第2話 ステータス
朝食が終わるや否、あおいは身体の主であるフェイ・ヴィルヘルムの自室に戻った。
そして部屋の中にあるアンティーク調の椅子に腰かけると、一息ついた。
「さてと、改めて状況の整理してみるか」
あおいは手をおずおずと挙げた。
「……ステータス画面とか出ないか。
ゲーム画面ではアイコンとかがあってそれをクリックすればそのキャラクターのステータスとか確認できたんだけど。
ゲームの世界に居る以上そんなアイコンなんて存在しないだろうし、こう空間に手をかざせば何かが出てくるかなと思ったけど……フェイが本来ゲームに出てこないモブのキャラクターということが原因しているからとか?
そもそもやり方が違うのかな? 手をスライドさせるとか?
声に出すとか……? 」
あおいは椅子から立ち上がると、部屋のドアを少し開けた。
そして顔を少し覗かせると、キョロキョロと長い廊下を見てから静かに部屋のドアを閉めた。
あおいはコホンと咳をすると、今度は手を思いっきり挙げてみた。
「ステータス確認(小声)
んんっ、発音が良くなかったかな?
ステータスチェック? (小声)
……いや、今のは恥ずかしすぎる。
なにステータスチェック? って確認をカッコよく英語で発音してみただけじゃないか!! 」
あおいは自らにツッコむと挙げていた手を降ろし、はぁーと深く溜息を吐いた。
「……もしや脳裏に声が浮かんでくる様式なのではないか?
お、いいね。これはいい事気づいたんじゃない?
こう念じると急に選択肢が出てくる………いや、出てこないな。
むしろ眉間に皺を寄せすぎて、逆に変な筋肉使って疲れてしまった。
やれやれ、なんて不親切な仕様なんだ。
これじゃあ、全然この乙女ゲームに異世界転生してしまった意味もこの身体の本当の持ち主であるフェイ・ヴィルヘルムがどうなってしまったのかがわかんないじゃないかーい……って一人でぶつぶつ言っててもしょうがないですけどね」
一応あおいはこの部屋に戻る際にメイドのセシアにあまり不審がられない様に色々と尋ねてみた。
セシアが心配してヴィルヘルム家の父と母にでもまたフェイお嬢様が~なんて泣きついてしまったらまずいというよりめんどくさいと思ったあおいは「まだ少し寝ぼけていて、思い出せないことがあって」と付け足してフェイ・ヴィルヘルムは昨日館の中で何をして過ごしていたか。
そして何かいつもと違う事が起こったのかと尋ねてみた。
「そうですね。
昨日も朝昼晩としっかりとお食事を取っていましたし、アフタヌーンティーと焼き菓しもお食べになっておりましたよね。
あの焼き菓子またご一緒に作りましょうね! 」
「あぁ、うん」
本当にフェイ・ヴィルヘルムはセシアと仲が良いというか、この家の人々は使用人も含めて本当に仲がいいのだな。とあおいは思った。
「ヨハン様ともヨハン様のお部屋で仲良くお話したとセシアに話してくれましたね」
「え、ヨハンとフェイが? 」
あおいは驚くとセシアの方に顔を向けた。
セシアは首を傾げる。
「いや、ごめん。
そういえば……お話したかも? 」
あおいは目を泳がせながらそう言うと、セシアは話を続ける。
ヨハンはヴィルヘルム家のことを嫌っている設定だから自らの部屋に招いて
さっきも目が合って、微笑まれたが、そのあと挨拶もされないまますぐにそっぽを向かれた。
食事中もヨハンは少し朝食を残し、すぐに自室に戻って行ってしまった。
あんまり姉弟で言葉交わす程仲もよろしくないのだろうと感じたのだが……勝手な憶測だったか。とあおいは納得した。
「あとはお庭でお嬢様のご趣味でもある花を愛でまして……」
はい、出てきました。
趣味 花いじり
あおいは唇をぐっと紡ぐと、廊下の窓から屋敷の庭を見た。
正直花の種類は分からないが、庭は綺麗に剪定されており、花も多くの種類が咲きほこっている。
あおいも営業として日々忙しい毎日を過ごしていた。
休日も夫婦共々インドアなので、あまり外出は多くなかった。
付き合い始めた当時にフラワーガーデンに行ったとき以来、花なんてまともに見てなかった。
まぁ、綺麗な花を眺めるだけの時間もいいのかもしれない。
「そのあといつものお時間に就寝されましたよ。
何かいつもと変わったことはなかったとセシアは思いますが……
もしや、お嬢様具合が昨日からよろしくなかったのですか!?
セシアはお近くにいたのに気づけず……! 」
「大丈夫でーす!
俺……違う、私はすごく元気!
セシア、ありがとう話してくれて、変な事聞いてごめんね? 」
セシアはあおいを部屋に送るまでずっと心配そうな顔で部屋のドアを閉めるまであおいの顔を見ていた。
「フェイ・ヴィルヘルムの身に変わったことなし。
じゃあ、昨日まで居たフェイ・ヴィルヘルムはどこに居るんだ?
あー…駄目だ。
考えても考えてもわからないことが多すぎる。
……とりあえず、フェイ。
今日から俺、相澤 あおいが
あおいはそう言うと、無意識にぺこりと頭を下げた。
すると、部屋の扉からノック音が聞こえ、あおいは慌てて扉を開けた。
扉の先には義弟であるヨハンが立っていた。
ヨハンは食事を取っていた時とは違い、白いシャツに灰色のブレザーを羽織っていた。
「……姉さん、まだそんな軽装でいらっしゃるんですか?
セシアが言うには姉さんはご自身で身支度をされると聞いていたのですが」
ヨハンは溜息を吐くと、あおいの方をじっと見る。
ヨハンに言われ、あおいは頭の片隅にあった記憶を思い出す。
そうだ、あれから部屋に着くまでセシアがあおいのことを心配しながらも他にも色々話していた。
確かにセシアに制服に着替えるのをお手伝いいたしましょうか。と言われた気がしなくもない。
「あー……申し訳ない」
「もう学園へ向かう馬車が到着されているのに、姉さんが中々来られないので僕がわざわざ呼びに来たんです。
久しぶりに長い期間帰省されてゆっくりされていたいのはわかりますが、貴女はもう少し状況を把握して、考えて動いた方がいいですよ。
……義父様も義母様も外で姉さんのこと待っていますよ。
では、僕は先に外に行っています」
ヨハンはそう言うと、踵を返し歩いていってしまった。
あおいはヨハンの後ろ姿を見ながら、首を少し傾げる。
「……なんか、やっぱりこの姉弟の仲、違和感を感じるんだけどな。
ヨハン、ゲームと雰囲気が少し違う気が……?
ヴィルヘルム家でのヨハンはあんな感じなのか? いや、でも食事の時とも違うような……気のせいか」
あおいは頭も掻くと、ヨハンの後ろ姿に向かって手を向けてみた。
「……ステータス、確認」
【ヨハン・ヴィルヘルム
2月15日
五爵の二番目侯爵ヴィルヘルム侯爵の長男。
ヴィルヘルム家に跡継ぎが生まれず、5つのときヴィルヘルム家に養子として迎えられる】
あおいの目の前にゲームをプレイしていたときに出てきた攻略キャラのステータス画面が現れた。
「おぉ、やっぱり主要キャラのステータスは出てくるのか。
だけど……」
養子として迎えられる以降の文章は黒塗りで隠され、確認することができない。
これもゲーム通りだ。
攻略キャラクターと親密になっていくことで、少しずつ隠されている要素が判明していく仕様。
流石にあおいもゲームはクリアしたが黒塗りの部分がどんなことが書かれていたかは攻略キャラ全員分いちいち覚えていない。
「まぁ、そんなこと思い出してもしょうがないだろ。
なんていったってこの乙女ゲームで俺のポジションはユリスと攻略キャラを見守る側だからな! 」
おあいは急いで用意されている制服に袖を通し、部屋を出ると長い階段を駆け下りる。
馬車の近くには父母、ヨハン、使用人が数名あおいの到着を待っていた。
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