028 「詠唱や呪文が短い文字数になるように工夫されてるの」
「でもさ、センスのある魔法を作れる人って、ちょっと憧れちゃうなー。ハニー先生の魔法とか、論理的で素敵じゃない?」
「そうですわね(え、あ、そうだな!)」
論理的という要素はちょっと分かりかねますが、とりあえず同意しときました。
「魔法って、論理派と感覚派がいてね、ハニー先生はガッツリ論理派なの。私も結構論理派だから、ハニー先生の魔法はかなり参考にしてるの」
「論理的な魔法とは、どのようなものですの?(その論理的ってのは何なんだ?)」
「んー、詠唱とか呪文が機能性や効率性を重視してて、複数の状況に一つの魔法で対応出来たり、詠唱や、呪文名が短い文字数になるように工夫されてたりするの」
そういえば、ハニー先生がわたくしのムカ着火ファイヤーを消した時の呪文『シア』は、二文字です。
それだけ文字数が短ければ、唱えるのも簡単ですし、素早く繰り出すことも可能です。
ふむ、ムカ着火ファイヤーは長過ぎますかね。
わたくしも『おこ』とかにしてみましょうか。弱火になってしまいそうですが……。
逆に『カム着火インフェルノォォォォオオウ!』にしたら更に威力が上がったりするのでしょうか?
今度、ハニー先生に聞いてみましょう。
「逆にセリナちゃんとかは、相当な感覚派だよね、あの即興の詠唱は本当にビックリしたもん」
あの意地悪なディアトマーレ先生も、セリナの魔法は素直に褒めてましたね。
「その、論理派とか、感覚派とか、イマイチよく分かりませんわ(フラン先輩が悪いわけじゃねーが、さっぱり話の内容が分からん)」
フラン先輩は顎に人差し指を当て、少しだけ考えてから、
「んー、料理に例えるなら、レシピを作るのが論理的な魔法になるかな。この食材をこのくらい使って、こういう工程で、こう作れば美味しい料理が出来ますよ、みたいな? そのレシピを知っていれば、程度はどうあれ、誰でも美味しい料理が作れますよ、的な」
なるほど、わたくしもクックパッドとか見て料理したことありますわよ(とても美味しく出来ました)。
「逆に感覚的な魔法は、冷蔵庫を開いて、中に入っている食材の中から、有り合わせの物で美味しく作る感じ。単純に料理のスキルや、知識があるからこそ出来る調理法だよね」
ふむふむ。この説明は、とても分かりやすいですね。ディアトマーレ先生ではなく、フラン先輩の方が先生に向いてますね。
わたくし達の世界で言うところの、理系と文系のような感じですね、きっと。
「では、ベルサイーネ先輩どっちですの?(あのゴージャス先輩は?)」
「ベルサイーネは両方出来ちゃうの、論理と感覚の良いとこ取り、流石に主席なだけはあって、ちゃんと天才なんだよね」
頭の中でベルサイーネ先輩が「おーほほほほほっ!」と自慢するように笑い始めましたので、首を振りかき消しました。
あの先輩、インパクトが強すぎですわ。
「ベルサイーネはね、将来的には、工房を持って、芸術家になりたいんだって」
「それは、魔法でオブジェクトとかを作りますの?(なんか彫像とか作るのか?)」
「そう、あとは魔法自体が芸術みたいなものだから、そっちもやりたいみたい」
魔法が芸術。
音楽が音の芸術で、文学が文字の芸術であるように、魔法も芸術。
ちょっとわたくしには理解出来ない世界ですわね。
「ベルサイーネって、魔法陣の形にまでこだわってるんだよ」
「アレって形を変えられますの?(おいおい、固定じゃないのか、あれは)」
「変えられるよ。もちろん、魔法陣が変わると魔法式も変わっちゃうから––––あ、この話難しい?」
わたくしの表情を見て、フラン先輩は苦笑いをしました。
「んー、よく例えられるのは数式かな。『1+1=2』の答えである『2』が魔法として現れる事情で、『1+1』の方が魔法式。起こしたい現象を『2』と仮定するなら、『2×1』でも、『3-1』でもいいの。要するに、答えが同じになるなら、どんな計算式でもいいの」
ま、まあ、さっきよりは分かりますわね。
流石のわたくしも、この程度の計算なら出来ますわよ?
「ベルサイーネはね、魔法の効率や効力が多少悪くなったとしても、魔法陣の美しさを取るの。本人にしか分からない謎のこだわりだよね」
フラン先輩はわたくしの顔を見て、再び苦笑いを浮かべました。
「難しい?」
「わたくしにはまだ早かったと思いますわ(さっぱりだ)」
フラン先輩は基礎呪文集のページを再びパラパラとめくりながら、「そうだなぁ」と呟き、
「本で例えるなら、物語が多少つまらなくなったとしても、10万文字ピッタリにする感じかな」
ふむ、妙なこだわりだというのは理解出来ました。
ベルサイーネ先輩は変わった人だなとは思っていましたが、将来は芸術家さんになりたいと。
まあ––––芸術家は変わり者が多いと昔から言いますし、案外向いているのかもしれません。
「将来といえば、フラン先輩はどうしますの?(あんたは来年どうすんだ?)」
「私? 私はね、えっと、その、……生になりたいかなって……」
「はい?(何て言った?)」
声が小さくてよく聞こえませんでしたわ。
「んっとね……先生になってね、ここで魔法を教えたいなって……」
「それは……それは、とてもいいと思いますわ!(いーじゃん!)」
それは、本当にいいと思います。
だってフラン先輩は、例え話を用いて、わたくしのような魔法初心者にも分かりやすいように話してくださいました。
「わたくし、フラン先輩は人にモノを教えるのがとても上手だと思いますわ(あんたの話は、あの意地悪な先生よりも分かりやすかったぞ)」
少なくとも、ディアトマーレ先生より、はるかにいいですからね。
「そ、そう?」
フラン先輩は照れたように、前髪を触ります。
「そうですわよ、フラン先輩はいい先生になれますわ!(ああ! あんたいいセンセーになるよ)」
「ふふっ、クリスティーナちゃん、ありがと」
嬉しそうに笑う、フラン先輩。
なんなら、今すぐディアトマーレ先生と交代しても構いませんわ。
あの先生の説明は、本当に何を言ってるのか分かりませんでしたから。
なーにが、術式解体ですか。
わたくしのムカ着火ファイヤーも解体出来なかったくせに。
「わたくし、フラン先輩に魔法を教わりたいですわ(あたしは、あのクソ先公よりも、フラン先輩に魔法を教わりてーよ)」
「え、ほんと?」
「本当ですわ!(おう、たりめーだろ)」
「ん……ならさ、今日みたいに時間のある時で良かったら、授業で分からないところとか、気になったところ、教えられる範囲で教えて、あげようか?」
「ぜひ、お願いしますわ!(お、頼むぜ! あとドーナツもな!)」
こうしてわたくしは、週末の臨時講師と、美味しいドーナツを手に入れたのでした。
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