異世界だって楽じゃない

熱眠まくら

序幕

序幕 ある夜の話

「眠い。」


目を覚まして第一声。市内某所の駅前にある噴水広場のベンチに座って、点滅を繰り返すネオンを見上げながら呟いた。

学校の帰り、少しだけしか眠らないと決めたはずなのにもう夜だ。時間の流れはとても早い。

そして間違いなく俺、本宮晴(もとみやせい)は妹に怒られる。

「この前の凶器はミキサーだったか・・・今回は何持ち出してくるかな・・・」

ここ最近は妹に怒られてばかりだ。

なんらかの凶器を持ちながら怒るからとても怖い。

いつからあんなになっちゃったんだろ?

・・・まあそんなことどうでもいいか。

そんなことよりも疲れた。

今日という日を言葉で言い表すなら『勉強』という二文字で事足りるくらいだ。

頭が働かないのは十中八九そのせい。今日も受験に備えて勉強中だったからね。

勉強してると疲れが面白いぐらいにたまるのを実感できるよ☆

「なんでいい会社に就職するためにはいい学校を出てないといけないんだよぉ・・・」

許すまじ学歴至上主義の社会。

許すまじ凡人以上天才以下の俺の頭脳。

「あー、もう・・・願い事をなんでも叶えてくれる的な物が出てこないかな・・・あったら妹だけでも幸せにしてもらうのになぁ・・・」

でもここはあいにくアラビアンナイトの世界でもドラゴンなボールが7つある世界でもないからして、そんなアイテムは存在しない。

現実見ようや受験生。

ラノベの世界じゃねぇんだぞ。

「・・・はぁ、そろそろ帰らんとね。」

妹がさっきからLINEの通知をピコンピコン鳴らしてきて非常にうるさい。まったく、人が疲れているというのに容赦のない妹だ。

案の定LINEには

「今どこ」やら「帰ってきて」やらの100件近いメッセージ。それと不在着信が82件。寝てる間にかかってきたのか。俺の妹は心配性だなぁ。心配してくれる妹に恵まれてる。とても幸せだ。

「ケーキでも買って帰ってやるかな・・・」

そう考えて立ち上がる。さっきまで立ち上がる気力もなかったのにみるみる元気が湧いてきた。

俺の手元には先日入ったバイト代がある。

ラノベを一冊諦めればケーキぐらいは買えるだろう。


ん?その金を家計の足しにしたらどうかって?足しにしてるぞ?妹のために。

シスコン?なんとでも言え。俺は妹のためなら何でもできる。

それだけが取り柄なくだらない人間だ。

笑いたきゃ笑え・・・自分で言ってて悲しくなってきた。


「・・・っし、頑張ろ。」


家に帰っても勉強と妹しか待っていないが今それを考えても仕方がない。

「頑張る」と言う以外に形容する言葉が見つからないという国語能力的な問題もある。ほんとに受験大丈夫かな・・・?

ちょっと不安にはなったが、気にせずに、今から帰るというメッセージを送り、歩き出す。

頑張って、頑張って、天国にいる親にも、迷惑をかけてる篝にも、顔向けできるようになる。ずっと前にそう決めたのだ。今更諦めたりはしない。


「親父、母さん。見てろよ。俺はやりきってみせるから・・・」


そう呟いて小説の主人公みたいに夜空を見上げる。


そして目を見開く。


___夜空は決意を新たにした俺に贈りものとして電車を贈った。そう考えるとロマンチックだ・・・無理があるか。


次の瞬間俺の身体は突如として空中に出現した四両編成電車の質量によって木っ端微塵になった。

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「これ?たった今死んだっていう人間風情は。」


窓から月明かりが差し込む部屋の中で床に映された影の一つが質問をする。

言葉使いがすこぶる悪い。そんな態度で質問に答えてもらえるんだろうか?


「人間風情などと言ってはなりませんよ姉上。この間本で見つけた言い回しを多用し

たいのはわかりますが神として、母親として自分の子にはそのような言葉を使うべきではありませんよ。」


どうやら質問には答えてもらえたようだ。もう一つの影は結構寛容のようだ。


「人間風情は全部私の子供だなんて古い神話をどこから拾ってきたの?あたしは人に言われたからってほいほいって恩寵を授けるほど聖人様じゃないんだよ。」


おい!怒られても知らんぞ!


「そうでなくとも私達の勝手に付き合ってもらうのです。何らかの福利がなければ反抗されても文句は言えませんよ。・・・威圧を使わないでください。私には意味がないとわかっているでしょう?動物たちが怯えているではありませんか。」


片方の影が心配そうに見た先に視線を移せば周囲には見たことがあるような動物や、見たことがない動物が縮こまったり丸まったりして各々の怖れの形をとっている。

てかなんでこいつら俺を無視してるの?いじめですか?


「あんたと動物みたいにしろっていうの?めんどくさいな・・・そうだ!存在を変えよう!」


無視すんなて。


「・・・業人にでもするつもりですか?」


「忌み者になんてしないよ。何?あんたあたしがそこまで駄目なやつだと思ってる?」


「ええ。姉上は神になりたてですから。」


「肯定したわね?まあいいわ。教えてあげる。」


「計画はこうよ。多少の隠蔽工作を施してあたしの権能が届く範囲で超人にするの。」


「人間風情にここまでするのはなんだか癪だけどね。」


「えぇー・・・私は知りませんよ。また父上様に怒られても知らないふりをしますから。」


「良いわ別に。その時は謹んでお叱りを受けるわよ。」


「ただ、うっかりその人の子に私の子供達の力を与えてしまう可能性はなきにしもあらずといった感じです。可能性はありますがどうですか?やってみます?」


「ふっふー、それでこそあたしの妹よ。」


そう言って双方暗い部屋の中でニヤリと笑った。いや、なんか俺のこと無視して思いっきりなんか企んでるけど何?俺なんかに聞かれてもどうでもいいってこと?泣くよ?泣いちゃうよ?


「さっきからうるさいわよ人間風情。」


お、やっぱり聞こえてんじゃねぇかよ。なんで無視してたんだよ。悲しいだろ?


「黙れ。さっさと堕ちろ。」


その途端、俺の意識はブラックアウトした。

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