第6話 マリーを呼んで

「そうだわ、わたくしが唯一信用出来る乳母のマリーを今すぐ呼んで。三人がかかりならビオレッタも快適に過ごせるわ。それとも……普段わたくしがビオレッタと過ごしている所にお母様も来て貰ってビオレッタを落ち着かせる方が良いかしら?」


あんなとこにお母様を連れて行けるわけ、ないわよねぇ? 無理矢理連れて来た令嬢達が小刻みに震えだした。人間ってこんなに震えるのね。


もっと近くに来る? と聞けば固辞されたわ。残念。


まぁいいわ。この子達は前座だし放っておいても勝手に怯えてくれる。それよりマリーに会いたいわ。


マリーは、一人暮らしだと聞いてる。身内もいないらしい。子を産んですぐ夫の実家に子どもを取られて離縁され、探した働き口が乳母だったんですって。


できればマリーを連れて行きたい。そうすればビオレッタも安心するでしょうし。


「宰相様、今すぐ乳母のマリーさんを呼んでちょうだい。無理なら、普段育児をしている部屋を見せて。娘が一人でどうやって子育てしているか、知りたいわ」


お母様がピシャリと言う。さすがだわ。わたくしがどんな場所にいるか、知らなくても察して頂けたみたいね。


「そうね、やはり乳母は必要よ。ビオレッタ様は王女様なんですもの。大丈夫よ! 赤子が汚す事くらい知ってるわ。わたくし、おむつ替えをした事もあるのよ」


「まぁ、なんて素敵なのかしら。やはり今後は、この国を見習うべきかしらね。わたくしも、ビオレッタ様から離れたくないわ。普段どのように過ごされているか、是非知りたいわ! ビオレッタ様はこんなに可愛らしいんですもの! さぞかし素敵なお部屋があるのでしょうね」


宰相が青ざめる。ふぅん、この男はわたくしがどんなところで暮らしていたか、知ってるのね。


大丈夫よ。わたくしは国王陛下に忠実な正妃ですもの。


「ビオレッタはみなさんの顔を見ている方が楽しそうですわ。ねぇ、ビオレッタ。今はここにいても大丈夫よね?」


「あー、う」


「きゃあ! 可愛い! 可愛いわ! ねぇ、やっぱり乳母のマリーさんは必要よね! こんなに可愛い子をお育てになるなんて、さぞかし優秀な方なんだわっ!」


多くの王妃様の声を無視できるほど、この国は大国じゃないわよねぇ。宰相が慌てて人を手配し始めた。あらあらダメよ。人に頼るなんて。


マリーの住所を伝えて、陛下を煩わせなくて良いわ。きっと側妃様が来るよりマリーが来る方が早いわと微笑んだら、宰相が慌てて走りだした。


そうそう、人任せは良くないわ。ちゃあんと自分で動かないと、ね。

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