第18話 ノワを探して

 俺についてこいとばかりに駆け出したパンプを追ってどれくらい経っただろうか。運動不足の若者二人とゾンビのお爺さんが猫の走るスピードについていける訳もなく、早速見失ってしまった。

「僕たちは、なんて情けない」

「言わないで、傷つくから」

「しまらないのう」

「まったく、しかたないね」

 最後にそう言ったのは祈りさんだった。

「祈りさん、どうしてここに」

「ここ、教会の前だから。パンプがきたよ」

 祈りさんがそういうとその後ろからパンプがのそのそ歩いてきてニャア。

「そうだったんですね、よかった」

 プライドがズタズタに切り裂かれるところだった。こんな非常事態の時に。

「それじゃあ祈りさんも一緒にきてってことですかね」

「そうみたい、私も気が気じゃなかったし、行く」

「ありがとうございます、行きましょう」

「ニャア」

「待ってください、やっと追いつきました」

「変身さんっ」

「公園で皆さんを見かけて追いかけてきたんですが、運動不足で」

「揃いも揃って」

「言わないで祈りさん」

 そんなこんなで駆け出すパンプの後ろ尻を追いかけて三千里、なぜか私たちはとある火力発電所の前にいたのだった。


「ここって火力発電所ですよね、そう書いてあるし」

 高く聳える煙突からもくもくと青空に煙が出ている。

「なんでこんなところに」

 私と変身さんが首を傾げる。祈りさんとお爺さん、花せるさんは何やら複雑そうな顔をしている。

「ここはの若造、わしたちと同じ魔法使いがいる場所じゃ」

「あ、それ、教科書で読んだことあります、火を噴き続けている人がいるって」

「そうじゃ、その男がこの火力発電所で働いておる」

「そうなんですね。でもその人とノワとどういう関係が」

「それはわからんがの。今は何も手掛かりがないんじゃ。パンプについていくしかないじゃろう」

「でもこんなところ関係者以外立ち入り禁止に決まってますよね」

 通行人もほとんどいない正面玄関でたむろしてたら警備の人でも呼ばれてしまいそうだ。

「つまり僕の出番ってわけですか」

 変身さんがみんなの前に立ってなんかかっこよく振り返る。

「パンプもこの先に行こうと言っているみたいですし、僕なら変身できればどこにだって入れます。まあ一度きりの切り札ですけど」

 そう言った変身さんの肩にパンプがぴょんと飛び跳ねて乗っかる。なんかかっこいい。でもこんなところに入ってどうするんだろうと思ってみんなで待っていると、スタスタと変身さんとパンプそしてあと一人の男の人が歩いて建物から出てきた。

「さあ、早くここを離れましょう。じきにばれる」

「ぐわあ」

 ぼうっと火を噴きながら何かを言った男の人、つまりこの人が火を噴く魔法さんらしい。危なかっしい。火力の調節を頑張ってやっているみたいだけれど口元からばちばちと音を立てて火が漏れ出ている。なんで口の中無事なんだろうと不思議がっていると、変身さんが早く行きましょうSさんと急かすので、私たちは急いで再びパンプの後ろ尻を追いかけたのだった。


 パンプの後を追って次にやってきたのは湾岸部にある大きな倉庫だった。なぜか倉庫の鍵は開いていて、私たちは中に入ることができた。中には誰もいなかった。ここに来るときもほとんど人目に付かずにやって来れたので、パンプがそういうところを選んでやってきたのだということが分かった。とても優秀な使い魔だなあ。普段滅多に姿を見せないけれど、どこで何をしていたのか俄然気になってきた。とまあそれはさておき、倉庫の中には果たして何があったのか。

「これは、気球、でしょうか」

 大きなバルーンがついたカゴ、気球がそこにはあった。

「これ、もしかして、もしかしないですよね? パンプ?」

 私は高所が苦手なので嫌な予感を覚えてすぐにパンプに確認すると、

「何を馬鹿なことを言ってるんだにゃ? 乗るに決まってるにゃ!」みたいな感じで鳴かれてしまったのだった。いや、本当にそう聞こえたんだけど、なんだこれ、そういう魔法だろうか。私がショックでふらついていると、

「みんな揃ってるね、よく彼を連れてきてくれたよ」

 倉庫の入り口から過去さんがやってきた。いつもの素敵なお洋服ではなく今日はぴちぴちのライダースーツを身に纏っているので一瞬誰だか分からなかった。

「過去さん、どうしてここに」

「私だけ除け者なんてずるいから。なんてね、パンプから話は聞いていたの」

「この猫やっぱり話せるんですね」

「滅多に話さないけれどね」

 言いながら過去さんがみんなと気球の前に立つ。

「みんな準備はいい? これからこの気球でノワを助けに行くよ」

 なるほど、だから火を噴く魔法さんを……ってどういう仕組みの気球なのだろうか。考えると怖い。

 そんなこんなで、ここからはダイジェスト的記憶しか残っていないけれど、それはそれは死と隣り合わせのフライトになった。全員生きて地上に着陸できただけでも奇跡というほかなかった。それも全部パンプの指示通りに運行したのだけれど、この猫本当に只者じゃない。とりあえず私たちは上陸した。どこに?

「ここはどこですか?」

 気球の上からはそこまで大きくない島がいくつも連なってできた群島が見えていたけれど、果たしてこれはどこなのだろう? そう思ってあたりを見渡していると、遠く山の方の道から誰かが手を振り振りして走ってくる。おーい、みんなー、と駆けてくるのは何を隠そう、私たちが助けにきたノワだった。

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