「ここ気を付けて、横道がある……! やっぱり、魔物!」
「前に出る!フォネ!後ろ注意しろ!」
横道に隠れていた『
『
力は『
「“愛したいと激しく求める念が私の中にあって、それ自身が愛の言葉になる”━━『
「! “すべては疑いうる”━━『
冒険者らの背後から、魅了の魔法で奇襲を仕掛けようとした『
ギリっと歯噛みする『
「僕が魔法を使う、ティシー援護を……」
「待ってハバート!奥から追加が来てる!」
ティシーが牽制のために放った矢の先には、『
このまま戦っては、仲間に犠牲が出かねない。
そう考えた冒険者たちの判断は早い。
「撤退だ!逃げるぞ!」
「目を伏せて!……“好機は去りやす、経験は過ち多し”━━『
ハバートが放った閃光と轟音は、暗いダンジョンの中を一瞬、真昼の太陽よりも強く照らす。
思わず苦鳴をあげる『
『なぜ逃がした?』
「不満か?」
『汝の人間に対する憎しみ、もはや疑問には思わぬ。
だが、それならなぜ逃がした?
「あれは冒険者だ。
冒険者は、ダンジョンを見つけたときに、冒険者ギルドに報告する義務がある、と聞いたことがある。
ギルドに知られれば、他の冒険者たちもここに来るようになる。
……今までのように、たまたま、やってきた人間を殺すだけじゃあ効率が悪い。
呼び寄せて、警戒されない程度に適当に間引いて力を蓄えればいいんだ。
だから、罠や魔物も控えめにしておいた。
冒険者に過小評価してもらえるからね。
下手に全力を出せば、それに見合った冒険者がやってくる。
そうなればダンジョンを攻略される。私たちは、まだ弱いんだ」
そう言いながら、コアは今までに集めた魔力を使い、ダンジョンを拡充し始める。
「……まだ冒険者、やってたのか。ティシー」
ぽつりと呟いたコアの言葉は、誰にも聞かれることはなかった。
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