第2話 モーリス視点1
「ビオ! 会いたかった!」
可愛い可愛い、僕の唯一。世界一、愛しい人。一カ月会わないだけで、益々綺麗になった。
ビオは震えながらハンカチを渡してくれた。美しい花と、僕の名前が刺してある。
「モーリス様、お久しぶりです。あの、この間はあまり上手く出来なくて……練習をしてみたんです。良かったら、受け取って下さい」
「前より上手になったね。さすがビオだ」
「褒めて頂けて嬉しいです。なかなかお母様のように上手にできなくて、いっぱい練習したんです」
可愛い、可愛すぎる。
出会った時からビオレッタは可愛かった。
まだ上手く喋れないのに、必死で挨拶をしてくれたビオに惹かれるまで時間はかからなかった。父上も母上と会った瞬間に運命を感じたと言っていたから、僕らは似ているのだろう。
僕は王族だ。だから、結婚相手は王族でないといけない。ビオの母上のように再婚であれば貴族と婚姻する事も可能だろうが、基本的に王族の結婚相手は王族。そういうものだ。まぁ、例外もあるにはあるがな。ビオの実母のような異物は、例外中の例外だ。
うちは例外なんて許されない。王妃様の采配のおかげで問題なくビオと婚姻できる僕は、幸運だ。
けど、僕は欲張りなんだ。
僕も父上と同じ、いや、父上より欲深くて……こんな気持ちを持つなんて、王族失格なんだ。僕は、ビオレッタだけを愛したい。余計な異物は要らない。
父上は側妃が二人いる。王妃様を味方にして側妃が増えなくなった父上は、とても幸せそうだ。だけど……大事にされない側妃達はどうなのだろう。贈り物をしたり、里帰りさせたりと大事にしているように見せかけているけど、父上が一人で側妃達の部屋を訪ねる事はない。訪ねる時は、いつも母上を連れて行く。
つまり、父上は側妃達と子作りをしていないという事だ。
別に子が産まれなくても結婚した時点で彼女達の役割は果たされている。父上には継承権がないから子が産まれなくても良い。けど、結婚したのに夫に相手にされないって嫌だろ。いくら側妃でも、腹が立つに決まってる。それなのに……側妃達はとても幸せそうだ。父上と結婚して良かったといつも言っている。彼女達が嘘を吐いてるようには見えない。
気になって理由を調べようとしたら、父上から笑顔で警告されたので諦めた。あの顔の父上はヤバい。人に言えない理由で、側妃達を納得させているんだ。
どうやって側妃達を操っているのか分からないけど、僕は父上のように側妃を操るなんて出来ない。ビオは僕に側妃ができると思ってるし、早く結婚すれば若い頃だけは僕を独り占めできると笑ってるけど……ビオの笑顔を見るたびに、側妃は絶対に嫌だと思ってしまう。
だが、僕は王族で国の駒だ。自分の意思を貫くには、父上のような功績が要る。役に立てば褒賞を得られる。役に立たない駒は放置され、邪魔をする駒は捨てられるか、壊される。それが帝国だ。ビオとの婚姻を急いだのも、側妃を取れと命じられるのは二十歳を過ぎてからだからだ。ビオだけを愛する為に、あと五年で功績を挙げる。その為には、ビオが近くにいないと無理。毎日ビオに会えないと、頑張れない。
「ビオ、あいつらは来なかった?」
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