033 「あたしみたいに一人で使えたら、旅行し放題だけどね」
わたくしとハニー先生は、城から少し離れた場所でロウランファランカの人を待っておりました。
そこは、沢山のお花が植えられた場所で––––あっ、今気が付きました。
この花は、寮のモチーフになっている花ですね。
黒いダリアに、青いバラ、そして白い百合の花。
なんか、いい場所ですね。
「セキュリティの都合でさ、城の外からの移動魔法、及び転送魔法は、この地点にしか出来ないようになってんの」
前に読んだ本にその様なことが書かれていた記憶があります。
確か––––。
「戦争が関係してるんですよね?(アレだろ、戦争のせいだろ)」
「お、よく勉強してんね」
ハニー先生に頭をワシワシと撫でられました。
以前でしたらハニー先生といえど、頭を撫でられるなどブチギレ案件でしたが––––今は毎日ヘアセットをしてもらっていますので(つまり毎日頭と髪を触られてます)、むしろ心地よく感じました。
慣れって怖いですね。
「移動魔法で攻め込まれたりしたら、大変だからねぇ」
「移動魔法って、アレですよね、ファイヤーしちゃった時の(その魔法はあの時のやつだろ?)」
「そ、好きな場所に移動出来るけど、難しい魔法で、魔力消費も大きい上、移動距離が伸びれば伸びるほど魔力消費も上がるから個人で使う人はあんまり居ないんだけどね」
「? それでしたら、警戒する必要は無いのでは?(なら、別に怖くなくね?)」
だって、使える人が少ないのでしたら、そこまで怖くないと思いませんか?
大部隊や、大人数が一度に攻めてくるならまだしも、一人や二人なら、全然脅威だとは思いませんもの。
「それがねぇ、移動魔法を個人で使えるような魔法使いは、一人で城を落とせるの。だって、使える時点で、能力の高い魔法使いなのが確定してるんだから」
あ、そうでした。
そもそも、先の大戦もたった一人の魔法使いが終戦に導いたのですから。
一騎当千が当たり前に出来るのが魔法でしたね。
「でも、便利な魔法だから、移動魔法士ってのがいてね、移動魔法を使ってさ、移動場所が固定な代わりに、距離に応じてお金を払えば、長距離も一種で移動出来るよ」
「こちらで言うところの車や電車、飛行機など替わりというわけですね(なるほどな、バスとかタクシーとかの替わりか)」
「そっ、戦後に出来た術式なんだけど、複数人の移動魔法士が必要ではあるんだけどさ、大人数を一度に送れる魔法が近年出来たの。コレが出来てから、色々便利になったんだよねー」
戦時中に出来たら大変なことになってたね、とハニー先生は言います。
「さっきの話に戻るけど、今なら大部隊を戦場に一発転送とか出来ちゃうし、相手の急所となる都市部にも一瞬で進撃出来ちゃうの。だから、色々な国で移動魔法の使用は厳しく制限されてるよ」
「便利なものだからこそ、悪用も出来ると(バカとハサミみたいなやつか)」
「そうだね、魔法も結局は使い手次第なの。便利な魔法も使い方を誤れば、大きな悲劇を産むし、逆に上手に使えば人々の役に立つからね」
わたくしのムカ着火ファイヤーも上手く使えば、人々の役に立つのでしょうか。
うーん、
「ちなみに田舎とかだとね、一週間に一回、移動魔法士の団体さんがやって来て、希望の場所に送ってもらう感じだよ」
なるほど、自分の移動は自分で出来るので身一つで現場まで行って仕事をすると。
「ま、あたしみたいに一人で使えたら、旅行し放題だけどね」
それはいいかもしれません。
休日とかにふらっと観光地に出向いて、美味しい物なんか食べて、お土産なんか買って、日帰りで帰ってきて。
って、めちゃめちゃいいじゃないですか!
わたくしは恐る恐るハニー先生に
「わたくしも一人で移動魔法が使えるようになりますか?(あたしにもそれ出来っかな?)」
「出来ると思うよ」
「本当ですの!?(まじで!?)」
え、本当に出来ますの!?
な、なら、わたくし日帰り旅行し放題ですの!?
それはテンション上がっちゃいますね!
「千夏ちゃんは、お母さん譲りで、魔力量も放出量も多いから、コントロールさえ学べば、何でも出来るようになると思うよ」
だから授業はちゃんと聞いてね、とハニー先生はわたくしのことを見透かしたように笑いました。
「あ、来たみたい」
と、ハニー先生は前方を指差しました。
複数の魔法使いが、その地点にパッと現れ、こちらに気が付くと、一人の魔法使いが進み出てまいりました。
シンプルな黒いローブをキッチリと着こなし、後ろで纏めた髪に、赤いアンダーリムのメガネをかけた厳格そうな若い女性です。
「おはようございます、ロウランファランカ社、リネアヴィア科所属、室長の、サテラ・フィオミレビアです。商品の引き渡しが遅くなってしまい、大変申し訳ありません、ご注文の品をお持ちいたしました」
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