第百七十五話 師弟の姿

「うぉぉ!!」

「はぁぁ!! 狼派五式改ロウハゴシキカイ! 閃廻円陣狼牙センカイエンジンロウガ!」


バギーンッ!

スノウの高速な回転斬りをクレイトスは容易く受け止める。


「そうだ、もっとこい!お前の力は、そんなものではないだろ!」

「見せてやるよ! 凍魔晶付与ブリザードエンチャント! 白狼初式ハクロウショシキ! 雪月花セツゲツカ!」


バキキキッ!

ガギーンッ!ガギーンッ!

鋭い氷を纏った二刀がクレイトスを攻める。



「ふんっ、やはりお前を私の弟子にしたのは正解だったようだ!スノウ!」

「そんなこと言ってる暇あるのか!今、先生の弟子が更に先に進もうとしてるんだぜ!」

「そう簡単に私を超えられると思うなよ!経験が違うわ!」

「俺もあんたのおかげで、たくさんの死地を乗り越えてきた!こんなものじゃねえぞ!」


ガギーンッ!バゴーンッ!

ガギーンッ!バゴーンッ!


白い空間には、あらゆるところに凹みや切り傷が入る。


辺りのひび割れは、戦闘の激しさを物語る。


「まだまだ私もやれるようだな、嬉しいぞ。自分の力を再認識できて!」

「それは、本当に先生が願った力なのか!あんたは、これまでに何人もの命を救ってきた!なのに、なんでここで命の奪い合いをしなきゃいけないんだよ!」

「何度も聞くな!スノウ、お前は私を倒すことだけを考えればいいのだ!」

「くそっ!」


ガギーンッ!

スノウの鋭い攻撃がクレイトスを弾き飛ばす。


ズザッ!

追撃をかけると、気付けば背後にクレイトスが。


ガギーンッ!

瞬時に第六感シックスセンスを活用し対処。


一瞬一瞬が、お互いの命を奪う攻撃の連続。



クレイトスが守りに入れば、スノウが攻める。

スコアが守りを固めれば、クレイトスは攻めに転ずる。


その戦いは、数十秒のことかもしれない。



だが、二人の体は悲鳴をあげていた。




「はぁ、はぁ、はぁ、まだやんのかよ、先生!」

「はぁ、はぁ、当たり前よ!どちらかが倒れるまでがこの戦いの終着点なのだから!」

「そうかよ、なら、さらにギアを上げるぜ! 凍魔晶付与ブリザードエンチャント! 狼派二式改ロウハニシキカイ! 鋭氷蒼波エイヒョウソウハ!」


ジャギンッ!ジャギンッ!ジャギンッ!ジャギンッ!

複数の巨体な氷の斬撃がクレイトスに迫る。


「ふんっ!そんなもので私が倒せるとでも!」


バゴーンッ!バゴーンッ!

力強い攻撃は、氷を容易く砕く。


「ぬるい、ぬるいぞスノウ!」

「うぉぉ!!」


ジャギンッ!ジャギンッ!

さらに勢いを増して斬撃を放つ。


クレイトスの頭に一つの疑問が浮かぶ。

(この攻撃、何を意味する?)


「いつまでも私が止まってると思うなよ!」


ガゴーンッ!

大きな一振りが、全ての斬撃を消し去る。


「さあ、次はお前だ、スノウーー。」

「どこ見てるんだ、先生!」


砕けた氷が目眩しになり、瞬時にクレイトスの背後を取る。


「ふんっ!予想通りよ!! 白狼上式ハクロウジョウシキ! 絶対零度アブソリュートゼロ!」

「そうかよ、なら力比べだな! 凍魔晶付与ブリザードエンチャント! 白狼上式ハクロウジョウシキ! 絶対零度アブソリュートゼロ!」


バキキキッ!

二人は氷の地面を全力で展開する。


バキキキキキッ!

二人の攻撃は同じ距離を保ちながらぶつかり合う。


「ぐっ、これだけの力がまだ残ってるか。ならこれで終わりにしよう!いけ!」


シューンッ!シューンッ!

クレイトスの体から複数の闇の玉が射出される。


「くそっ、こいつはまだやったことねえがやってやるさ! 凍魔晶付与ブリザードエンチャント! 白狼中式ハクロウチュウシキ! 百花繚乱ヒャッカリョウラン!」


バギンッ!バギンッ!

氷の領域を展開しながら、両手に氷で纏われた刀を持ち全ての闇の玉を弾き落とす。



では、何をやったことないのか。





そう、スノウは


負担が大きい彼らの闘い方は、本来一つの技を使い終えてから次の技を使う。




だが、あろうことかスノウは負担の大きい技を二つ同時に使ったのだ。



「っ!?スノウ、正気か!そんな使い方をしては、お前の体がーー。」

「俺のことより自分の心配しろよ!先生が見たことない技なら、俺にも勝機があるってもんだ!」

「不可能だ、今まで複数の技を同時に使って生き残った者はいない!」

「なら、俺が一番目になってやるよ!!あんたのものさしじゃ不可能かもしれねえけどな、俺は、不可能を可能にする最強の戦士だ!!」


バチッ。

ヒュンッ。

スノウの手足は悲鳴をあげ、至る所から血が垂れる。


「うぐっ、スノウ。お前の覚悟は、本物だな。」

「当たり前だ、大切なものを守るってのも、先生を守りたいってのも、俺の心からの意思だ!」


ビキキッ。

少しずつクレイトスが力負けをする。


「これほどの力を得ていたのか、スノウ。ならば、私もそれに応えよう!はぁぁ!!」

「うぉぉぉ!!先生!!」

「スノウ!!」


バキキキキキッ!

ガギーンッ!ガギーンッ!


二人の氷の領域と、クレイトスの飛び出す魔法、それを打ち落とすスノウの攻撃がトップギアになる。





ドゴーンッ!




爆発音と共に、二人の攻撃はピタッと止まる。



爆発の衝撃により、二人は地面に倒れ込む。




ピクッ。

クレイトスの手が微かに動く。


「うっ、スノウ、は?」



ザザッ。

スノウもなんとか立ちあがろうとする。


「はぁ、はぁ、俺はまだ生きてるみたいだな。いや、先生もか。」


カチャッ。

クレイトスは刀を構える。


「スノウ、諦めろ。お前の負けだ。」

「ははっ、誰に似たのか諦めが悪いんだよ、俺は。……それに、先生。」

「喋る力がまだあるか。なら、余計なことをされる前に殺しーー。」

「言葉だけ口から出させてんじゃねえぞ、くそが。先生は、今もお前の中で戦ってんだよ!そうだろ、先生?」


ガクンッ!

クレイトスはおもむろに刀を地面に叩きつける。



「な、なんだ?なぜ体が言うことを聞かない?」

「その体は、先生のものだ。てめえに扱えるものじゃねえんだよ、メギンギョルズ!」

「貴様、いつから気付いてーー。」


ゴスッ。

クレイトスは自分の腹を思い切り殴る。


「ぐはっ、くそが!なぜ、なぜ完全に乗っ取ったはずの体が動く!」

「それが、。先生は、お前が油断する瞬間を待ってたんだよ!」

「ふんっ、だが、この体はもうクレイトスのものではない!お前に救うことはできないのさ!」

「覚悟してたさ、この部屋で戦うことになってからな。」



ニコッ。

スノウはクレイトスを見上げ笑みを送る。


ガタガタッ。

フラフラしつつもなんとか立ちあがる。


「悪いな、先生。もう少しで、解放してやる。」



スノウの目には固い決意が宿っていた。

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